第42話 移動準備
不用品の処分が進み、挨拶もそこそこに終えて俺はノエル、アーネラとマステマを集める。
家の中に居るので直ぐにみんな集まった。
「今日は大事な発表がある」
「わざわざなんだ?」
昼寝を邪魔されたマステマが、目をこすりながらあくびをして起き出してくる。
こいつ実は堕落を司る悪魔じゃないか。
奴隷二人は黙って俺の言葉を待っている。
少し表情が硬いな。何を言い出すか分からないといったところか。
割と無茶振りすることもあるからな。
今回もそうか。
「探求と英知の国、ノウレイズに行くぞ」
「……? 行けばいい。別に反対するものは居ないだろう」
マステマはノエルからクッキーを貰いながら言う。
自由すぎる。
「よし、問題なさそうだな」
「はい、ご主人様。私達はついていくだけです」
「では必要なものを買って参ります」
早速動こうとする奴隷二人を手で制する。
働き者過ぎるのも考え物だ。過労死するぞ。
「まあ聞け。俺は冒険者を休業したあとノウレイズにある魔道学園に入学する。ちなみにお前らも入学させる」
「は?」
「……私達もですか?」
「ご主人様? あの、えっと」
流石に受け止めきれなかったのかざわついた。
そう、俺だけが向こうで魔導士見習いをやっても良いんだが、どうせならこいつらも巻き込んだ方が面白そうだ。
奴隷二人はそもそも魔法の素養があると聞いているし、マステマはその存在が魔導士の上位互換のようなものだ。そもそも魔力で体が出来ているからな。
それにいくら俺が20代で魔道学園には年齢関係なく金で学べる場所であるといっても、恐らく入学者の大半は10代の子供だ。
歴戦の冒険者である俺が一人で乗り込めば凄まじく悪目立ちするだろう。
ならこいつらも一緒に乗り込めば、同じく目立つにしてもそれはだいぶ違う意味になる……はずだ。
目立つのは避けられないだろうなぁ。
こそこそするのは性に合わない。
「ノウレイズ魔道学園は大変なその、入学金が必要だと聞いております。推薦はご主人様なら問題ないと思いますが。私達にそのようなお金を使われるのは」
「そうです。私達はそも奴隷ですし」
二人は恐縮している。
着飾るものなどを買い与えても恐縮はしないのだが、それは結果的に俺の為にもなるからだ。
今回はそういうケースなのか判断が難しいのだろう。
「普通の奴隷と俺の奴隷を同じ場所に並べるな。むしろもっと価値を持て。お前達も色々な経緯があって此処に居るんだろうが、魔道学園に入学できる人間は少ないんだ。それを楽しめばいい」
不用品を処分したら割と金も有るし、思いっきり使おう。
俺の言葉に納得したのか奴隷二人とも反論が無くなる。
まぁ俺が強く言えば結局やるしかないのだが、流石に数年間ほど魔道学園に入ることになるなら納得しては入らないと辛いからな。
マステマを見ると苦虫を嚙みつぶしたような顔をしていた。
面倒極まりないという意思表示だ。
「お前達で楽しめばいい。悪魔にそんな行事は不要だ」
「いやいや。お前もいい勉強になるだろう」
「人と悪魔の魔道原理は同じじゃないんだぞ。少し興味はあるが、だからといって」
「お前にとっては長い年月の中の数年だ。我慢しろ。お前が入学するとどうなるのかも楽しみだ」
「お前ぇ……クソ、こういう奴だった」
「女の子だからそんな言葉は使わないように」
マステマはクッキーを掴んで口に放り込むと不貞寝してしまった。
なんだかんだこいつも始まれば楽しむだろう。
誰よりも知識に対して貪欲だ。
「ご主人様、ここはどうなさるのですか?」
「皇女様と話したんだが、維持することにした。管理なんかはまだ考えているが」
「分かりました。持っていくものは決めておられますか?」
「殆どのものは置いていく。着替えと身支度に必要なものだけで良い。向こうで揃えればいいからな」
ノエルとアーネラは俺の言葉に頷き、仕事を開始した。
諸々の事は奴隷に任せておけばいい。
確認だけで十分だ。
この家に関しては……そうだ。良い奴が居たな。
早速家に誘ってみるとほいほいとついて来た。
ニアだ。まだ宿暮らしだったはず。
「天騎士様、話しってなーに? 遂にうちのパーティーに来てくれる気になった?」
ニアはどうやらまだ俺が冒険者を休業することを知らないようだ。
「冒険者辞めて魔道学園に行くから。その後ならお前此処使っていいぞ」
「わー此処使っていいの?やったー! じゃないでしょ!」
ニアが地団駄を踏む。何やってんだこいつ。
威嚇するように俺に歯を向ける。
俺はそれを無視して言葉をつづけた。
「飽きた。これからは魔導士の時代だ」
「そんなぁ……本気なの」
ニアは頭に生えた耳が垂れ下がってしまった。
獣人は感情が分かりやすい。訓練すれば防げるらしいが。
こいつとの付き合いもまあまあ長い。
カスガル達を除けば一番長い付き合いになると思う。
こいつは一心に俺の背中を追ってきた。
そろそろ俺の背中ではなく、その先を追いかけて貰わなければ成長しない。
「ふんだ。天騎士様が帰ってきたときには私が一番になってるんだから。後から悔しがらないでね。家はありがたく使いますから。ありがと!」
そう言って居なくなってしまった。
さてあとやる事はただ一つか。
俺はカスガルの店に向かった。
歩きながら考える。
あの日から、随分変わってしまった。
解散の告げられた時から、最強と言われたパーティーの道は分かれてしまったが。
それこそが人生なのだろう。決まった道などない。
あの日以前に俺が魔道学園に行くなど、誰が考えただろう。
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