お兄ちゃんと出逢えた奇跡!!

『――ねえ、お兄ちゃんは覚えてる? 萌衣めいと初めて会った日のこと。

 急にどうしたのって!? だって思い出してほしいから。別にいいでしょ……』



『それにお兄ちゃんは忘れっぽいから抜き打ちテストしないと心配なの。前にも言ってくれたよね。もし萌衣に関する試験があったら楽勝で合格出来る自信があるって』


『あれは嘘を付いたのかな? ん、即答できませんね!! 最悪ぅ、お兄ちゃんのこと幻滅するかも』



『……そんな怖い目で見るなって。じゃあやめてあげるかわりに二人が初めてあった日のことについて答えて。抜き打ちテストの制限時間は一分だよ!! そっちとは修正して時間は正確にこっちとリンクしてるのでズルは出来ませんよ』



『よーいスタート!! ぴっ、ぴっ。ええっ、うそみたい、早っ!! 即答って!?』



『お兄ちゃんの答え、正解……』



『――意地悪してごめんなさい』



『萌衣すっごく反省したんだよ。前回はしゃぎ過ぎちゃったから。それと別れ際にお兄ちゃんの前で泣いたでしょ……』



『芽衣ね、お兄ちゃんの笑顔を見たら我慢出来なかったの』



『初めて会ったときも、めそめそ泣く女の子は嫌いだって言ってたよね、お兄ちゃん……』



『抜き打ちテストは即答出来たのに都合よく忘れたふりをしてくれるんだね。どうしてそんなに優しいの? 私を助けてくれたあの日みたいに……。やっぱりお兄ちゃんは私の命の恩人だ』



『違わないよ!! 萌衣はあの日からお兄ちゃんだけを見てる。ひとりぼっちで泣いていた私の前に現れたヒーローさんなんだよ。だからもっと自信を持ってほしい。今の状況はお互いにつらいけどきっとまた逢えるよ!! だってそうじゃなきゃ、神様は二人を巡り合わせる訳がないから……』


『……』



『……お兄ちゃん、急にその顔は何? もしかして変顔のつもり。えっ、笑ったら負け!?  それに両手でほっぺたを引っ張っても、そっちの端末ってタイピング出来るんだ!? すごい最新型だね。ふーんだ、ウチのお母さんの端末も特注の転送装置つきだよ。なんて情報端末自慢じゃないし。現役女子中学生の私に変顔でかなうと思ってるの!!じゃあ真剣勝負しよ!!』



『変顔対決、吹いたら負けだよ。どうだ!! うりゃ!! んべーーっ!! もうっ、しぶといよお兄ちゃんてば!! ……ぷっ、きゃははっ!! 負けるよぉ、顔変すぎ!! なんでお兄ちゃんはそんなに強いの!?』



『……やっぱり笑顔の萌衣が一番可愛いいって? お兄ちゃん最初から私をだましたのね!! ひどいよ真面目に悩んで損したかも。でも笑ったら何だかスッキリしちゃった』



『お兄ちゃんが私を助けてくれた時にも言ってくれたよね。ケ・セラ・セラって言葉。人生はなるようになるって意味。萌衣ね、つらいことや悲しいことがあるといつもおまじないみたいにその言葉を口にしたよ。大好きだったお父さんが亡くなった日も。三年間お兄ちゃんに逢えなかったあいだも』



『うん!! 励ましてくれてありがとう。もう大丈夫、元気になったから。萌衣、今日から涙はやめるんだ。そうしないとお兄ちゃんの嫌いなタイプになるから』



『嬉しいな、その言葉だけで逢えない時間も我慢出来るよ。絶対に約束だよ、お兄ちゃん!!』



『……じゃあ、萌衣からもお願いがあるの、聞いてくれるかな? もうっ、違うよ!! なんでお兄ちゃんにおねだりすると勘違いしてるの。そのだし……。 あっ、今の言葉は聞こえてないよね!? ふうっセーフ、危ないとこだった。んっ、な、何でもないからね!?』



『……お兄ちゃんちょっと動かないでね。今、するから。えっ、意味はないよ、記念のスクショを取るだけ』



『次は後ろを向いてくれる。いいの、萌衣の言うとおりにして。そのまま動かないで、はいオッケイ!!』



『……大変!? もうこんな時間だ。学校の授業と違って何で楽しい時間って短いのかな? どうしようお兄ちゃんの自己紹介、聞く時間がないよ。えっ、VRレターで送ってくれるの!? もう撮ってあるって!! すごい嬉し過ぎる』



『なんで分かったの、自己紹介を聞きたがることが。えっ、萌衣の行動は読めるって、それは嬉しいけど、どうしちゃったのお兄ちゃん、今日はいつもと違って冴えてるね……。僕もやる時はやるって!?』



『……今のタイムレートだと転送に時間が掛かるのが残念すぎるよ!! 何、果報かほうは寝て待てって。お兄ちゃんってたまに変なこと言うね。昔の格言? こっちでは聞いたことないよ。お兄ちゃんのだけじゃない、そんな格言は』



『でも楽しみには変わりないよ。そうだ!! お父さんの書いた恋愛小説で知ったんだけど昔はブンツウって物があったんだって。手紙レターなのは変わりないけど相手に届くまで船で何週間も掛かったんだって、今じゃ考えられないよね!!』



『――いまの萌衣とお兄ちゃんって、そのみたいな関係だよね。端末画面で見るとこんなに近いのに』




『だけど果てしなく遠い距離感だね……』




『……お兄ちゃん、お願いがあるの。手を出して。そしたらね萌衣と同じ指の形を作ってくれるかな。人差し指と親指でLの形にして。そうそう、それでね萌衣の指先と端末の画面の前で仲良しにして……』



『まるで四角い封筒みたいでしょ、お互いの指で作った形。これならすぐ届くのにね』




『恋の……』




『お兄ちゃんと萌衣の指先、ずぅっと仲良しでいられたらいいのに。今も、これから先も……』



『ごめんね、もう泣かないって約束だよね……』



『……おやすみなさい、お兄ちゃん』



【Chat exit】

 






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