第115話 奴隷二人とだけは久しぶり

 諸々は次の日から、となって食事会は解散になった。

 というより早く着きすぎたので向こうが調整しなければならない様だ。


 魔道馬車の移動速度は普通の馬車の二倍以上はある上に、夜間も移動するのでとにかく早い。


 ここまで早く到着するとは思ってなかっただろうな。

 もう少しゆっくり来ればよかったかな。


 あの馬車は寝泊りも快適だし。


 食後のお茶会で具体的に何をするのかを聞く。

 内容的に魔物退治と王都内の復興工事で二手に分かれることになりそうだ。


 シュバリエの受勲式は無しで決まったというか決めさせた。

 内々で済ます。政治利用まで許した覚えはない。


 向こうもそれは飲んだ。

 あくまで国内で動きやすくなる為のものという見解で一致した。


 その後、寝泊りは基本的に王城内となるので案内を受ける。


 途中で見覚えのある魔導士を見掛けた。見るからに疲れていたので一声かける。

 確か名前はミラ、だったか。

 軍の魔導士だった筈だ。


 勲章が増えているので出世したのだろう。


 声を掛けると死んだような声で返事が帰ってきた。

 安心してくれ。セピアを扱き使うからだいぶ楽になる筈だ。


 ミラは乾いた笑いを浮かべる。


「そうなると良いですね……」


 仕方がないとはいえ気の毒なので、強壮効果のあるポーションを渡しておく。

 強く生きろ。


 ポーションを飲んだあとミラは少し元気になったようだ。


 魔道学園から戻った学生達を指揮して復興に当たっているらしい。

 学生たちは貴族の子弟の筈だが……と思ったらミラも一応貴族の出とのことだ。


 軍の魔導士はそもそも貴族の影響は薄いのもあって、何とか現場が回ってるとか。

 多少は見知った仲だ。愚痴を聞いてやる。


 少し話した後、ミラは寝る為に仮眠室へ向かった。


「……私もああなるの?」

「みたいだな。お前は実力的にもあっちの手伝い確定だ」

「そ、そう。頑張るね」


 セピアはちょっと引いていた。

 上級魔導士の実力に期待している。

 ノエルとアーネラも付けてやるから頑張ってくれ。



 メイドに部屋を案内される。

 一人一部屋。

 後は自由時間という事で各自で過ごすことにした。


 部屋の中に風呂がある。贅沢なつくりだ。

 早速風呂に入り汚れを落とす。


 その後風呂から出て、楽な格好をして整えられた純白のシーツが敷かれたベッドに座る。


 シュバリエか。

 あくまで名誉の為の爵位、称号に過ぎない。

 簡単に配るものではないのは確かだが。


 何処かで皇女様に押し付けられるだろうとは思っていたが、まさか王国で貰う羽目になるとはな。


 ま、貰ったからには有効的に使わせてもらうか。

 今の王国が騎士を動員するような戦争は起こらないだろうし、俸給を無視すれば国外に出ても問題ない。


 心配なのは皇女様の反応だな。

 間違いなく嫌味が飛んでくるぞ。


 あの人陰湿な所があるから一日ネチネチと言われるに違いない。

 その上で帝国のシュバリエになるまで外に出さないだろうな。


「めんどくせぇ……」


 それが一番気が重い。


 ダラダラと過ごしていると、ノックの音がする。

 扉を開けるとメイドが立っていた。


 ああ、アレか。


「宜しければ、今夜のお相手を……」

「疲れてるからいらん。寝ていたとでも言っておけ」


 そう言って追い返す。

 何か言おうとしたが扉を閉めた。

 ハニートラップ、とまではいわないが良くある手だ。


 わざわざ向こうの首輪が掛かった女を抱くのはちょっとな。

 どうせ内容は全て筒抜けになる。


 冗談ではない。割り切って楽しむやつもいるかもしれないがそんな趣味はない。

 それならアーネラかノエルを呼んだ方が良い。


 ベッドに横になり、目を瞑る。

 皇居にも泊まったことがあるが、やはり慣れんな。

 それでも眠るのが冒険者の心得というものだが……。


 明かりを消して目を瞑る。

 思ったより疲れていたようだ。強い眠気を感じる。


「起きてる? ……寝てるか」


 マステマの声が聞こえた気がした。









 次の日、妙にすっきりした気分だった。

 久しぶりにベッドで寝たからかもしれない。


 疲れも残ってない。丸一日働けそうだ。


 他の四人も合流する。どうやらよく眠れたようだ。

 とりあえず正装しておくように伝えたので皆ちゃんとした格好だ。

 マステマの正装は悪魔の姿になるので、とりあえず普通の服を着るように言った。


 メイドが予定を伝えに来たが、行動するには今はまだ少し早い。


「少し散歩するか」

「はい、お供します」


 マステマとセピアはまだ眠いと言って引っ込んでしまったので奴隷二人を連れて歩く。

 尤も奴隷だと分かるようなものは付けさせていないので、二人を見ても奴隷だとは分からないだろうが。


 そう言えばマステマと一緒に居る事が多かったように思う。

 この三人で行動するのは久しぶりかもしれない。


 いや確実に久しぶりだな。下手すると帝国の自宅以来か?


 二人は一歩引いて俺についてくる。この距離感が気持ちいい。

 王城内は朝から慌ただしい。


 しばらく見て回ると庭園を見掛けた。

 噴水を囲むように花で彩られた場所だ。


 足を踏み入れると、奥には女王が居た。

 花の世話をしているようだ。メイドが一人その手伝いをしている。


 その様子だけを見ると随分絵になる姿だ。

 邪魔をするのも悪い。後ろの二人に目配せして移動することにした。


 しばし暇をつぶし、再び予定していた時間に王の間に移動する。



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