第6話「先輩が少し戸惑ってる」

 居酒屋から出て十分と少し、色々と話をしながらやってきたのは三苫さんの住んでいるアパートだった。


 特別高そうなわけでもなく、普通の大学生が住むような普通のアパートだったが俺のボロボロなアパートよりかは目新しいのでおそらく新築だろう。とはいえ、家賃は4、5万行くか行かないかくらいなのでリーズナブルな方だ。


「凄いな、俺の家とめっちゃ近いな」


「そうなんですか?」


「あぁ、あそこにコンビニがあるだろ?」


「え、あぁ、あそこ」


「俺の家はあのコンビニの裏側なんだよ。帰る方向が同じだからもしかしたら――って思ってたけどまさかな……」


「(まぁ、狙っていたんですけど)」


「ん?」


「いえ、偶然もあるんですねっ」


「あはは……でも、こんな近くに先輩が住んでると嫌じゃないのか?」


「いやいや! そんなことありませんよ! むしろその、嬉しいっていうか……最高ですっ!」


 両手をぎゅっと握り締め笑顔でそう言う三苫さん。

 さすがにあざといな。他の男がやられたら勘違いしてもおかしくないほどだ。


「それは、良かったよ……まぁ、なんか分からないことがあったりしたらすぐに呼んでくれ」


「はいっ!」


 元気な返事が聞こえて、少しホッとした。これで嫌だとか言われたら結構傷つくしな。良かった。


 アパートの階段を登り、玄関の前にやってくる。


「先輩、どうかしたんですか?」


「え、いやぁ……ちょっと緊張して」


「かわいいですね」


 悪戯な笑みを受けられるが実際のところ、後輩の家に入るのは緊張する。別に変な気持ちがあるわけでもないし、女子の家に入ったことがないわけではない。


 ただ、久々に再会した女の子の家っていう響きと、何か間違いでもあるんじゃないかと変に期待する気持ちがあってやっぱりドキドキする。


「ま、まぁ……」


 これだから童貞は、自分でそう思う。

 頭をぽりぽりかいて苦笑いを見せると三笘さんはキュッと腕を寄せて、上目遣いでこう言った。


「何もしませんから、大丈夫ですっ」


「あ、ありがとう……」


 今、胸当たってるんだよなぁ。こういうところ、あざとかわいいぜ、まったく。



 鍵を開けて、ドアを開ける。


「おじゃま、します」


「おじゃまされます」


 俺は三笘さんの部屋に入った。


 中に入ると心なしかいい匂いがして、やっぱり女の子の部屋なんだなと感じる。


「あ、スリッパとかないですけど……すみません」


 ペコリと頭を下げる彼女。特段気にしてないので「大丈夫」と答える。


「えへへ、だらしなくてすみません」


「いやいや、俺の家にもないし、気にしないで。というか、気にもなってないから……」


「そうですか……なら、良かったです」


 微笑みにやられそうになり目を逸らす。靴を脱いで揃えて、リビングの方へ向かった。


「とりあえず、ソファーに座ってください」


「え、あぁ」


「何か飲みますか? ちょっと歩きましたし」


「別に大丈夫だけど、じゃあお言葉に甘えて」


「っぷぷ、なんでかしこまってるんですか」


「緊張してるから、かな? ごめんね、先輩なのにみっともなくて……」


「さっきも言いましたけど、可愛いいのでOKですよ? なんなら、むしろもっと可愛くなってもいいんですよ?」


「そ、それは勘弁」


「冗談ですっ。じゃあ、麦茶持ってきます」


「ありがとう」


 そう言うと三笘さんはテクテクと台所へ歩いて行った。

 お茶を汲んでいる間、ソファーに座って待っている。スマホをいじるわけにもいかず、周りをぐるぐると見回していた。


 しっかり整理整頓されていて、汚いところは何もない。節々に生活ができるぞ、っていう家庭的なところが垣間見える。


 なんなら、俺よりも一人暮らししてきてるんじゃないかって思うくらいだ。さっき、何かあったら言ってくれとは言ったが俺が教わりたいくらいだった。


 ただ、ソファーにぬいぐるみがあったり、化粧道具が少しだけ置かれているところを見るとやっぱり女の子なんだなと分かる。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうっ」


