あなたが恋してくれたから

『――ねえ、お兄ちゃん。聞いてる? どうしたの、心ここにあらずって感じだよ』



『えっ、萌衣のことを考えてた!? 変なお兄ちゃん!! 私は目の前にいてこうやって久しぶりにおしゃべりしてるのに』



『……それはそうだけど、私たちじゃどうしようもないよ。こっちでも連日話題になってるけど。こんなときだから前向きにいかなくちゃ時間がもったいないよ』



 『おまえ強くなったって? まあ、のおかげで萌衣ちゃんも強くなりますよ。いったい誰のおかげでしょうかね?』



『えっ、誰かわからない!? ――お兄ちゃん、そんな難聴系主人公みたいな人、現実にいたら絶対に嫌われるから。難聴系主人公は知ってるけど、僕は違うって!?』



『念の為おさらいしとくけど、女の子が告白してるのにわざと聞こえない振りをすることだよ。おまえ、そんな言葉をよく知ってるな、って!? 萌衣は小説家の娘だよ、それくらい知ってるし!! お父さんは恋愛小説も書いてたんだよ。ラノベだけの専売特許じゃないよ、難聴系主人公は』



『萌衣のお父さん? 本名で活動していたよ。私とおなじ茅野かやのだけど、どうして?』



『ええっ!? どうしてお兄ちゃんが映画のタイトルまで知ってるの!! うん、そうだよ君に捧げる恋の微熱。大ヒットまではいかなかったけど熱心なファンがいて、

 亡くなったお父さんの作品のなかでは映画化もされて一番有名。こんなことってあるんだ!!』



『すごいよ、お兄ちゃんが小説だけじゃなく映画まで見たなんて。なんだか運命を感じるな。あの小説のも別々の場所に引き裂かれた恋人たちの話で、萌衣が話したと同じ。レトロな恋を描いてるんだ。ブンツウ仲間のことをペンフレンドって昔は呼んだんだって。いつしかペンフレンドから恋人になるの。私ね、お父さんの作品のなかでも一番好き!!』



『……どうして好きかって? お兄ちゃんまた難聴系になってる!! あの映画を観たんでしょ、本当に嫌われるよリアルで難聴系男子。それにね、お父さんがあの作品を書いたのは理由わけがあるの』



『萌衣が中学一年生のとき、わがままを言ったからなんだ。お父さんの小説は難しいから売れないんだよ。地の文が多めで会話が少ないし、主人公がウジウジ悩んでばかり。登場人物がみんなトラウマを抱えているし悩んでないと死ぬ病気か何かなの?  それに萌衣が読みたくなるような恋愛小説やラブコメを書かないと絶対に映画化やアニメ化されないよ!! って。いま思うとひどい娘だよね。だけどお父さんはニコニコ笑って芽衣のために、ライトな恋愛小説を書くと約束してくれたの……』




『そう、だからお父さんの小説のなかでいちばん好き!! 作品を書き上げたら、真っ先に私に読ませてくれたんだ。お父さんは笑いながら言ったの。最強のかわいい評論家さんお手柔らかにお願いします、って』



『……いつかお兄ちゃんと、いっしょに映画をみれたらいいな』



『――もうこんな時間なの!? もっとお兄ちゃんと、色んなことを話そうと思ってたのに!!』



『ねえ、お兄ちゃん、通信が終わる前にお願いがあるの。萌衣が話した後に続いて答えてくれる?』



『……まあ、誰かさんのおかげで、萌衣ちゃんも強くなりますよ、

 誰のおかげでしょうかね?』



『……』



『ありがとう、もう難聴系男子じゃないね。大好きだよお兄ちゃん……』



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