第112話 ラファ王女からの手紙

 天空の塔を後にする。女から預かった透明な球体は無人の集落に置いていく。

 暇つぶしのつもりだったが、中々強烈な体験をさせられた。


「次はどこへ行くの?」

「んーと、そうだな」


 マステマの質問に頭を悩ませる。

 そもそも魔道国での数年分の予定が白紙になってしまったのだ。


 とりあえず今は最寄りの村落に向かってはいるが、次に行く場所は決めておかないとな。


「後で決めよう」

「ふーん。じゃあこれやろう」


 マステマがそう言うと、カードを取り出す。

 どうやら魔道国で知的遊具も買い集めていたらしい。


 五人でこれをやろう、という提案だった。


 気を紛らわせるには良いだろう。


 そうして始めたカード遊びでは最初はセピアが勝ったものの、すぐにマステマが追いついた。


 セピアはルールはよく理解していたがあまりやった事がないらしい。


 だが次第にノエルとアーネラの二人がしのぎを削り始める。


 そうだった。この二人は高い教育を受けてかなり頭が良いんだったな。


 頭の回転がとにかく速い。

 俺もルールも把握したし、勝ち方も理解したがこの手のゲームでこの二人に勝つのは難しいな。

 出し抜いた時でさえ切り抜けてくる。

 俺が手を抜くことを嫌うのも二人は把握しているのでそれなりに本気だ。


 最終的に僅かにノエルが勝ち越したが、本当に僅かな差だった。

 まあ良い暇つぶしになったな。


 外に顔を出す。もう夕暮れ時だ。

 赤い地平線を眺めていると、一匹の鳥がこちらに向かってくる。


 マステマが撃ち落とそうと手を向けたので止める。

 あれは使い魔だ。


 青い鳥の使い魔は右の趾に紙が結び付けられている。

 俺宛の手紙か。


 手紙を取ると使い魔の鳥は立ち去っていった。

 マステマ、涎を垂らして鳥を見るな。

 飯は食わせてるだろ。


 アーネラが山羊の乳と砂糖で作ったお菓子をマステマに与えると、マステマはそれに夢中になった。

 セピアも分けて貰っている。


「ご主人様もどうですか?」

「一つ貰おう」


 口に入れるとひたすらに甘い。偶には良いかもな。


 手紙を開くと、送り主は意外な人物だった。

 てっきりまた皇女様かと思ったら、ラファ王女からの手紙だ。


 王国の国債の支払いは組合の方に回してもらってるから、その件ではない。

 何か用事だろうか……。


 手紙を読むと前半は挨拶で埋まっており、後半に用事が書かれていた。

 前半の挨拶から王女や王国の近況を確認する。


 用事に関しては……なるほど。

 一応連絡しておいた皇女様から俺達がフリーになったのを聞いたようだ。


 王国の復興を良ければ手伝って欲しい、という内容だった。

 大分進んではいるが、やはり人手が足りないらしい。


 その場合、王国が直接俺達を雇うとの事だ。

 条件は、絶賛復興中の金欠な国庫にしては良い。


「王女から直接手紙が来るんだ……本当に大物なんだね」

「まあ、縁があってな。お前も学園長だっただろう」

「元、だけどね。学園は解体されちゃうし、あんまり大きな声で言えないかも」


 セピアがそう言って落ち込む。

 自分で言って自分で落ち込むな。


「どうされるのですか?」

「どうせ暇だしな。復興の手伝いでしばらく滞在するのも悪くない。魔法があれば色々捗るだろうし」


 そう、魔導士は何も戦いだけではない。

 むしろその価値の本質は戦い以外と言っても良いかもしれない。


 なんせゴーレムを作れば疲れ知らずの力持ちの作業員になり、水を操作すれば治水も出来る。

 風が無くても風車を回せるし、火は多くの事に使える。


 そう、魔導士は便利なのだ。

 カスガルは便利では無かったが……。


 王国が魔道学園に留学していた貴族を事前に戻したのもこうした理由が大きいだろう。少しでも手が欲しいんだろうな。


 このパーティーは全員中級以上の魔導士だ。

 マステマは結局人間の魔法には飽きてしまったが、代わりに茨の杖がある。


 セピアはなんなら上級魔導士だ。それも万能型。


 ああそうか、冒険者じゃなくてこういう方面でもこいつなら食っていけるな。


 他俺を含めた三人は中級だが、それなりには役に立つ。

 そう思って二人を見る。

 ノエルとアーネラを見ると、俺が見た理由は分からなかったようだが笑みで返してきた。


 魔道馬車に行先を変更させる。

 食料もあるし、水はどうとでもなる。


 目的地は王国。オルデリス王国だ。


 復興の手伝いなら魔道国の魔道学園とセピアから学んだ魔法の実地検証にもなるだろう。

 後は魔物退治もやらされるかもしれないな。

 なんせ王国の兵力は大半が失われてしまっている。


 未だに皇女様の指揮下にある帝国軍が一部駐留しているはずだ。


 再編もしているだろうが、手が足りんだろう。

 復興にも人手を割かねばならない。


 考えれば考えるほど復興は大変だなと他人事ながら感じた。


 それでもやらねばならないのが王族の役目、か。


 自由気ままに動く俺とは対照的だ。


 だからこそ手を貸す気になるのかもしれないな。


 マステマが俺の背中に乗りかかって、俺の肩越しに手紙を読む。

 こいつは帝国語も本を読む過程ですべて学んでいたんだったな。


 知的好奇心の塊だ。王国でそれを満たせるかは分からないが、復興の手伝いは退屈はしないだろう。


 ここから王国へは魔道馬車でも多少は時間が掛かるな。


「壊れたものを直すのが好きだな、人間は」

「直せるものは直して使うのさ。それが人間だ」

「そういうものか」


 そう言ってマステマは俺から離れて、再びカードを広げる。

 仕方ない、付き合ってやるか。

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