第58話 少女学園長
教官に案内されたのは、少しばかりボロい教室だった。
机も椅子も、最低限の機能を果たす程度の物で、座り心地は最悪だった。
なるほど、これが下級組の扱いという訳だ。
配られたバッチを身に着ける。
生徒たちが椅子に座ると、教官が前にある教壇に立ち、こちらに向き直る。
教官は見た目は若いが、髪が完全に白くなっている。
ストレスだろうか?
小さい眼鏡が異様に似合っている。
「生徒諸君。とりあえず入学おめでとう、と言っておこう。君たちはかろうじて入学を認められた者たちだ。一年後に何人残っているかは分からないが、努力次第では進級できる。頑張り給え」
そう言った後、教官は周りを見渡した。
「私の名前はガルン・テスタードという。これから君たちの指導教官となる。私の採点で君たちの進級が決まるから、よく覚えておくように」
ガルン教官は早速、俺と隣に座っているマステマを見た。
「……アハバイン君だったな。それと隣のマステマ君。足を下ろしたまえ」
余りに座り心地が悪いので、足を机の上に乗せていたのがダメらしい。
マステマは俺を真似ている。
下にズボンを着せているとはいえ、今のマステマがやるとちょっと色々と危ない。
クローグスが必死に見ないようにしている。中々紳士だな。
ちなみにマステマとは逆側の席に座るルリーゼは、必死に俺が机に足を乗せるのを防ごうとしていた。
「無礼なのはもちろんだが、マステマ君、その格好は淑女として非常に問題がある。姓からして兄弟かなにかなのだろう。アハバイン君、君からも辞めさせ給え。というか君も足を下ろせ」
教官に逆らっても仕方ないか。
仕方なく足を下ろす。良い椅子を買ってこないとな。
マステマの足を下ろさせる。あ、こいつ宙に浮いてる。
まあ座り心地悪いからな。
ルリーゼはクッションを敷いている。無駄に準備が良い。
ガルン教官は咳払いをした後、話をつづけた。
話の内容は簡単に言えば問題を起こすな、授業に出ろ、課題をやれ。そして問題を起こすな、だった。
二度も強調するほどなのだから、毎年問題が起きているのだろう。
まあ周りを見ても普通の奴らが居ない。
「何か質問はあるか? 無ければ少し休憩を挟むが」
ガルン教官の言葉に、だるそうに俺は手を上げる。
「……何かねアハバイン君。言ってみたまえ」
「優良組? だったか。彼らはどこへ?」
うちの奴隷が二人とも連れて行かれたのだが。
後で一度合流するにしても、場所を知らないと困る。
「……名簿では君と同じ姓の者が二人いるな。優良組とこちらは棟が分かれている。あちらだ」
ガルン教官が指さすと、そこには棟ならぬ塔があった。
どうやら、優良組はあちらで授業を受けるらしい。
ノエル、アーネラとは別で学ぶことになりそうだな。
「行き来自体は問題ないが、こちらの生徒は向こうでは煙たがられる。覚えておきたまえ」
恐らく意図的に下級組を用意して、本命の優良組に優越感を与えることで学習意欲を与えているのだろう。
分かりやすい手だ。
こういうやり方をしている冒険者ギルドがあった。
その結果はまあ、語らないでおこう。
「それでは私は失礼する」
「まだある」
「……はぁ、なにかね。次で終わりにしてくれ」
あからさまに面倒だ、という態度になるガルン教官。
彼も魔導士だ。
自分の研究もあるし、こんな落ちこぼれ達に時間を使いたくないのだろう。
「この魔道学園に使われてない宿舎か家かはあるか?」
「……不思議な事を聞く。ここは全寮制だ。寝泊りする場所なら後で案内をするから心配しなくても」
「寮が嫌だから、余ってる家があれば買いたいんだが? 見た限り敷地がこれだけ広ければそういう場所もあるだろ」
初めてガルン教官がにやりと笑った。
「外から通いたいと言ってきたものは多いが……その提案は始めてだよ。少し面白いな。ついて来たまえ。他の者は少し待機するように。直に別の教官が来る」
ガルン教官が外に出るので俺もそれについていく。
マステマもついて来た。
寝るのは好きだが暇が嫌な奴だからな。
まあ良いだろう。多分。
ガルン教官は、なぜかついて来たマステマを無視して進む。
棟を移動し、魔道学園の中央へ向かう。
しばらく歩かされた先は魔道学園の学園長室だった。
「では失礼する。後は頑張り給え」
そう言ってガルン教官は居なくなってしまった。
どうやら取次もしてくれないらしい。
まあ魔導士にその辺を期待してもしょうがないか。
扉をノックするが返事がない。
扉にも鍵がかかってない。
扉を開けると、中でマステマと同い年位の少女が着替えをしていた。
スカートを丁度履こうとしていたので、ゆっくりと閉める。
少し待つか。
「入ってこい」
扉越しに声がしたので中に入る。着替えは終わっているようだ。
少女が大きな机に座っていて酷く不格好だ。
「いきなり入るでないわ。今更お前のような若造に見られてもなんとも思わんが、失礼だろう」
「すまん。だが鍵は掛けておくべきだろ」
「それはそうだ……、それで学園長である私に何の用か」
少女は気を取り直して訪ねてくる。
他に人の気配もない。この少女が学園長らしい。
マステマが俺の膝を蹴ってくる。なんだ。
「こいつ、随分と長生きだ。魔力が人間のレベルじゃない」
「ほぅ、分かるのか。そういうお前は人間ですらないな……いやまて」
学園長は慌てて椅子から降りる。
慌てすぎてこけそうになるが、何とか踏ん張った。
そしてマステマの前まで来る。
「悪魔なのか? なぜ悪魔が此処にいる。世界への浸食はどうした」
マステマの肩を掴むと、質問攻めにしながらぶんぶんと揺らした。
「やーめーろー」
マステマは揺られながら抗議する。
説明しないと止まらなさそうだ。
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