第38話 王族ってやつは
二階の広間が見えるバルコニーと繋がる貴賓室に二人を案内する。
この場所は今回使われる予定が無かったので閉めていたのだが丁度良かった。
ここなら他の貴族もわざわざ来たりは……するか。
まぁ一緒にさせるよりはマシだ。
マステマに料理を持ってくるように伝えると、バルコニーから降りて行ってしまった。
あいつは本当に……。いくらでも無茶が出来るから常識が備わらない。
「……もっと恐ろしい姿を想像していたのですが」
王女様が口を開く。
まぁ王女様からすれば、マステマは国の大半を犠牲にさせられた上で召喚されたからな。
王女様自身も大量に血を抜かれて死にかけてる。
ハッキリ言ってトラウマものだ。
姿を見るのも嫌だったのではないだろうか。
「まぁ、召喚された時のあいつを見ればその印象は正しいですよ。今のあいつは遊び惚けていますが」
「そうですか。あの悪魔よりも、結局は我が国があの男を止められなかった事が原因ですね」
「そうですね」
本当にそうだ。反省してほしい。あんな怪しいやつを軍の中枢に入れるな。
俺の言葉に王女様がシュンとなってしまう。
見た目よりもずっと可愛らしい人なのかもしれない。
この人が悪いわけではないのだが、死線を味わった身としてはつい一言いいたくなってしまった。
「そう虐めてやるな」
見かねた皇女様が割って入る。
そういえばこの二人は元々友人だったな。
「結果的には最悪は防げた。お前の働きは大きいぞアハバイン」
「それはそれは。お褒め頂き誠に恐悦至極に存じます」
「内心は面倒ごとを、といったところか。本来ならば王国の危機を救ったことも併せて貴族への叙勲も十分にあり得るのだが」
「貴族に受勲されるなら皇女様からの命令は聞けませんね。貴族は独立性が保証されるのでしょう」
「すぐそうやってお前は。まあいい。お前を貴族にしたら将来お前の子孫が国を乗っ取りそうだし」
「俺の子孫がそんな面倒なことするだろうか……」
皇女様は金の飾りがついた扇子と呼ばれる小道具を取り出すと、小気味良い音を立てて開く。
そのまま口元へもっていき、口を隠す。
おお、凄く美人に見えるな。
元々美人だが。
「それで何が欲しい? 王国からは金庫を開けても良いと言っているぞ」
皇女様の言葉に王女様も頷く。
知ってるぞ。王国の金庫の中は金が今ほとんどない。
復興でかなり厳しいと金貸しと話したのを覚えてる。
国が半壊した訳だしな。
王国にあるアイテムか何かでお礼という事か?
まぁ少し興味はあるが。
「まぁある時払いで適当に金で宜しくお願いしますよ。金以外を貰うと面倒だし」
「あの鉱石も王国にはあるぞ?」
「要りません。小さいダガーへ加工するのに幾らかかったか。流石に三度目は無いでしょうし、こういうのだから意味があるので」
加工済みの鎧とかならまあ貰らっても良いかなと思うのだが、それこそこれからの王国に必要なものだ。
結局話し合いの末に、王国の国債を少しだけ利率が良く購入できる権利を買うことになった。
皇女様が購入代金の半分を援助してくれるらしい。
これがお礼だという。俺以外は嫌がるんじゃないか。俺も嬉しいわけではない。王国が復興しなかったら紙屑になるし。
流石に皇女様が気合入れてるしそうはならないと思うが。
この二人、可愛い顔してこれが目的か。
王国は金が欲しい。帝国は援助したい。
だが帝国は皇族同士の牽制が強すぎて動きにくい。
王国への支援は形だけの予算になる可能性もある。
皇女様が軍を率いて王国に来れたのは、王国を実質属国に出来るという莫大な利益があったからだ。
復興に絡む皇女様が金まで出すとなると後々の影響が大きくなるので難しい。
だが一介の冒険者が王国を支援するために国債を買うのは問題ない。
成功した冒険者というものは莫大な富を持つ。
中にはその金を安定した収入にしたいと思うものも居るわけだ。
皇女様が悪魔を討伐した俺に個人的に報奨を渡すのは、他の皇族からしてみれば妨害するほどの事ではない。
言っては何だが、俺の恨みも買いたくないだろう。
というか皇族の一人がカスガルを侮辱したのでロイヤルガードごとぶっ飛ばしたことがある。
あの時の恐怖に歪んだ皇族の顔はまだ覚えている。
確か皇女様のいとこだったか?
あれ以来絶対に俺とは顔を合わせてくれなくなったな。
謝ったので俺はもう気にしてないのだが。カスガルは青い顔をして俺を止めていたくらいだし。
まぁ、そんな訳で皇女様には良いように使われやすいという訳だ。
ちゃんと俺の利益にもなるから構わないが……。
その場で証文を書かされた。
国債の数量は……こういう書類は見辛い。
ノエルにでも見せるか。
全く、資産は増えたかもしれないがまた現金が減ってしまった。
それもまたごっそりとだ。
手持ちの現金では全く足りないし溜め込んだ金や銀を少し売ってしまうか。
そうしているとマステマがバルコニーに飛び乗って料理を運んできた。
「行儀が悪いぞ」
「しかしこの方が早い」
「普通の人間はそんな事をしない」
「おかしなことを言う。アハバイン、私は人間じゃないぞ」
「そうだったな。良いから次とって来い」
「はーい」
そう言ってまた次の料理をとりに行ってしまった。
あれ、そういえばこの場にはこの三人しかいないのだが。
もしかして給仕は俺がやるのか?
とりあえず皿を並べながら下の広間を見るとアーネラがテキパキと給仕を行っていた。
セクハラも華麗にかわし、流れるように仕事をしている。
見る限り下の仕事は落ち着いてきたようだ。
アーネラは俺に気付くと小さく会釈したので、俺はアーネラに急いで手招きする。
持つべきものは優秀な奴隷だ。主人より優秀ならなお良し。
仕事を押し付け、いやいや任せられる。
決して走らず、しかしアーネラはすぐにこちらに到着する。
王族二人を見て慌てて礼をする。
俺はアーネラを連れてバルコニーから貴賓室に行き、小声で話す。
「ご主人様、これは一体……?」
「飛び入りだ。という訳でこの二人の給仕を頼む。俺は誰も中に入らないようにするから」
「あの、お二人は皇女様と王女様では。私では流石に失礼なのではないでしょうか」
「俺の奴隷だから大丈夫。優秀な奴隷が居て俺は嬉しいよ」
「はい……」
アーネラは売られていく子牛のような哀愁を漂わせてバルコニーへ向かった。
まあ、大丈夫だろう。
あ、またバルコニーへ上がってきたマステマにアーネラが驚いている。
言ってなかったな。
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