第4話 指揮
いち、にー、さん、し。
ぎこちないが4拍子をふる腕はなんて正直なんだ。
たまたま、と云うか、その場のノリで俺に決まった。指揮者なんてしたことがないのに。
音楽を聴くのは好きだけど。カラオケに行くのだって好きだけど。でも指揮者となると別の話だ。
親父が高校の教師でサッカー部のコーチだったからか、小さい頃からでボールにしか触れてこなかった。楽器なんて習ったことはない。だから楽譜も読めない。一度だけ、ギターを弾いてみたいと父親に頼んだが、すぐ飽きる、と云って買ってもらえなかった。
4拍子って何? フォルテって何?
それでも、ただひたすらに音楽の時間に携帯で録音した合唱を聴いては帰り道でも、家でも練習した。もちろん美月の伴奏だ。繰り返し、繰り返し聴いて4拍子の腕を振る。最初は片手だけだったが、今は両手になり、なんとか様になってきた。
一人、鏡に向かって練習していると音楽室で美月に云われた言葉がふと頭をよぎる。
「意外と可愛い」
可愛いってなんだ。しかも意外と、って。
その場ではどう反応して良いか分からなかったので、「意外だろ?」とだけ返事をした。
でもなぜだろう。そこまで嫌な気はしない。
カッコいいにしろ、可愛いにしろ、褒められているわけだから。
それにしても美月のピアノのレベルには驚かされた。
楽譜を見ただけで弾けるなんてカッコ良すぎるだろ。
それなのに、俺は音楽の先生から怒られてばかり。
音楽の授業だって、帰りのHRの練習だって、みんなの目線が俺に集まる。指揮者だから当然と云えば、当然なのだが。
ソプラノとアルトは女子だし、女子をマジマジ見るのはなんか照れる。かと云って、テノールの男子に目をやると俺を笑わせてくるので、自然と目は透明人間か伴奏者の美月の方を向いてしまう。
だから怒られる。指揮者なのにどこ見てるのか!と。
それでも美月に目をやると、俺と目を合わせ微笑んでくれる。
あんなに理解不能な楽譜を弾きながら余裕なんだ
すげぇカッコいい……
あっ!
ズレた。というか、なんで2拍子になってるんだ?
俺はパチンと両頬を挟むようにして叩いた。
明日が本番だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます