第124話 大陸最強のパーティー

 俺とマステマが前に出る。

 ヴィクターの加護は既に発動した。


 ヴィクターの強化により、加護の効果も大きく向上している。


「俺達は三人で戦うが、文句はあるか?」

「無いさ。一対一も一対三も同じだ」


 戦士ならまだしも魔導士のセリフとは思えない。

 だが、こいつはこういうやつだ。


 こちらの軍も向こうの軍も動かない。

 先ほどの光景を見て唖然としているのかもしれない。


「じゃあ、やるか」

「ああ」


 セピアに合図した瞬間、かつてセナに向けて放った巨大な氷塊をカスガルに向けて放つ。

 本来は対個人ではなく対軍用の魔法だ。


 しかしカスガルはその魔法に目も向けずにこちらを見ている。


 氷塊がカスガルに近づくと、先端から溶け始める。

 カスガルが周囲に火の結界を張っているのだ。


 距離が近づくほど融解する速度が速くなる。

 カスガルに振れる頃には水に戻っており、カスガルに振れた瞬間蒸発した。


「なにあれ! 意味わかんないんだけど」


 上空からセピアの悲鳴じみた声が響く。

 それなりに自信のある魔法だったのだろう。


 だが俺からすれば予想の範囲内だ。

 セピアには言った通り水系統の魔法を使わせてカスガルの周囲に火の気を集めない事が大切だ。


 俺は天剣を構え、マステマは黒い火から大鎌を生み出して掴む。


「良い魔導士を味方にしたんだな」

「ああ。色々あって着いて来たんが、役に立ってるよ」

「ふっ、火しかまともに使えない俺と違ってな」


 カスガルが左腕を掲げる。

 すると、カスガルの上空で巨大な火の左腕が出現した。


 セピアが妨害の為に水の魔法をひたすら打ち込む。

 だが火の左腕が巨大になる方が速い。


 セピアの妨害がなければ瞬時に完成していたので効果はある。


「アグニの左腕」


 カスガルが魔法の名を叫ぶと、火の左腕が動く。

 やつが得意とする魔法だ。


 自立する火の腕が敵へ襲い掛かる。

 火の腕は真っすぐマステマに向かってきた。


「私狙いか」


 マステマはそう言うと、アグニの左腕を大鎌で受け止める。

 火の腕はカスガルが込めた魔力が尽きるまで再生を繰り返すので時間を稼ぐには便利だ。

 パーティーを組んだ時も臨時の前衛として役に立っていた。

 幾らマステマが強かろうと、すぐには復帰できないだろう。


「アグニの右腕」


 そう、左腕があれば右腕もある。

 先ほどよりも少し速く、火の右腕が生まれた。

 カスガルに届かないとはいえずっと水の魔法で牽制しているセピアへと向けて右腕が襲い掛かる。


「何か来たんだけど! わっ、追いかけてくる」


 セピアの悲鳴が聞こえるが無視する。

 あいつは子供だが、同時に上級魔導士だ。


 あれ位はなんとかする……筈だ。


 水の魔法をアグニの右腕に向けてひたすら放つセピアを尻目に、前に進む。

 右手に天剣を。左手に雷剣を。


「行くぞ」

「来い」


 雷剣により紫電を伴って加速する。

 カスガルが視認できるよりも速く。


 瞬時に後ろに回り、剣を振りかぶる。


 そこで火の結界が俺を阻む。

 パーティーだった頃はこの結界に守られる側だったが、いざ敵になるとなるほど厄介だ。


 常人ならカスガルに振れる前に焼け死ぬだろう。

 セピアの魔法に寄る氷塊が解けたのも納得がいく。


 俺とて耐火装備に身を包んだうえでヴィクターの加護によってようやく突破しているのが現状だ。


 雷剣と天剣をカスガルに向けて振り抜く。

 だが、その剣が届く前に火の風が俺を吹き飛ばした。


「チッ」


 思わず舌打ちをする。

 だが、カスガルが俺に向けて構えているのを見てそれ処ではないと判断する。


「火の砲撃」


 俺が最も目にした火の魔法だ。

 至ってシンプル。火を凝縮し、敵に撃ちこむ。


 火の色は俺が使う火剣の様に白化している。

 天剣を振りかぶり、火の砲撃へ向かって振り抜く。


 火の砲撃を弾くが、強い衝撃を感じる。


 <熱いのですが>

「我慢しろ」


 ヴィクターからの抗議を黙らせる。

 天剣は最高の素材に天使の核を埋め込んだ、恐らくこの世にある中でも最高の剣だ。


 その剣ですらカスガルの火に長く触れると悲鳴を上げかねない。


 雷剣に魔力を込め、雷撃をカスガルへ飛ばす。

 続けて撃たれた火の砲撃とぶつかり、誘爆し爆発させた。


「本当に魔導士になったんだな」

「卒業する前に学園が無くなってしまったがな」

「そうなのか? 後で聞かせてくれ」


 戦っているとは思えない会話に苦笑する。

 それは向こうも同じだ。


 ある意味、これが今の俺達に出来る最高のコミュニケーションかもしれない。

 全く、お互い不器用極まりないな。


 レナティシアがよくからかってきたことを思い出す。


 今度は吹き飛ばされない様に天剣を鞘に戻し、雷剣を両手で掴んで突きの構えをする。

 雷剣は天剣ほどの耐久力がない。

 普通に使う分には問題はないのだが。


 雷剣は大枚はたいて買った貴重な魔剣だが、使い潰す覚悟をしなければこいつとまともに戦う事は出来ない。


 紫電を纏い、カスガルに向かった一直線に雷剣を突く。


 火の結界を雷の光が突き破り、カスガルへと届く。

 だが、体に触れる前に弾かれた。


 カスガルは火を凝縮させて剣を作り、俺の雷剣を弾いたのだ。

 火に関してだけは本当に器用な奴。


 剣の腕は俺の方が上だ。力も。

 結界内でカスガルの力が上昇していても、だ。

 何度も剣を合わせるうちに、少しずつカスガルを追い込む。


 雷剣の剣身が赤くなってきた。

 カスガルの火の剣の所為だろう。


 それでもなお追い込み、カスガルの右肩を僅かに斬った。

 心臓を狙ったが火の風で外されてしまったな。


 目の前で火の砲撃を撃たれ、雷剣で防御するが再び距離が離れてしまう。


 周囲は最初に比べ、強い火の気配が満ちていた。

 まずいな。場が火に支配される。


 マステマがようやくアグニの左腕を始末してこちらに向かってきていた。

 セピアは……まだ無理そうだな。

 出来れば火の気配を散らして欲しかった。

 俺の魔法では効果がない。


「やっぱり強いな。お前は」


 カスガルが左手で右腕の傷を撫でると、血が止まる。


 ここからが本番だ。









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