第2話

 仕事で嫌なことがあった。

人のことなんて関係ないことだと思うのだけれど。

やれ人と足並みが揃わないと人を論うのが趣味のような人間がいる。

実害を与えているわけではないのにどうして

あそこまで貶められなければいけないのか。

小さなことに目くじらを立てる上司の方がよほど人の邪魔をしているのに。

人生の大半を過ごす会社。日曜日くらいは休めたら嬉しいが。

出社は日が昇るより早く。退社は日付を跨いでから。

人間らしい生活には程遠い。

今日は上司の気に入らないことをしたようでいつもよりもさらに遅くなった。

最寄り駅に着くと雨が降り出す。

黙々と傘を鞄から出した。

らしくないと笑われても持ちたかった職場での心の支え。

帰路を急ぐ人々は皆一様に死んだ魚のような瞳で虚に歩く。

ふと、視界を掠めたのはうずくまる少女の姿。

土砂降りの雨の中、傘も差さず顔を埋めて座り込んでいる。

幼い頃に飼っていた猫に似ている気がした。

拾ってくださいと書かれた段ボールに入れられ放棄された小さな命。

手を差し伸べるのは温もりが欲しい自分のエゴかもしれない。

「そんなに濡れたら風邪引くよ」

ガーベラの花束の下で音もなく泣く少女。

猫みたいにうちの子になってくれたらいいのに。

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