第59話 地獄研究会
なんども肩を揺すられたマステマは、ふらついていた。
三半規管は悪魔でも鍛えられないのか?
仕方ないので少女学園長に色々と説明する。
流石に学園長にまで情報を伏せるのは、後々を考えると難しいだろう。
今のうちに伝えた方が早い。
どうせ王国側も、何時までも隠し通せるとは思っていないだろう。
「王国事変は噂には聞いていたが、悪魔崇拝者が本当に悪魔を呼びおったか」
「かなり大変だった」
「だろうな。そして呼び出した本人はさっさと満足してこやつに殺されたと」
少女学園長はジロジロとマステマを全方位から見る。
スカートまでめくろうとしたので、マステマが少女学園長の頭にチョップして辞めさせていた。
流石に力は込めていないようだ。
少女学園長は頭をさすりながら、再び偉そうに胸を張る。
「悪魔、それも領地持ちの上級悪魔。それをお主が倒して今は従えておると」
「そうだ」
「にわかに信じがたいが。今こうして大人しくしている悪魔を見ると事実なのか。私がかつて見た悪魔とは随分違うが」
「今のこいつはあれだが、戦った時はまさに悪魔そのものだったぞ」
「ん。見せる?」
マステマが反応する。
「見た目だけだ。魔力は解放するな。目立ち過ぎる」
「はーい」
マステマの姿がかつて俺と戦った時の姿に戻る。
魔力は解放しない代わりに、それっぽいオーラを纏っていた。
芸が細かいやつだ。
「……おお、確かに。一度だけ見たことがある悪魔に似ておる」
以前悪魔が現れたのは相当昔だった筈だが。
いやよそう。女性に年を訪ねるのは失礼だ。
少女学園長は今度は角を触ろうとして、マステマに手を弾かれていた。
「そういえば名前を名乗っていなかったな。セピア。セピア・スレードゲミルだ。見ての通り魔道学園の学園長をしている」
どう見ても少女にしか見えない。
紫色の髪が肩まで伸ばされている。
「セピアで良いぞ。姓はごつくて好かん」
「俺はアハバイン・オルブストだ。こいつはマステマ」
「ふむ。名高い帝国の天騎士か」
「お、知ってるのか。嬉しいね」
「たわけ。天使殺しを知らぬ魔導士がおるか。直に皆も気付くだろう。いや気付かんかも。みんな自分の事しか興味ないし……調整大変だし……」
何やら地雷を踏んだらしい。
見た目はともかく、まっとうに学園長をしているのだろう。
「天使殺しを成した天騎士ならば、悪魔も倒す手段があってもおかしくないか。浸食はどうなったんだ?」
「あれはコアが片方砕けたら、地獄とのリンクが消えて途中で終わった」
「なるほどな。悪魔を媒体にして地獄と繋がるのが侵食という仮説は合っておったか。コアが砕かれると媒体としての価値が弱まると。そもそも世界の修正力が働いておるからなー」
なにやら一人で熱中し始めた。
魔導士の中でも研究者側らしい。
暫く放っておくと、ようやく落ち着いて来た。
「大分脱線してしまったな。で何の用事だ? 挨拶に来たなら殊勝な心掛けだぞ」
「いや違うが。学園内に家があれば買いたい」
「家か。寮では……無理だな。一度聞いてしまっては、とても他の生徒と住まわせられん」
そう言いながらセピア学園長は地図を取り出す。
「この家ならば、既に人が引き払っている筈だ。だが、ここは魔道学園。曰くがない場所はない」
「なんだと」
「つまりは呪われている可能性が高い。幽霊も居るかもしれん。そして面倒だから放置することにより呪いが呪いを呼ぶ」
「ということは?」
「何とかしてくれたら住んで良いぞ。それなりにいい家だ」
なるほど。空いている家があるが問題だらけ。
解決する暇も人手もない。
なら住みたい奴に解決させれば合理的と。
「じゃあそうさせてもらおう。楽な仕事だ」
こっちには、呪いだの幽霊だのの完全上位互換の悪魔が居るんだ。
居るだけで特攻だぜ。楽勝だ。
「うむ。外観も奇麗にしてくれると助かる。悪魔が居れば周囲も勝手に解決するだろう」
一つ問題が片付いたからか、セピア学園長も笑顔になる。
「あー、それと。なんだ」
だが次に何か言い淀み始めた。
気になる言い方だ。
「何かまだあるのか? 教室に戻りたいんだが」
「その、な。悪魔なんだが」
「今更入学できないとか言わないでくれよ」
「そうではなくてぇ」
ややセピア学園長は気弱にふるまう。
見た目が少女だから、俺が悪いみたいな雰囲気だ。
「うちにもその、悪魔信奉者ではないんだがそういうのが居てな?」
「はぁ?」
そう言えば使い魔で覗き見をしていた魔導士が居たな。
それが繋がるのか?
「地獄研究会という魔導士の集まりがあってな……悪魔と地獄を研究して魔導士としての強化に活かそうというグループで、結構成果も出している」
ネーミングがまず地獄だろ。誰も突っ込まなかったのか。
「最近は学園内でも派閥を持ち始めて、教官も何人か参加している。
少しばかり危惧している集まりなのだが、悪魔そのものが来たとなっては少し危ないかもしれん」
「そんな連中にマステマがどうこうされるとは思えないが」
「私もそれは思う。目の前にすれば分かる。存在からして次元が違うのがな」
まあ覚えておけ、と言われて話は終わった。
学園長室から出て教室に向かう。
マステマは元の魔導士の姿に戻り、茨の杖を握って……。
「それは片付けろ。危ない」
「やだ。カッコいいから気に入っているんだ」
「はぁ……誰かに握らせるなよ。それだけで殺人事件だ」
「大丈夫。私の意思無しで発動しないように教えた」
「そうか。ならいい」
教室に戻ると、アーネラが少し慌てた様子でいる。
どうやら何かあったようだが……。
「アハバイン様、ノエルが決闘を申し込まれました!」
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