第117話 復興を進める

 茨の杖がマステマから受け取った魔石を使い結界の起点を発動させる。

 これだけではもちろん望むほどの効果はない。


 精々周辺に魔物が近寄らなくなるだけだ。

 魔石の色が次第に青く変化する。

 周囲には薄い光が魔石を囲っていた。


 手を近づけてみると柔らかい膜のような感じだ。


「まだ魔石を守る強度が低いけど、結界が完成すれば強度を補完し合うって」


 茨の杖がマステマを通して伝えてきた。

 なるほど、この状態では結界が簡単に破壊されてしまうからな。



「どの程度の強度になるんだ?」

「この広さの結界だと……」


 マステマが茨の杖に耳を近づける。

 事情を知ってるから何も思わないが、ハッキリ言って変な奴にしか見えんな。


 まあ容姿が可愛いので少し変な子と思われる程度だろう。


「ふぅん。私が殴る位なら大丈夫だって」

「それは結構な強度だな」

「完成したら試しに本気で殴ってみようかな」

「やめろ。それで壊れたら後が困る」

「そっかー」


 諦めてくれたようだ。

 ここでの仕事は終わりだ。

 次の場所はそれほど離れてないな。


 飛行の魔法で移動し、付近の魔物を片付けて魔石を使って結界の起点にする。

 それをしばらく繰り返し、四分の一が終了した。


 本来は人海戦術でやるような仕事だ。

 それが出来ないから俺達に振られた。


 徒歩ではどれだけ時間が掛かる事やら。

 結界の起点同士が繋がり、一部ではあるが結界の機能が発動した。


 此方を伺っていた魔物達が離れていく。



「ちゃんと効果はあるようだな。結界が完成すればだいぶ楽になるだろう」

「こんな弱い魔物から身を守るのに、こんな大掛かりな事をするんだね」

「それはまぁ、そうだな」


 確かに些か大がかりではある。

 実行役は俺達二人だけとはいえ、この結界の準備にはかなりの手間暇と金が掛かっているのは簡単に推測できた。


 コストと結果を考えれば十分費用に見合う結果は出るだろうが、思い切ったものだ。

 トップに決断力があるのは悪い事ではない。


「今日の分はこれ位で良いだろう。早すぎる位だ」

「頑張れば今日で終わりそうだけど」

「与えられた期間内に終わらせればいいさ。急いでも仕方ない」


 急いだところで新しい仕事が降ってくるだけだ。

 別にそれは構わないが、わざわざ苦労して前倒しにする必要もない。


「そういうものなの?」

「地獄では違うのか?」

「……適当にしてた」

「人間も変わらんさ。サボらない程度にやれば十分早い」


 なんせサボる人間は幾らでも居る。

 サボらないだけで仕事が出来る部類なのだ。


 俺達は飛行の魔法で移動も短縮できるからな。

 よほどゆっくりやってもかなり余裕がある。




 昼には遅い時間だが王城に戻り、食堂に向かう。

 どうやら注文式のようだ。


 魔道学園の食堂に比べると質より量といった感じだ。

 その分安い。


 マステマは肉を山盛りに。

 俺はバランスのいいセットを頼んだ。


 適当な席に座ろうとすると、別行動していた三人組を見掛けた。

 居たのはテーブル席なのでそちらに行くと、食事は終わっていたようだがセピアが頭を机に突っ伏して動かない。


 アーネラから話を聞くと、どうやらひたすら働いていたらしい。

 仕舞いには瓦礫の山から巨大なゴーレムを作り、それで残った瓦礫を片付けたとか。


「それでセピアはちょっと楽しくなりすぎたみたいで……」

「この有様か」

「はい。魔力の使い過ぎなので暫くすれば回復すると思います」

「今日は切り上げさせておけ。お疲れさん」

「分かりました。大丈夫だと思います」


 魔力ポーションを口に突っ込んでも良いが、それだけ働いたなら十分だろう。

 こっちも切り上げることだし、丁度いい。


 俺とマステマが食べ終わる頃にはセピアがようやく復活してきたが、動くのがやっとのようだ。

 二人に後は任せてマステマを連れて王都をぶらつく。


 最後の思い出は地面に倒れ伏す人ばかりだったからな、王都は。

 今は帝国の首都である帝都と同じか、それ以上の活気がある。


 復興の関係で人、モノ、金が大きく動いているのだろう。


 ただやはり男の姿が少ないように感じる。

 歪な性別比が戻るにはかなり時間が掛かるだろう。


 聞くところによると男が減りすぎたせいで、女性の参政権や兵役も考えられているようだ。

 王国の現トップは女王だし、十分あり得る話だろうな。

 少なくとも市民代表の何人かに女性が選ばれるのは時間の問題だろう。


 その結果がどうなるのかは俺にはとても分からんが……。


 適当に店を冷やかし、果実を買い食いして齧る。

 こういう目的もなくただブラつくのは昔は好きではなかったが、今はむしろこういう時間が落ち着くようになった。


 俺も年を取ったのかもしれんな。


 マステマがうろちょろするのを追いかけながら暇をつぶす。

 帽子を買ってやると随分気に入ったようだ。

 適当に土産を買ってアーネラ達に配り、一日を終える。




 結界はそれから四日かけて完成した。

 王都を全方位守護し包み込む結界だ。


 魔法なんか弾くらしいが、人間や普通の動物には影響がない。

 もし影響があるとまともに出入りも出来ない欠陥状態だからな……。


 守りの為に散らばっていた兵士たちを集め、後回しになっていた物見櫓なども建造される。

 結界は王都を魔物から守ってくれるが、人間相手には無力だ。


 皇女様の指揮下にある帝国軍第三師団も駐留しているとはいえ、国として守りはいくらあっても足りない。

 何時までも帝国の力を借りる訳にもいかないだろうからな。


 金もかかるし。

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