第114話 シュバリエ
俺の名前を呼ばれ。顔を上げる。
ラファ女王の姿が見えた。
白いドレスと編み込んで結んだ赤い髪が良く映えている。
視線が交わった。
皇女様と仲が良いとは聞いていたが、なるほど同類か。
「驚かれましたか?」
「ええ。私は一介の冒険者です。卿と呼ばれる立場ではありません」
「そうでしょうか? 教会の立場だけでも十分呼ばれる立場だと思いますが」
教会騎士か。
押し付けられたようなものだが、確かにそんな肩書もあったな。
実際のところ俺は教会に所属しているわけではない。
ケラー枢機卿と個人的な親交があるので上手く使わせてもらっているだけだ。
向こうも天剣の所持者と繋がりがあるのはメリットがあるからな。
「あくまで代理です、女王陛下」
「なるほど。それはそうと、救国の英雄にわざわざ復興の手伝いに来て頂いたのです。動きやすい立場が必要だと思います」
嫌な予感がする。
「そのようなご配慮を頂く必要はありません。ただ復興せよと命じてくだされば十分です」
「勿論そうします。ですが今この国は大局を見て指揮できる人間が少なく難儀しているのです。その辺りも期待して呼んだのですよ」
「それは……」
「一先ずシュバリエの称号を授けます。受けて頂けますね?」
やっぱりあの皇女様と仲が良いだけある。
事前に打診なく騎士の称号とは。
一応正式な謁見のこの状況で断れば、女王の顔を潰すことになる。
別に俺はそうなっても怖くはないが、しかしなにかしらの影響は避けられないだろう。
勿論、受けたら受けたで影響がある。
どちらにせよどうにでもなるが、してやられた。
シュバリエの称号は帝国にもある。
例えば戦争や魔物退治で活躍した人間に与える一代限りの名誉貴族というやつだ。
領地もなく、権限もほぼ無いが俸給は出て、一応貴族の扱いになる。
冒険者としがらみのない貴族では確かに貴族の方が動きやすいだろうが、本番いきなりとは。
皇女様からも何度も押し付けられそうになって回避していたのだが……。
受けるしかないだろう。
シュバリエならまだ名誉階級で済む。
流石に正式な臣下はちゃんとしたルートで打診するだろう。
そうでなければ他が反対する……。
もしかして今王国には反対する人間も居ないのか?
確かマステマが召喚された時、王宮の中では死体だらけだった。
王もだが、大臣や役職についていた貴族もあの時かなりの数が死んだ。
俺が想像している以上に王国の屋台骨は揺らいでいるのかもしれない。
少しでも支えが欲しいのだろう、という考えは邪推だろうか。
「お受けします。女王陛下」
「ええ。ありがとう。アハバイン卿」
ラファ女王はそういうと笑顔を向けてくる。
芝居は完璧だな。
「ああ良かった。なら立ち上がって。今日は他に用事もありません。食事でもしましょうか」
ラファ女王がそう言って手を叩く。
それを合図に俺達は立ち上がり、メイドの案内で移動する。
女王は後から来るのだろう。
「良いの?」
「王族の顔を潰してまで断らんさ。次は勘弁してほしいがな」
「ふぅん。人間は大変だね」
マステマは騙し討ちされたのは理解しているようだ。
悪魔なら暴力で解決すれば良いのにという話になる。
とはいえ、俺と女王の話の間にある機微は理解できているようだ。
自分に押し付けられなければまあ好きにしろ、という事なのだろう。
実に悪魔らしい。自己責任論というやつだ。
メイドたちが丁寧な仕草で準備を進めていく。
席に座り女王を待つ。
セピアがそわそわしているのでノエルが小声でセピアへ何か言う。
アーネラも少しだけ緊張しているようだが問題ないようだ。
マステマは足をぶらぶらさせて料理を待っている。
すると遅れて女王が部屋に入る。
メイドたちは頭を下げ、俺達は椅子から立ち上がる。
マステマが立ち上がらなかったので肘で小突く。
こいつが従うのは魔王デモゴルゴンのみ。
とはいえ、形だけは取り繕わないとな。
この部屋に騎士は居ない。
そして女王に連れ添いもなし。
俺を信頼しているというアピールか。
食事は終始和やかに進んだ。
食器のスプーンとフォークは銀だ。
「悪魔は銀を嫌がるのか?」
「……? 何で悪魔が銀を嫌がるの? そりゃあ金の方が好きだけど」
マステマに聞いたら逆に聞き返されてしまった。
銀そのものは悪魔にとってはただの金属で、祝福と相性がいいというだけらしい。
ノエルとアーネラは食べながらセピアとマステマに目を光らせている。
一応二人とも問題ないようだ。
マステマも簡単に説明したテーブルマナーを一度で理解している。
こういう作法で食べる食事という認識のようだ。
「ちまちまして面倒。量も少ない」
「おい」
「ふふ、構いません。そうね、あれを持ってきて」
ラファ女王がそう言うと、大皿に盛られた肉料理が運ばれてくる。
山盛りのパンもだ。
「冒険者はよく食べると聞いて用意していたの」
確かに冒険者が数人いれば食べ切れる量だが……。
アーネラがこちらに助けを求める視線を向けてきた。
大丈夫だ。うちにはマステマが居る。
「ちょっとずつ食べてたら満足してきたかも」
お前、いつも呆れるほど食べてる癖に……!
「あ、でもこれ美味しいね」
「そう、良かったわ。後でシェフに伝えておくわね」
そう言ってマステマが大皿から取り分けてパクつき始めた。
やれやれ。
「さて、食べながら本題に入りましょうか」
ようやく本題のようだ。
「といっても、お伝えした通りです。魔道学園から貴族の子弟も戻り大分進んできたのですが、未だに家に戻れない住民も多く、復興を急がねばなりません。魔物退治も滞っています。幅広くカバーして頂きたいのです」
割と無茶を言う。
だが、幸いにも今のうちのパーティーは以前と違って対応力が非常に高い。
やれないことはないだろう。
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