いまは小さな一歩だけど……。

【Start playing】



『――お兄ちゃん、おはよう!! よく眠れた? 私はちょっと寝不足かな』



『……寝不足な理由わけはね。ううっ、言いたいんだけど言えない!! まだ内緒にしておく』



『とにかく、萌衣ちゃんは元気だよ!! そうそう今日からお兄ちゃんに語りかけるときのルールを決めたんだ。お兄ちゃんの時間に合わせるの。めんどくさい三種類の挨拶はもうやめるから』



『そっちとの階層間時差が、正確に分かる時計を買ったんだ。ほら、見て!! レトロで可愛いでしょ』



『いまどき珍しいよね、懐中時計なんて。古い映画や小説でしか出てこない代物しろものだよね。これね、私のお祖父ちゃんが、経営する骨董品屋さんで見つけたんだ』



『……我楽多屋がらくたや 具無理ぐむり



『一度、お兄ちゃんにも見てもらいたいな、お祖父ちゃんの骨董品屋さん。宝探しみたいで面白いんだよ!! 私は子供の頃からそのお店が大好き……』



『……お祖父ちゃんいわく、この懐中時計は昔の時計職人。その中でも匠の名工が作った一品で精巧な機械式だから今でも狂うことがなく時を刻むんだって』



『……こうやってふたを開けると』



『お兄ちゃんにも見えるかな? 蓋の裏にある写真。当時の流行でここに大事な人の写真を忍ばせたんだって。家族の写真とか可愛がっているペットの写真とか』



『……そして恋人の写真』



『この写真は当時の女性、きれいな人だよね。着ている服装からお祖父ちゃんは百年以上経ってるんじゃないかって』



『きっと、この懐中時計の持ち主の想い人だと思う……』



『だから萌衣は、このままでお守りにするの』



『お兄ちゃんと私を繋ぐお守り……』



『私が始めた小さな一歩。そのスタートのときを刻むんだ』



『萌衣は頑張るから、お兄ちゃんも応援してね……』



【End of playback】

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