第2話 二宮流星
「この気持ちはなんだろう?」
そう並木さんの前の席でそっと頭の中で呟いた。
並木美月。いつも冷静沈着で話せば気さく。ピアノをサラッと弾くカッコいい彼女に抱くこの気持ちは一体、何なんだ?
他の男子が馴れ馴れしく彼女と話すとなんだかムカムカして苛立つ。でも、その後すぐに、後ろから軽く彼女に肩を叩かれるとスッーと安らぐ。
いつから並木さんを意識し始めたんだろう。
俺は朝にワックスで整えた髪を弄った。
一番前の席から配られてくるプリントを受け取り、一枚取って、後ろの席の彼女に渡そうとした。彼女の指に自分の手が触れ、顔が赤くなってしまった。
思わずプリントから手を離してしまい、数枚のプリントが彼女の机の上に落ちた。
「……ごめん」
「ごめんなさい」と云う彼女は少しツンとして澄ましていた。
なんてカッコいいんだ、そう考えてしまう自分の気持ちがなんだか今にも溢れ出しそうだったので、すぐに前へ向き直しプリントを上から読み始めた。
「1年で、3年で、2年が……2組、5組、1組、3組、2年4組!」
目を見開きながら興奮して俺はまた振り返った。そして少しドキッとした。
微笑みを投げかける彼女に。
「並木さん!俺たち––––––」
「一番最後!」「一番最後」
ハモった。
「大トリだぜ。気合入るな」
「そうだね。あたしも間違えないようにしなきゃ」
「並木さんは大丈夫だろ。コンクールで賞も獲ってるし」
「そうでもないよ。あたし緊張しいだし」
「二宮くんがいないと」「並木さんがいないとさ……」
「いないと……」と聞こえた後、急に彼女がプリントで顔を隠した。俺、何か変なことでも云ったか、と頭の中で言葉が駆け巡る。
前を向かないと、と促されて少し戸惑った。
もっとと話してみたい。もっと彼女のことを知りたい。ピアノを弾ける彼女は俺の憧れだから。
けれどもそのまま喋ることなく朝のHRを終えた。
次に美月と話したのは帰りのHRでの練習。ただピアノの入りの確認程度だけだった。
歌に関しては合唱部が先頭を切って意見を述べてくれる。
結局、俺はただ腕を振るだけの指揮者。この合唱コンクールが終われば、サッカー部の朝練、授業、部活、寝る、の繰り返しだろう。
あぁ。合唱を指揮する腕のように……
素直になれたら。
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