第142話 仕事を貰いに行くことにした
宿に戻って食事をとり、次の日になった。
安物のベッドでは眠ることは出来ても疲れはとれない。
朝起きると体全体が凝り固まって大変だった。
伸びをするだけで骨が鳴る音が響くほどだ。
しばらくストレッチをして体を慣らしておく。
これから何が起きるか分からない。怪我のリスクは最低限にしておかねば。
アーネラとノエルは俺より早く起きてすでにベッドの片づけを終えていた。
だが荷物もないので手持無沙汰のようだ。
セピアとマステマが起きるのを待って、これからの相談をする。
「二人が調べた限りでは、どうやら即日の仕事には困らないようだ。なので少しの間はそれで稼ぐことにする。これの更新もあるからな」
許可書を掲げる。
どういう仕組みなのか滞在期間の数字が変化している。
残りは二九日。
それまでに正式な許可書に切り替える必要がある。
「着替えが欲しいですね。宿暮らしならなおさらです」
「食事もちゃんとしたものを食べないと。病気になったら大変ですし」
アーネラ達二人はしっかりしているな。
もう二人はあまり危機感がないようだった。
仕方ない。
魔導士がいるので水は使い放題だ。
桶は用意してあったのでそれを使って水をため、火の魔法で湯を沸かす。
「タオルが人数分ないと体を拭くこともできんな」
道具袋に入っていたタオルは限りがある。
こういう生活用品も早急に揃えなければ。
顔と手を洗い、宿を出る。
ここの宿では雨風をしのぐことは出来ても睡眠の質が悪すぎる。
長く利用していると体を悪くしてしまうだろう。
問題ばかりが思いつく。
だが、よくあることだ。
一つ一つ解決すれば、大体の問題は片がつく。
「斡旋所はこっちです。案内します」
「任せた」
アーネラの案内で斡旋所に向かう。
宿代を払った後は朝食代すら残らない。
中々の貧しさだ。
立場からしてもほぼ難民といってもいいだろう。
案内された斡旋所はかなり大きな建物だった。
仕事を求めてきたのか、朝から大勢の人で賑わっている。
「露天掘りに参加する奴はこっちだ! もう出発するぞ!」
そういって呼びかける男の元に人が集まり、すぐに枠が埋まっていった。
どうやら条件の良い仕事らしい。
集まるやいなや、すぐに移動していった。
近くの青年を捕まえて話を聞く。
ここから西へ移動した場所にある炭鉱に移動して地面を掘る仕事らしい。
炭鉱の中は取り尽くしてしまったので、地面を掘ることで付近の石炭を手に入れるとのことだった。
採れた石炭の量で収入が決まるのだが、いまのところ割の良い仕事で人気がありすぐに人が集まる。
青年に礼を言って別れた。
石炭は冬の暖房と鍛冶屋くらいしか使っていなかったと思うのだが、どうやら需要が大きいようだ。
「あの製鉄技術の高さなら、そりゃあね。魔法でも高温には出来るけど、私ならともかく一般の魔導士じゃすぐ魔力切れになっちゃう。いい鉄を量産するなら石炭がいくらあっても足りないと思うよ」
「そうみたいだな。まああの人気じゃあ割り込めないだろう」
声を掛けて数分で集まっていた。
恐らくこの仕事をわざわざ待っている人間が多いのだろう。
冒険者の時もそういう仕事があった。
いくらおいしくてもそういう仕事はあまり受けないようにしていたものだ。
競争率が高く、参加できなかった者とトラブルになりやすい。
安定して稼ぐには実は向かないのだ。
人気が低く、しかしちゃんと稼げる仕事がいい。
案内所に入ると、思ったより冒険者ギルドと似ていた。
違うのは利用者か。
冒険者は荒くれ者が多いのだが、ここではどこにでもいそうな老若男女がカウンターに列をなして並んでいる。
獣人の姿もある。
「列に並んで順番に仕事を受け取るみたいです。どのような仕事を振るかは向こうが一任するとありますね……」
冒険者ならぬ労働者の立場はあまり高くはないようだ。
スキルがあったり、優秀な人間は順次引き抜かれていくだろうし。
今は俺達も文句を言える立場ではない。
素直に列に並んで順番を待つ。
朝早くから人が多いのも当然だ。
少しでも早く仕事を確保したいし、待たされる。
待たされている間は金にならないのだから堪ったものではないのだろう。
「女連れかよ」
近くの男が舌打ちする。
視線を向けると慌てて目を背けた。
この程度のことでどうこうするつもりはないのだが。
順番が来たので代表者の俺が椅子に座る。
椅子はガタついていた。
「仕事をお求めで? どのような仕事をご希望ですか」
「この二人は給仕や芸事の仕事に向いている。俺はどのような仕事でもいいが、こいつと一緒で頼む。単価は高い方がいい。こっちは上級魔導士だ。活かせる仕事で頼む」
「なるほど。念の為言っておきますが自己申告に虚偽があればペナルティがありますので」
「問題ない」
出来ると言って出来ないと困るという話だ。
これは冒険者も変わらない。
中には出来もしないことを出来ると言って格上の冒険者パーティーに寄生するやつもいる。
そういう奴を排除する仕組みがあるのだろう。
提示された仕事は、アーネラとノエルが高級レストランの給仕。
セピアが河川工事。
俺とマステマが壁の補修作業となった。
別の仕事になる。五人でまとまって仕事を探すのは難しい。
マステマだけは目を放す訳にはいかないので俺と一緒だ。
アーネラになら任せてもいいが、給仕ではその暇はないだろう。
カードを受け取り、目的地が書かれた紙を受け取る。
羊皮紙ではなく、かなり質の良い紙だ。
こんな所で使い捨てになるほど量産されているのか。
「それでは働いてきます」
「安全を最優先にするように」
「分かりました。では行ってきます」
まずはアーネラ達を見送る。
恐らく容姿も加味されているに違いない。
だがあの二人なら問題なく務めるだろう。
「私も行ってくるね」
「ああ。いうことは同じだ」
「安全第一。分かってるって」
セピアも指定された場所へ向かう。
河川工事ということは魔法による水の操作か土の移動か。
ポカだけが心配だが、あれで優秀だ。
「さて、俺達も行くか」
「ん、おっけー」
マステマを連れて壁の補修へ向かう。
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