第118話 肉を求めて
結界を眺めながら王城へ向かう。
セピア達も大分仕事が進んでいるようだが、向こうはもう少しかかるようだ。
アーネラとノエルは自己管理がちゃんとしているのか疲れが見えないが、セピアは残念ながら疲れ切ったミラと同じ状態になっていた。
口から魂が抜けそうな感じ。
何分仕事と魔導士の数が釣り合っていないのだ。
セピアが参加した事で楽になるのではなく、手が付けられなかった仕事にようやく取り掛かれるという有様だ。
こればかりはなんというか、この二人がやはり凄いというべきなのだろう。
二人にセピアを任せて王の間に行く。
こっちは用事が終わった報告だ。
王の間に入り、ラファ女王に謁見する。
今回は正式なものではないので少し砕けた雰囲気だ。
「もう終わったのですか?」
「ええ」
結界を張り終えたことを報告すると真面目な顔で聞き返された。
予想より遥かに早く終わってしまったので向こうも半信半疑なのだろう。
だが実際に結界は王都を覆っている。
まあ確認の為にどうせ子飼いの者に見に行かせるだろう。
「速いですね……。少なくとも半年はかかると思っていたのですが」
「まぁ、仕事が速いので私は有名ですからね」
「そういう話ではないような」
「それで他に仕事はありますか?」
大仕事をあっという間に終わらせてしまったので暇になってしまった。
だが速く出来る手段があるのにわざと遅くしてもな。
勿論マステマに言ったような無理に頑張る必要もない。
最適な手段で余裕をもってやれば十分な結果が出る。
今回は十分すぎたようだが。
「ありません……ね」
手元だけの資料だけではなく、秘書官を呼び寄せて確認しているようだ。
「ではそうですね。結界が張られたことでようやく牧羊が再開出来ますが、それは今からの話です。つまり王都には肉が足りてません」
俺が食べた肉も燻製肉だったな、そういえば。
「帝国からの輸入にも限界があります。騎士達には行き渡っていますが、市民には行き届いているとは言い難いのが現状です」
「なるほど」
「という訳で王都の外で食用の魔物を狩ってきてください。王都の肉屋のキャパシティは非常に余裕があります」
王都の肉屋全てを満たせと。
中々豪快な事を言う。
「分かりました」
まあ食は大事だ。
幸いというべきか本職は冒険者だ。
魔物にはここに居るだけよりも詳しい。
食えるだけではなく、美味い魔物も知っている。
謁見が終わり、マステマと共に立ち上がる。
そういえばよくマステマも此処に通す気になったなと感心する。
ある意味開き直っているのかもしれないな。
「そういえば帝国には戻らなくて大丈夫ですか?」
「特には」
「そうですか。しばらくは滞在して欲しいのでお願いしますね」
いまいち意図を掴めない質問だったな。
王の間を後にし、マステマを連れて早速食糧庫に向かう。
食糧庫には肉の解体をやっている大柄の男が居た。
暇なのだろう。骨を割って寸胴鍋で煮込んでいる。
どの位の肉を持ち込んでも平気か尋ねると、この食糧庫が埋まるまでは大丈夫だと胸を張った。
流通経路から考えてこの食糧庫から肉屋に持ち込まれることになるだろうし、ひたすら持ち込めばいいか。
「裏手を開けておけばいいんだな?」
「ああ、そっちから持ち込むよ」
「分かった。準備だけしておく」
食糧庫の担当には話を通しておいたので、後は肉を集めるだけだ。
結界で魔物が王都から遠ざかっているので探すところからになる。
地図を見てある程度分布を予想していく。
「居るとすればこの森だな」
王都の北にある巨大な森。
王国が悪魔召喚の影響を受けるまでは少しずつ切り開いていたのだが、今はそれどころではなく放置されている。
これだけ巨大な森なら魔物も住み着いているだろう。
早速移動してみると、中々立派な森だった。
というか木がでかい。
普通の木の数倍はある。
その所為で地面の辺りは周囲が昼にもかかわらず真っ暗だ。
一本木を切り倒しただけで家が建ちそうだな。
「じゃ、行くか」
「うん」
マステマを連れて森に入る。
今更この程度で怯まない。
静かな森だ。
虫の僅かな鳴き声と、奥の方から葉っぱが揺れる音がするだけだ。
だが、森の中から大きな魔物達の気配を感じる。
此方を窺っているのだろう。
火の魔法で森の中を照らす。
すると、足元に一匹の兎が現れた。
僅かな気配もなく。
「首狩り兎か!」
こんなところに居るような魔物ではない。
兎が揺れたと思ったら首に強い衝撃が走る。
兎が俺の後ろに移動していた。
今の一瞬に攻撃したのか。
咄嗟にヴィクターの加護で体の強度を上げたのだが間に合ったようだ。
恐らく何もせずに突っ立っていれば首が飛んでいただろう。
兎は不思議そうに此方を向く。
人間が今の一撃を耐えたのが不思議なのだろう。
残念だが、相手が悪かったな。
マステマが首狩り兎に襲い掛かかり、あっさりと仕留めた。
首狩り兎の強さはその一撃必殺にある。
対してマステマにはどれだけ威力があろうと通常の攻撃は一切利かない。
人類の天敵とも言われる首狩り兎だが、呆気なく討伐となった。
今回はマステマも居るので楽に始末できたが、この兎がもし王都に顔を出したら阿鼻叫喚の事態になる。
下手すると王国にトドメを刺す羽目になるのでここで仕留めれてよかったな。
首狩り兎は数も少なく、テリトリーも被らない。
どうやって増えているのかは謎だが魔物だからな……。
ちなみに兎なので肉は美味い。
木の枝を切って兎をつるし、奥に進む。
ピクニック気分だな。
防腐の魔法を使えば腐らないし。
俺達が肉を求めて呑気に森を進む間に、王国では未曽有の事態が起きていた。
森に向かった俺達がそれを知ったのは、獲物を持ち帰った後だ。
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