獅子戦争編

第113話 女王への謁見

 オルデリス王国までの道のりはそれなりにある。

 魔道馬車に移動を任せ、荷台の中で暇をつぶす。

 カードは飽きたので別の遊具で遊ぶ。


 これはこれで頭の訓練になるな。

 ノエルとアーネラが強すぎるが。


 食事の時や水場を見つけた時だけ馬車を止める。


 セピアが土の魔法を応用して風呂を作った時は驚いた。

 後始末もあるので全員で入る。冒険者の流儀みたいなものだ。

 セピアは恥ずかしがってタオルを巻いた。


 熱い湯が疲れを解きほぐしていく。

 アーネラに背中を流させた。


 外を眺めながら浸かる湯は良いものだな。

 流石に住宅地でこうする訳にはいかないが。


 ゆっくりと浸かる。

 急ぐ旅ではないし、全員火の魔法を使えるので湯が冷めることもない。

 マステマが湯を温めようと地獄の火を出そうとしたときは慌てて止めた。

 まとめてあの世に昇天してしまう。


 湯から上がり、食事を済ませてその日は眠る。

 食事のバリエーションが乏しくなる前にどこかに寄りたいところだ。

 出来れば村落ではなくちゃんとした都市に。


 自由気ままな冒険者の旅はやはり良いものだな。

 だが、ずっとこうする訳にもいかないのだろうなという気もする。





 魔道馬車のお陰で、普通に旅をすれば数ヵ月はかかる道のりが遥かに短縮される。


 これが魔道列車なら更に速い。

 あの魔道列車が軍事利用されれば、非常に大きな脅威になるだろう。


 列車自体もそうだが凄まじい輸送能力はそのまま戦争の強さに繋がる。


 いずれノウレイズ魔道国は世界に覇を唱えることになるかもしれないな。

 あのハインという女の顔を思い出す。


 顔は美しいが、内面はとても人間とは思えない女だ。

 あれがこのセピアの姉とは信じられない。


「なに? 何かついてる?」


 セピアを見ると、どうやらゴミがついていると勘違いしたようだ。


 顔をキョロキョロさせながら体をはたいている。


 やはりあの女と姉妹とは思えない。

 そのまま、まっとうに育ってくれ。


 道中、体を動かす為にあえて魔物を退治したり、運動を挟みながらようやく王国の国境を越えた。


 道中に砦があったものの、以前と変わらず無人だ。

 まだこの辺りに兵力を配備する余裕はないだろうな。


 魔物がそれなりにいるのもその影響だろう。

 魔道馬車で魔物を轢いてもいいのだが、それをすると思いのほか血で汚れることが分かったのでちゃんと対処する事にした。


 素材は魔石以外は回収しない。

 荷台が埋まると困る。


 肉だのなんだのは食べれる部分だけ多少回収してその日に食べればいい。


 更にいくつかの都市を経由し、ようやく王都に到着した。

 城壁を通過し、門番と話して中に入る。


 人の出入りはかなり多い。

 まだ完全な姿とは言い難いが、活気にあふれた様子はすぐに見て取れた。


 市場も賑わっているようだ。


「ここが王都ですか」

「ああ。大分綺麗になったな」

「あ、あそこ私が壊したところだ」


 マステマが指をさすと、修繕中の一角が見えた。


「うわ、あんなになって。何やったのマステマ」

「アハバインをぶっ飛ばした」


 セピアの質問に対し、マステマが自慢げに胸を張る。

 あの時は死ぬかと思ったぜ。いや本当に。

 ヴィクターが強化した今でもまたやりたくはないな。


「アハバインも大変だったんだね」


 セピアは苦笑しながら俺にそう言った。

 お前も大概だがな……。

 流石に可哀想なので言わなかった。


 そのまま王城に向かう。

 流石に王城付近は優先されたのか綺麗に整えられていた。


 魔道馬車は王城の門番に預ける。

 そのまま厩舎に預けられるようだ。


 生き物ではないが、一応馬だからな。


 王城に五人で入る。

 ノエルとアーネラは流石に少し気後れしていた。


 マステマは人間の王へ畏まる必要はないと言わんばかりだ。

 俺はまあ慣れている。


 意外なのはセピアだった。

 それほど普段と様子は変わりない。


「別に臣下じゃないし……」


 変なところでドライだった。




 俺を先頭に一団が進む。

 王城の中は些か慌ただしかった。


 王国はまさに復興の真っ最中だ。

 人手はいくらあっても足りないのだろう。


 それこそ壊した張本人の手を借りたい位には。


 王の間に通される。


 中では複数の騎士が両脇に控え、ラファ王女が王座に座っている。

 いや、戴冠したならば女王か。


 恐らく魔道国に行っている間に戴冠したのだろう。

 あの国は外からの情報は余り入らなかったからな……。


 いくら研究熱心でも閉鎖的なのは考え物だ。


 前に進む。


 両脇の騎士は微動だにしない、と言いたかったがそうでもない。


 マステマ召喚の際に多くの熟練した騎士が死んでしまった。

 今ここに居る騎士達はその穴を埋めるために昇進した若い騎士達だろう。


 普通こういう場では完全不動が騎士の鉄則だが、僅かに揺れている。

 未熟な証だ。


 今のマステマは悪魔の姿はさせていないので動揺している訳でもないだろう。


 マステマにはこの国に居る間は悪魔の姿は一切するなと強く言ってある。

 あの悪魔の姿はそれなりに見られていて、恐らく多くの人のトラウマを刺激するからだ。


 マステマも俺の言う事は理解できるのか頷く。


 マステマが優先するのは好奇心に根差した知識欲とグルメ欲だ。

 顕示欲は場に合わせて、らしい。


 決めたいときはちゃんと悪魔の姿をしたいようだ。

 今回のような状態なら別に誇示しなくてもいいみたいだ。


 悪魔の基準は分からん。

 まだデモゴルゴンの方がある意味わかりやすかったかもしれない。


 そして女王に謁見する。

 作法に倣い、右ひざを床につけ左ひざを上げる。

 視線を下にしてあちらからの声を待つ。


 アーネラ、ノエルはこの辺りの作法も学んでいるようだ。

 マステマは俺の真似をしている。

 セピアは慌ててマステマに続いた。作法は記憶で知っていたがどのタイミングかは分からなかったらしい。


 ラファ女王が立ち上がった。視界の隅に映る赤い髪が目立つ。


「良く来てくださいました。アハバイン卿」


 綺麗な声が王の間に響く。

 ……卿、か。





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