「えへへ、なんかこうして先輩に色々見られるのって少しだけ恥ずかしいですねっ」


「あぁ……ごめん。ちょっとソワソワしちゃって」


「あ、もしかして興奮してますかっ?」


 そう言うと彼女はニヤッと笑みを浮かべて俺の肩に顔を乗せる。


「え——ちょ」


「近づかれるのは嫌ですか、せーんぱい?」


「っそ、そういうわけじゃ……っちょ」


 ぎゅっと押されて胸が背中に当たる。というよりも当てられている。なんだ、この感じ。ちょっとさすがにやってることが——。


 そう思って逃げようとすると、彼女に方からそそくさと離れていく。極めつけには人差し指を口元にくっつけて「じょーだんですっ」と言ってきた。


「それじゃ、先輩。教えてくれませんか?」


「……ぁ、あぁ」


 駄目だ。

 この子が何を考えているのが分からなくなってきた。










 小一時間ほど雑談を交えながら説明していき、時間が0時過ぎを回ったところで俺は帰ることにした。


「ここで寝ていってもいいんですよ?」


「いや、さすがにそれはやばいから帰るよ」


「そうですか? 別に私と先輩の関係ならヤバくないと思いますけど……?」


 真面目な顔で言い返してくる三苫さん。いや、別にめっちゃ仲がいいわけではないんだけどな。と思ったが、さすがにそれを口に出すのは違う気がして言葉を変えた。


「——ま、まぁ仲良くないってわけじゃないけどさ。ほら、まだ再会してばっかりだしさ?」


「……あぁ、そうですね。とだし」


「ま、そういうことだな?」


「はいっ」


「じゃあ、明日塾長に話しつけておくからバイトの面接は日程が決まったら教えるね」


「はいっ。よろしくお願いします」


「うん、それじゃ」


「……あ、先輩。バック忘れてます」


「え、あぁ、ごめんごめん」


「はい、どうぞ……」


「ありがとう。じゃあ、またね」


 手を振る三苫さんに手を振り返して、俺は部屋を後にした。






<三苫涼音>


 今日はちょっと調子に乗っちゃったかな。まぁ、でも少しくらいはいいよねっ。

 ひさびさの再会なんだし、こうでもしないと私……おかしくなっちゃいそうだし。


 あ、そういえばお姉ちゃんに電話でもしておこうかな。


「もしもし、お姉ちゃん?」


『あれ、どうしたの~~すずじゃん?』


「聞いて聞いて、今日さ、私の事助けてくれたお兄さんに会っちゃった!」


『あぁ、そんなこと言ってたね。一緒の大学入ったって』


「お姉ちゃんよりいい大学入ったんだよぉ、凄いでしょ~~」


『はいはい、そういうのはいいから……ていうか、その人に怖がられなかったの?』


「え、なんで?」


『いや、だって。すずがどうやってその人がいる大学探したかしったらねぇ、さすがにびっくりするでしょ……』


「あぁ、めっちゃ聞きまくったし……高校生の時に大学行ったこと?」


『えぇ。というか、聞くならまだ分かるけど、大学歩き回って学科まで調べるんだもん』


「もちろん、でも理系だったのは少し残念かなぁ」


『そのひと的には良かったかもね』


「何言ってるの、お姉ちゃん? 私と先輩は赤い糸でつながってるんだよ? いいじゃん、そのくらい」


『まぁ、そうかもしれないわね……でもそういうことするのは控えなさいよ? やり過ぎるとすずが言っていた結婚が遠ざかるからね』


「分かってるよぉ。学籍番号だけだもん、最近調べたの」


『それが怖いのよ』


「えへへぇ、そんなことないよぉ」


『褒めてないんだけどなぁ……まぁ、健康に気を付けて。ほどほどにね。私これから夜勤あるから』


「はぁい」


 まったく、お姉ちゃんってば何言ってるのか。

 そのくらい普通でしょ? 

 将来の夫なんだし……。


 あ、そういえば今頃、先輩がに気が付いている頃かなぁ……。







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