大好きなお兄ちゃんへ……。
『――VRレターが、やっと届きました。ジェレマイア法の検査をパスするのに二週間も掛かってしまって……。監査局で止められていて、詳しいことは分からないけどお母さんに掛け合ってもらい何とか回収することは出来ました。現在お兄ちゃんの階層との
『お互いの端末にも通信制限があるから本当に残念だけど今回は音声のみにします。双方向じゃないのは許してください。違反者が厳しく処罰された三年前みたいなことはないと思いますが念のために注意しましょう』
『また自由に行き来が出来るような世界を望んでいます。それが萌衣の一番の願いです。亡くなったお父さんがお世話になった出版社の統合端末を特別に使わせてもらってます。口調が違うのは周りに人がいるからです』
『編集部の担当者さんと面談する予定もあったから無理を言って、この端末を借りています。ここの会社は監査局の認可を取っているから、そっちとのタイムラグがほとんどないのでこの通信はすぐお兄ちゃんへ届くと思います。このブースは普段ミーティングに使われているそうなので、私が自作の小説原稿を読み上げしている
『作、
『注意、この物語はフィクションです。実際の階層、国家、人物、団体、事件などには一切関係はありません』
『プロローグ、あなたが私を見つけてくれた日』
『――前略、お兄ちゃんへ。私ね、いつも目を閉じると、出逢ったあの日に戻れるの。
『まだ自由に階層間旅行が出来た頃、父の取材のため家族三人で出かけた旅行先で、小学生の私は初めての階層外観光にはしゃぎ過ぎて両親といつしかはぐれてしまった。動揺で胸が痛くなる。それも見知らぬ階層外。心細くて私は泣きじゃくったわ。泊まる予定だったホテルを探して街をあてもなく歩き回ったの。普段親に持たされている情報端末もすべて旅行カバンの中。自分がどこにいるのかすら分からない』
『お父さん!! お母さん!! 萌衣を一人にしないで……』
『涙で視界が滲む。フラフラと私は車道に飛び出してしまった。目の眩むような車のヘッドライト。激しいクラクションに私は凍りついた』
『もう駄目!! そう覚悟した瞬間、私は体ごと後ろに引き寄せられた。そのまま歩道に転がる。なぜか全然痛みは感じなかった。我に返って私を抱きすくめた人物の顔を見上げると……』
『危なかったな、もう大丈夫だから泣くなよ、いつまでも泣くやつは好きじゃないから。私にむかってお兄ちゃんはそう言ってくれたよね』
『あちこちを擦りむいて傷だらけで服の肘もぼろぼろなのに、どうしてそんなに優しくほほ笑みかけてくれるの?』
『ねえ知ってる? 差し出してくれたその指先に触れた瞬間からお兄ちゃんは私のヒーローさんになったんだよ!!』
『萌衣を見つけてくれてありがとう、大好きなお兄ちゃん』
『……それなのになぜ!?』
『どうして私たちは階層という
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