また逢える日を信じて……

『――お兄ちゃん、髪型を変えたんだね!! どうしたの見違えちゃった。何かあった? ええっ、女の子に失恋したから!?』



『……心配させないでよ、すぐ萌衣に意地悪する。失恋したから髪を切ったなんて、そんな冗談は笑えないし。え、昔から失恋したら髪を切るのは女の子の定番じゃないかって?』



『古っ!! 今どきそんな女の子はいないよ、お兄ちゃん。なになに、映画やアニメの幼馴染キャラは主人公の男の子に本命の女の子がいて、フラグが立つと髪を切って想いを吹っ切るだろ、って!?』



『……お兄ちゃん、まず基本的なことから聞いていい? 滑り台行きって何?』



『ふむふむ主人公の本命に選ばれなかった他の子のことをネット用語でそう言うんだ。お兄ちゃんっていろんなことを知ってるね。初めて聞いたよ、滑り台行きか、そんな言い方するんだ。でも選ばれなかった女の子はその後どうなるの?』



『……だいたいドラマやアニメでは、次の回には吹っ切れて相手と普通の関係に戻ってる場合が多いって!?』



『ふーん、何だか萌衣には理解出来ないな、だってそれくらいで相手への気持ちを忘れられるわけないし。それがお約束!? 物語の進行上しかたないって。そんなものなんだね』



『ん、ちょっと待って、その話、最初から何人もの女の子に気を持たせる主人公の男が一番悪いんじゃない。なになに、それは主人公の優しさが彼女たちを魅了するから!? お兄ちゃんも憧れるの? そんなハーレムみたいなポジション』



『だってお兄ちゃんって優しいから萌衣は心配になったんだよ。そっちで私に内緒でハーレムを作ってるんじゃないかって。えっ、僕にはそんな甲斐性はない。一人の女の子だけ!?』



『……ありがとう、とっても嬉しいよ。その言葉を聞いて安心した。私の性格を知ってくれていると思うけど、すぐに落ち込んじゃうし長く離れているとすごく不安になるから、お兄ちゃんからちゃんとした言葉をもらえたのが幸せ!!』



『……今日の萌衣はすごく元気だって? そう見えるかな。仕方がないよ。だって半年ぶりにお兄ちゃんとお話出来たんだから。これで元気にならないほうがおかしいから!! うん、そうだね本当に長かった。何度もお兄ちゃんの送ってくれたVRレターを見返したよ。もう覚えちゃった、お兄ちゃんの自己紹介。見ないでも復唱出来るよ!!』



『ずいぶん緊張してぎこちなかったけど萌衣のために一生懸命に答えてくれたね。好きなこと、大切に思っている家族や友達のこと、そして育った街のこと、お兄ちゃんがいっぱい詰まってた』



『――私ね、夢があるんだ。いつかまた階層を自由に行き来することが出来たなら。争いのない未来がもし訪れたなら。お兄ちゃんが大好きな街に行ってみたいな』



『同じ空気にふれて、同じ空を見上げて、他愛のない会話をしながら同じ道を並んで歩くの。なんでもない日常、そんな毎日を私はずっといっしょに感じていたいんだ。お兄ちゃんと同じ空の下で……』



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