第4話 うるりかさっきからほどこしすぎじゃないですかね?
「きじょーい。好き?」
男に跨り、座る。頭を『こてん』と傾けて、誘うような甘い声でウルリカは言う。男はコクコクと必死に首を振る。
必死過ぎてウルリカは笑いそうになるけれど、ここで醒められても、こっちがつまらない。だから、笑わない様に少しだけガマン。
にこり。『好きよ』と想いをこめて。ウルリカが身に付けた仕事用の大ウソだけど。
グニグニとウルリカのお尻で男のお腹を刺激して。
女であれば子宮のあたり。ウルリカのその動きは、それだけでもイケる女もいるくらいイイ。
男であってもそこいらが疼く事をウルリカは知っている。
そして、そのもどかしさも。『どうせグニグニするならちゃんとヤれ』って命令みたいなお願いをみんながしてくる。
でもウルリカは焦らす。この後の苦痛のために。
穏やかになれないのは、見ているだけの三人の女たち。
「うるりかさっきからほどこしすぎじゃないですかね?」
片言で、棒読みで訴えるミレイユ。無表情なのが不気味さをさらに醸し出す。
──そんな事私がしたいわよ。いえ、されるのも良いかしら……
だからこそ思う。悔しい、と。
こんな男にウルリカは何をしているの?いやでも、ウルリカの気持ちを考えれば……いやでも。と、想いが衝突事故を起こしている
そもそも殺すなと言ったのはミレイユなのだ。今更やめて欲しいなんて、都合が良すぎる。
ミレイユはただ黙って悔しい気持ちでウルリカを見守る。そうするしか出来ないから。
「あの、さ。そういうの見たくないんだけど……ウルリカ、やめて……くんない?」
ネトラレ耐性が皆無のカトリはお願いする事しか出来ない。自分の言葉になんの力も無い事は知っている。それでも。
──さっきは足で。今は跨って……
チリチリと脳が焼き切れそうだ。
──何を見せられているんだ。ヤメロ。ヤメロ。私のウルリカ。やめてくれ。
佩いた剣に手が掛かる。
──コロスコロス。こいつを殺せば終わる。
鞘から剣を抜こうとする時のかすかな金属音。
それに気が付いたウルリカが、じっと睨んでくる。死人のような視線。それと声。
「カトリ」
冷たい声がカトリの心を凍てつかせる。
切り捨てられたような、軽蔑されたような。そんな視線。
ウルリカから投げつけられたもの総てがカトリを否定しているような気がして。いや、それはまだいい。本当は泣きたくなるほど悲しいけれど。他の事に比べたら、まだマシだ。
ウルリカの瞳から、また光が落ちている。カトリはそれが一番悲しい。
「もうちょっとだけ待ってね」
──いくらでも待つから。お願い。
にへら。と生気の無い瞳で笑い崩れるウルリカに、縋ってしまいそうになる。そのままどこか遠くに行ってしまうのではないか、と不安でたまらない。
──お願い、ウルリカ。戻ってきて。
願う事しかできない自分の無力さを思い知らされて、カトリは『こくり』と頷く。
ジュリアは何も言わない。言う権利が無いと思っている。
ウルリカが相手をしているのは、ジュリアの命を狙った襲撃者だ。本当ならウルリカとは、なんの関りもないはずなのだから。
『いいよ。ついてく。護りたいから』
夜明けの光を受け、そんな格好いい事を微笑みながら言ってくれて、その美しい男娼は自分達に関わってくれた。
それは飾られる事でしか存在できなかった、世間知らずな『人形姫』の胸が『キュン』と可愛い音を立てるには十分すぎた事だろう。
──かまいません。ウルリカ。壊れたあなたの思うままになさって。私もあなたと一緒に壊れます。
それでも、恋した相手が他の男と戯れている姿は、見ていて気持ちのいいモノではない。けれど、何故か目が離せない。嫌だなって、感じているはずなのに。
騒めく胸の奥にあるナニかが、じわりとお腹の下の方に広がっていく。
ウルリカが、男に跨っている所。そこを、そっと両手で押さえるジュリア。
──そうね、ここで感じるのよね。お城でも、『お姉さま達』にも教えてもらったもの。知ってる。でも。
まだ幼いジュリアの体はやっと子供を産めるようになったところだ。
だからだろうか、男の娘姿のウルリカに『男』を感じて不思議な感覚を持て余しそうになっている。
大好きな人が、他の男と交わろうとしている。
なのにカトリのように泣きそうもなれなくて。でも、叫びたくなるほど苦しい。いっそ泣いてしまえば楽なはずだけど、嗚咽のような吐息が漏れ出すばかりで。
なのに。
嫌なのに、見てしまう。眼が離せない。瞼を閉じる事が出来ない。
胸が圧し潰されそうなほど、苦しいのに……なんだか不思議に気持ちいい。
──まだまだ知らない事の方が多いみたい。だからウルリカ。教えてください。この気持ちのコト……。
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