第3話 それ、ただの『お仕事』だから
地面からくぐもった不快な音が聞こえた。苦しそうに呻く嫌な声が。
足のない虫のように縛られたソレは蠢く。
ジュリアとミレイユを抱きしめ、カトリに背中から抱きしめられるという幸せから、ウルリカは一気に大嫌いなコイツ等がいる現実世界に引き戻される。
両腕を二人から離して、カトリの腕を歩き出す事で振り払う。三人が三人とも悲しそうな顔をしているのに、今のウルリカは気がつきもしない。
『寂しいのはダメ』
そう言ったのはウルリカなのに。けれど、そんなウルリカに誰も文句は言わない。言える雰囲気では無いのもそうだけれど、すべき事はまだ終わっていないのだから。
ウルリカはつま先でソレを転がす。仰向けになったソレが声を上げる。
「っち……化け物かよ。パンツ見せびらかせてどうした? 犯されてぇなら縄を解いて股ぁ開けや。忘れられなくしてやるよ」
森の中を走りメイスを振り回して殺しまくるウルリカを『化け物』と認識しながら、か弱い女の子にしか見えていないのだろう。性的なマウントを取りたがる雄猿の愚かしさは笑うにも値しない。
ウルリカのスカートのその中は寝そべる男からは丸見えだったのだろう。
けれどレースと刺繍が可愛いピンクの小さなパンツに納まりきらない最小状態の『俺はまだ本気じゃないけど?』ってモノまでは見えなかったようだ。
いや、人は見たくない物を見えなくする。という心理的なヤツだろうか。
「ふーん。お前のでは満足できそうにないけどね。どっから来るの? その自信は」
グニグニと足で股間を強めに踏みつけながらウルリカは言う。
「『こんなのはじめて』って娼婦にでも褒めてもらえた? それ、ただの『お仕事』だから」
感触が硬く変わっていく。男の呼吸が荒くなって顔も赤くなり、興奮しているのが丸わかりだ。
「お前……恥ずかしくないの?」
「は? はぁ!? なんも思ってねーし!」
「いや、思うとかじゃないよね、これ。体は正直ってヤツ?」
男のそれを思いっきり踏みつけるウルリカの表情は嫌悪感しかない。
男の顔が緩く歪む。
美しい
そういう性癖では無かったはずだが、相手がこの
「楽しんでんの? キモいよ」
「い、いえ。その……」
「突然の敬語もキモい。なに即堕ちしてんのさ、つまんない……お前もう黙れよ」
「……」
「ホントに黙った。そんなにして欲しいんだ。言うこと聞いたら、もっとしてもらえるかもって? でも優しくなんてしないから」
ウルリカは一度深く踏み込んでグリグリと踏みにじってから、足をどける。そして、一歩下がった。
残念そうな男の顔からは期待を隠せていない。だらしなく薄ら笑いを浮かべている。その眼はもうウルリカしか見えてなく、他の三人の事など意識もしていない。
腹立たしい男の顔に唾でもかけてやろうかとウルリカは思ったけれど、きっと喜ばす事にしかならないなと、やめた。
その代わり、足元に落ちていた小さな石を拾い、男の顔に投げつける。頬に当たり『あう』と声が上がった。結構な速さで、それなりに痛かったはず。
それでもヘラヘラと笑っている男。ウルリカにはそいつの顔が『もっとしてください』と言っているような気がした。
気のせいでは無い事なんて分かっていたけれど、コイツの気持ちを読み取ったみたいで不愉快だから、ウルリカはそう思わないようにした。
結局、唾でも石でも同じ結果だった事にウルリカはうんざりしてしまう。
「コイツ等って本当に変態ばっかり。最低だ。大っ嫌いっ」
「ウルリカ……」
ジュリアが心配そうに呼ぶ声が聴こえたけれど、ウルリカは振り返らなかった。
それで良かったのだろう。三人とも、ウルリカがその男にしていた事を複雑そうに眺めていたから。
ウルリカだって自分のこんな姿を見せたいとは思わない。けれど、やめてやる気もない。
ウルリカが今すべきことは、ミレイユとカトリがこの男に聞きたいという事を話す気にさせる事。
やり過ぎてはいけない。それだけを注意していればいい。
だから微笑む。誰もが好む優しくて綺麗な顔で。
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