第3話

 整理整頓されたきれいな部屋。

ガラスのテーブルにシンプルなベッド。

毛足の長い丸いラグに観葉植物が各所に点々と置いてある。

足の踏み場もない私の部屋とは大違いだ。

「はい、タオル。軽く拭いたらお風呂に入りな」

「うん」

「そういえば、名前は。なんて呼べばいい」

「み…ナミですナミ」

「そっか、ナミちゃんね」

「お姉さんのことはどう呼べばいいですか」

「あぁ自己紹介忘れてたね。私は白雪って言います」

「白雪さん」

「はい、じゃあ温まって来な」

渡されたタオルからは白雪さんと同じ良い匂いがした。

知らない人の部屋なんて危ないとは思うけど。

白雪さんはそういう危険な人ではない気がする。

久しぶりの湯船は沁みる。

口まで浸かり少し泣いた。

涙が出てこなくなると幾分すっきりした気がする。

電気の灯る部屋、人の気配、我が家にはない温もりがあった。

風呂から上がると可愛らしい寝巻きと豪華な夕食が待っていた。

ふわふわの着心地のパステルカラーのパジャマ。

湯気の出る白いご飯に豚肉の生姜焼き。マヨネーズも添えてある。

具沢山の豚汁に鮮やかな黄色のたくあん。

冷めたコンビニの弁当とは全然違う。

雨が止むまでのつもりだったけれど、

もうここからあの地獄に戻ることはできないかもしれない。

穏やかで心安らぐ場所。

「今日は私ソファで寝るからここで寝て」

奥の寝室にはおひさまの香りのする寝具が待っていた。

「泊めていただいているのに悪いです。私がソファで寝ます」

「若い子をこんなところで寝かせるわけにはいかないよ」

「いいえ」

「だめ」

「お願いします」

「わがまま言わないの」

「それじゃあ二人で寝ませんか」

「シングルだから二人じゃ狭いよ」

「でも、誰かと寝たことなくて」

「そうなんだ。それは叶えてあげたいけど」

ベッドで寝てくれないなら白雪さんは漫画喫茶にでも行くと

支度をし始めてしまったので仕方なくベッドを拝借することにした。

ふかふかのクッションを抱きしめて眠る。

朝、白雪さんに起こされるまで一度も目が覚めることはなかった。

白雪さんと家族になっている幸せな夢を見た。

現実になったら良いのに。

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