第5話 お前も満更でも無さそうだし



「どうしたの?みんな。顔が硬いよ?」

 

 三人の思惑など気付きもしないウルリカが声をかける。


「カトリと同じで、見ているのが辛いだけよ」


 そう言ったのはミレイユ。首を縦に振るだけで、言葉が出ないのはカトリ。苦しいのだと、その顔が物語っている。


「気になさらないで。ウルリカを見ていたいの」


 二人とは違った意見のジュリア。ミレイユとカトリの視線を感じ『それはっ、私だって嫌な気分にはなりますけど……』と付け足して、真っ赤になって俯く。恥ずかしい事を言ってしまったのではないかと、思って。


 その間も、ウルリカは腰をグラインドさせて、形のいい小さなお尻を男の下腹部にこすりつけている。


「ホントにシてる訳じゃないのに。変なの」

「それでも嫌なんだよ!」


 そう叫んだのはカトリ。カトリが先でなければミレイユも同じことを叫んでいただろう。


「そういうもの? でもほら見て」

 そう言ってウルリカはスカートをたくし上げる。


「俺はコイツと違っておっきくしてないよ?こんなヤツ相手に気持ちよくなんてなれない」

 だから平気でしょ?と言いたげに。


「ウ、ウルリカ‼ やめて!」

「なにやってんのさ! スカートおろせってば!」

「まぁ……すごい……」


 ウルリカの思いがけない行動に慌てるミレイユとカトリ。

 初めて見るソレを、じっくり見てしまうジュリア。好奇心が勝ったようだ。


 レースが可愛いピンクのパンツに納まりきっていないウルリカのモノは勃っていなくても立派なもので、男の娘姿との差が激しい。そこが良い。と客からは好評だったのだが。


「ジュリア、見すぎ」


 ウルリカの声にジュリアは眼をソレから逸らさずに返事をする。


「え、あっ。……うん。でも、もっと見ていたいわ」


『あはは』と楽しそうにウルリカが笑う。ウルリカはジュリアの、こんな正直な所が大好きだった。


「他の男に見たいなんて言っちゃダメだからね」

 当たり前の注意なのだが、ジュリアは嬉しかった。


 ──それって! 『俺のだけ見てろよ』ってこと!? 私、独占されちゃう?!


『キャっ♪』と小さな悲鳴を上げて両手で頬を押さえ体をゆすりながら喜んでいる。ジュリアはウルリカの言葉を心の宝物にしようと頬を染めながら、瞳にハートを浮かべる。


 浮かれるジュリアが可愛くて、女騎士の二人は思わず見つめてしまう。

 けれどミレイユとカトリは黙っていたが『きっとそういう意味じゃないわよね』と目で会話する。


 ウルリカにも視線を送るが、本当に他意の無い様に見える。男娼とはこういうものかと、感心して。

 


『ふさり』とスカートをおろした。

 三人が三人とも残念そうな顔をしているのが、ウルリカにはなんだか笑えた。


「ミレイユもカトリも、もっと見たかったって顔してる」

 揶揄う様にウルリカは言う。それが妖しい微笑みとして二人に映っているとは思わずに。


「ウルリカに注意したくせに」

 そう言って避難がましくジュリアが白い目で二人を見ている。


『あはは』とまた楽しそうに笑うウルリカ。


 恥ずかしくて頬が真っ赤になっているけれど、カトリは嬉しかった。

 ウルリカのエロくて可愛い姿が見れたから。ではなく。

 笑っているウルリカが、本当に楽しいのだと思っている様に見えるから。

 瞳の光が楽しそうに輝いているから。




「お、お前……男なのか?」


 無粋な男の声に、四人の幸せで楽しい空気は一気に冷え込む。


「あぁ、お前居たんだ。忘れてたよ。そうだよ? それがなに?」


 喋りながらウルリカの声は少しずつ低くなっていく。最後の『なに?』は男性にしては少し高めの声だが、しっかりと『男声』だった。


「あ、いや。み、見えないなって……」

「ふーん。まぁどっちでも良いんじゃない? お前も満更でも無さそうだし」


 ウルリカは自分のお尻、その少し後ろにある勃起した男のモノを触る。優しく、丁寧に。

 特別なにも起こらない感情はそのままウルリカの顔に出て、完全な無表情。


 そして。女の子の声で言う。



「ちっさ」



「っく……」

 先程見せつけられているものだから『格が違う』と男は反論しない。出来ない。


「ウルリカ。そんなもの触らない」

「うんミレイユ。後で【浄化】してね」

「はい。もちろん」


 ミレイユはニコリと返事をするが、内心は穏やかではない。それはカトリも。

 二人とも、もう大人だから分かってはいる。男娼なのだから、ソレには触っているだろう。

 客商売だ、愛しそうに頬ずりくらいはしただろう。もっとすごい事だってしてるだろう。ウルリカのそういう事に慣れ切っている感じもわかる。


 だが嫌なモノは嫌なのだ。『あの時、殺すなとウルリカを止めない方が良かった』とさえ、思ってしまう。


 情報は大事だけど、ウルリカの方がもっと大事だ。


 そんな二人の想いは憎しみに変わって襲撃者の男に向けられる。


 コイツの運命は決まっていたけれど、方法は変わってしまった。けれど、それもウルリカに任せよう。ウルリカが手ぬるいやり方で終わらせるわけが無いから。




「さて、と。カトリ。ナイフ貸してよ。小さいほうの」





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