第116話 結界を張る
大まかな仕事の割り振りを王の間で聞く。
まあ、ある程度事前に分かっていたが。
俺とマステマで兵士の手が回らない魔物を狩り、セピアと奴隷二人はひたすら魔法で王都の復興だ。
セピアが元魔道学園の学園長なのは流石に向こうも分かっていたようで、詳しい事情は聞かれなかったが期待はしている様子だった。
結果的にまだ手つかずになっている場所の殆どを担当する事になる。
「これ全部?」
「そう言ってたな」
「これは大変だよ……。何日かかるかなぁ」
「日程はそれほど詰めてない筈だ」
「普通の魔導士なら過労死してるからね?」
凡その範囲が描かれた図面を眺めてセピアが唸っている。
魔道国から人を呼び戻してそこそこ月日が経ってもまだこの状況。
やはり人が足りないのだろうな。
「私達もセピアを補助しますから」
「ご主人様はそちらに集中してください」
奴隷二人にセピアを任せる。
ちなみにあくまでこの二人は俺の奴隷であってセピアの奴隷ではないので、三人の関係はノエルとアーネラがセピアの面倒を見るという感じだ。
この辺りは最初に齟齬が起きないようにセピアにも言ってある。
セピアも別に気にしてない様子だった。
マステマと俺はひたすら魔物を狩っていけばいいだろう。
そして狩った後に結界の起点を作ることも込みだ。
元々は砦を作り兵士を配備する事で魔物の襲撃を防いでいたが、兵士の絶対数が減ってそれが出来なくなった。
新しい手段として結界を採用したのだろう。
最初はセピアが結界の担当という話になったが、茨の杖が出来そうだったので向こうに回した。
結界は手間暇がかかるがメリットも多い。
最大のメリットは人手が要らない事。
最大のデメリットは金が掛かる事。
まあ、俺と皇女様の出資もあったし王国は今相当金がある。
結界を張れば一息つけるだろう。
「これが結界の起点?」
マステマが加工された魔石を手に取る。
正六面体に削られた青い魔石だ。
教会のケラー枢機卿が直々に祝福を込めたらしい……のだが。
「触って平気なのか?」
「うん。なんで?」
そう言って太陽に魔石を透かしながら聞き返された。
魔物を防ぐ目的というだけで別に悪魔を弾いたりはしないのだろう。
「人間って凄いね。これ、わざわざ削って形を造るんだ」
「悪魔は造形とか装飾細工とかの文化はないのか?」
「うーん」
聞いてみるとマステマが考え込む。
「ないね。私はともかく悪魔は金とか宝石は好きだけど……、文化としてはない。物好きがやったはする」
「ふぅん。悪魔のイメージとしては財宝を貢げって感じがするけどな」
「それもそう。だから加工前の金とか宝石は沢山ある」
地獄の装飾細工の文化というどうでも良い事を話しながら準備をする。
セピア達は先ほど出発していった。
一度ケラー枢機卿とも会わないとな。
結界の起点は王都を真円に包むように配置する。
二手に分かれるのもいいだろう。
俺も飛行の魔法はそれなりに使えるようになっているので、そこまでマステマに後れは取らない筈だ。
「別に急いでないなら二人で話しながらやろう。正直面白くない」
「そりゃ面白い仕事じゃないが」
マステマ一人だと飽きるという問題があった。
仕方ない。二人でやるか。
マステマは別に誰かに従う必要もないからな……。
これを誤解して良い様に使うと扱いを間違えて寝首をかかれるんだ。
別に悪魔に限った話じゃない。
そうして自滅していった人間をしばしば見てきた。
他人の機嫌を取る事は、自分の機嫌を取る事と同じくらい意味のある事だ。
媚びを売るって訳じゃない。ただ少しばかり相手の為に労力を使うだけで物事が上手くいくならそれは損ではない。
「しゃあ二人で行くか」
「うん。そうしよう」
「私も居ますが」
「黙ってて天使。今は用はないでしょ」
ヴィクターが口を挟んできたのでマステマがそれに反応する。
マステマは意外とヴィクターの事を嫌ってないのは口調で分かっている。
憎まれ口を叩く程度には仲が良いのだろう。
「その顔、変なこと考えている」
「同感です」
こいつ等……。
今回は雷剣と天剣を装備している。
雷剣を使うのは魔導士として修練を積む前以来だ。
火剣がああなった事を考えると少し楽しみだな。
「とりあえず上から右に回っていくぞ」
「分かった。魔物は全部殺せばいいよね」
「ああ。弁当も持ったし、行くか」
「素材も要らないなら早く終わりそう」
魔物の素材を無視するのは冒険者としては少し邪道ではある。
とはいえ、冒険者として稼ぐ意味ももうあまり無いからな……。
ちなみに今回の報酬は大して貰ってない。
なぜなら一部とはいえ俺が出資した金が俺に戻るだけで意味が無いからだ。
アーネラとノエルは食堂でいつの間にか弁当を用意していた。
流石の家事スキルだ。あいつらが居なかったと思うと震えが来る。
人の居ない場所まで歩き、マステマが先に空に飛ぶ。
俺がそれを追いかけた。
マステマが本気で飛ぶと俺が置いて行かれるのでほどほどの速度で飛行して目的地に向かう。
地上から移動すると地図との位置のすり合わせが割と大変なのだが、空からなら結構楽だ。
マステマと話しながら最初の起点になる位置に移動する。
降りた瞬間熊と蛇の魔物が襲い掛かってきたので、熊の魔物をマステマが吹き飛ばし、蛇の魔物を俺が雷剣でなます切りにする。
雷剣が紫電を纏う。
以前よりも遥かにキレがいい。
「じゃよろしく」
そう言ってマステマは結界用の魔石を茨の杖に渡す。
茨の杖は蔦を伸ばしてそれを受け取ると、魔石から結界の構造を読み取って構築し始める。
「いい子いい子」
そう言ってマステマが茨の杖を撫でる。
粗末な扱いが多いのだが、マステマなりに愛着があるようだな。
それならもう少し大事にしてやればいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます