第20話 英気を養っておこう
アーネラが俺の起床に気づき、コップをもって駆け寄ってきた。
「どうぞ、ご主人様」
受け取って飲むと、ひんやりとした水だった。カットされた果物が入っていてほんのりと甘酸っぱい。乾いた喉には最適だった。果物も瑞々しい。
俺はコップをアーネラに戻す。
「食事の用意をしようと思ったのですが食材がなく……、金庫のお金を自由に使えと言われたので、そのお金で食材を買ってきましたが宜しかったでしょうか?」
「問題ない。必要な金は以降も金庫から出して使え」
「かしこまりました。お食事をもうすぐご用意できます」
アーネラはコップを持ったまま炊事場に戻る。
ノエルと少し話した後にまた作業を始めた。
おそらくノエルがまとめ役になっているのだろう。
この家は元々でかいからか炊事場も大きい。少女二人が作業しても十分余裕があった。
ノエルとアーネラは手際よくテーブルに料理を配膳していく。
見ていると、どうやら俺の分だけ配膳しているようだ。貴族じゃないんだから。
「お前たちの分も用意しておけ。分けて食べるなんて労力の無駄だ。食器が片付かないだろう」
片づけるのは俺ではなく二人なんだが、そうであっても一緒に食べたほうが効率が良い。
「宜しいのですか?」
「宜しいもなにも、俺は貴族じゃないんだから給仕なんぞいらん」
料理は明らかに三人前はあるんだから、いや三人前どころじゃないな。
かなりあるぞ……まぁ初日だし張りきったのかもしれない。まるでパーティー会場みたいになっている。
食費がかかる程度はなんてことはないので、後気を付けるのは二人が作った料理を無駄にしない事だけだな。残ったなら明日食えばいい。
ちなみに俺は冒険者の例に漏れず大食漢だ。
二人は俺を待たせないようにか、急いで自分たちの分の食器も用意して料理を盛る。
全体的に大皿で用意してそれを小皿に取り分ける感じか。
魚と野菜のサラダに、根菜の入ったやや黄色い透明なスープ。カットされたパンに備えられたバター。ソースが惜しみなく掛かった、ローストされた肉。
中々賑やかだな。
俺は二人も座らせ、フォークを持って食べ始める。
食器にも割とこだわったのですべて銀製だ。
器は流石にそこまではしてないが。
リンゴ酒から作られたビネガーを使ったドレッシングは新鮮にサラダと良くあっていた。
スープもスパイスがよく利いていて、メインの肉は柔らかくソースが合う。
テーブルマナーは貴族との会食に必須だったので俺の食べ方は割と上品だ。
流石に家の中なので食べるスピードを落とすほどじゃないが。
俺が食べ始めたのを見て、二人も手を付け始める。
丁寧な下処理がしてある。やはりこの二人は手を抜かずにちゃんと仕事をする。
家で料理をさせるなら十分すぎるほどだろう。
味付けに関しては素材の味を生かすために薄味だ。
貴族や成功した商人なんかはこういった上品な薄味の料理を好む。
塩と油でひたすら濃い料理ばかり食べると繊細な味が分からなくなるから、だそうだ。
正直俺にはそこまで分からないが、薄味の料理自体は好ましい。
俺も塩と油を利かせた飯をひたすら食べていた時期もあったのだが、貴族の晩餐会ではそういった料理は出ないからな。
商人は気を利かせてくれたのかメインでは濃い味付けの料理を出してくる。
俺はすっかり薄味の料理に慣れてしまった。
塩も油もとりすぎると体の調子を崩すしな。
冒険中はむしろ足りてないからそういった料理の方が良いんだが。狩った動物や魔物の肉を丸焼きにしたりな。
二人とも、特にアーネラが食べながら何度も俺の方を見てくる。
流石にこの辺はまだ幼い。隠すのが下手だな。
「二人とも美味いぞ。この調子で頼む」
「はい!」
今までで一番の返事と笑顔で二人は答えた。
余りに教育が行き届いていたから忘れていたが、まだ子供なんだよなと思った。
ま、俺が買ったからにはマシな人生を送らせてやるとしよう。
俺はしばし舌鼓を打ちながら食事に集中した。
二人の少女は俺が思うよりはよく食べた。食べ盛りなのだろう。
俺も久しぶりにちゃんと飯を食ったからか食欲が刺激されて、結局食べ切った。
ただ次からはもう少し普通の分量にさせよう。
腹が……きつい。
この様子をニア辺りが見たら爆笑するだろうな。
そして怒るに怒れないんだ。腹が圧迫されてそれどころじゃないから。
俺がくたばっている間にノエルとアーネラはあっという間に後片付けを済ませてしまった。
少し休んだ後、ようやくマシになったので俺も風呂に入ることにした。
ノエル達は付いて来ようとしたが要らない。俺はやはりじっくり一人で風呂に浸かるのが好きだ。
まあ奉仕させるのはまたいずれでいい。
二人にはあてがった部屋でもう休ませた。
一人一部屋にしようとしたが、二人で一部屋でいいと言うのでそうする。
流石に少女達も疲れただろう。寝かせてやるのが一番の報酬だ。
俺は魔石の効果で何時までも熱々の風呂をしばらく楽しんだ。
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