第18話 帝国最大の冒険者パーティー

 帝都で一番大きい金貸し屋といえばここ、ダルマン金庫だろう。

 元々貸金庫、貸倉庫屋だったが規模を拡大し金貸しまでやるようになった。


 貴族から一般人まで手広く金を貸し利子を稼いでいる。

 その取り立てもなかなか苛烈なようだが、帝国の法に触れるような事はしていない。

 ダルマン金庫の会長はその辺をよく弁えている。


 きちんと返済していれば、ここは良い金貸し屋だ。

 だから俺はここに金を"貸して"いる。


 入口まで来ると、見知った顔を見かけた。

 向こうもそう思ったのか、立ち止まる。


「上手くやったみたいじゃないか」


 そう言ってきたのは冒険者のベルギオン。

 両脇には女が控えている。片方は髪も背も長く、もう片方は髪も伸ばしておらず背も小柄だ。


 そしてこの男は……以前の俺のパーティーが帝国最強のパーティーだったなら、こいつは帝国最大のパーティーだ。

 もはやパーティーという規模ではなく、小さな軍隊という規模を抱えている。

 それを率いる此奴の二つ名は「野良将軍」だ。いまいち締まらない二つ名だがその組織力は本物だ。


 大型の依頼を主に受けつつも、人海戦術で魔物を狩り稼いでいる。

 ギルドとのトラブル回避の為に、余り気味の大型の依頼しか受けていない。

 狩場の独占もしていない。うま味はあるが人気はない魔物を主に狩る。


 多分最強だった俺達よりもよほど稼いでいるだろう。出費もでかそうだが。


「何のことだ」


 俺が聞き返すと、ベルギオンはため息をつきながらだるそうに話し始める。


「竜の群れだよ。あれは本来俺らが受ける予定だったんだ。調整もしていた。皇女様の一声でお前らになっちまったが」

「そいつは悪かったな。美味い依頼だったよ」

「あの額を三人で分ければそうだろうな。俺も皇女様に逆らう気はないからいちいち揉める気はない。が一言くらい言わせろ」


 もっともな意見ではある。俺は得るものは得ているので好きにしろ、と言った。

 そんな俺たちの会話はどうでもいいのか、背の高い方の女は俺の奴隷を見つめる。


「可愛い子達だね。撫でても良い?」

「構わんが、キリア。お前の馬鹿力で撫でられたら怪我をする。加減しろよ」


 俺を言葉を聞くや否や、奴隷たちの頭を撫で始める。

 特に髪が気に入ったのか、傷めないように優しく触っていた。

 その二人の髪は俺もお気に入りだ。俺も後で触ろう。


「分かってるって。髪サラサラね。どこから攫ってきたのよ」


 この女、とんでもない事を言う。


「奴隷だよ奴隷。ソロになったし身の回りも不便だからな」

「ふーん」


 ベルギオンは笑いをこらえながら俺をからかう。


「お前にそんな趣味があったとはな」

「どうせなら可愛い方が良いだろう」

「それはそうだが」


 背の小さい方の女……ラグルはため息をついて二人に小言を言う。


「用は済んだんだし、行きますよ。アハバインさんにも迷惑です」


 ラグルの言葉でお開きになり、ベルギオンは二人を連れて歩き始める。


「ああそうだ、一応聞いておくけどうちに来るか ?」

「断る。お前の所は俺にうまみがない」

「だよな。俺は安定して狩りをして安定して稼ぐのが好きだから、お前とは合わない」


 そう言って立ち去って行った。

 食えないやつだ。この帝都で、いや帝国で安定して竜の群れを狩るなんてあいつ等しかできないだろう。


 まああいつらに任せたら年単位でかかるから俺らにお鉢が回ってきたんだが。


「あの、ご主人様。今の方は」

「あいつはベルギオンだ。ソロバンを弾くのが大好きな冒険者さ。尤も強さは大したことがないがな」


 そう、あいつ自身は中の上が精一杯だ。いくらパーティーの運営が上手いからと言って帝国最大のパーティーのトップとしては弱い。妹は強いのだが。

 それを支えているのがあの双子。竜人。最良の種族と呼ばれる存在。


 獣人を超える身体能力と、竜の心臓による強烈な強化。

 巨大な魔力を保有し、細かい魔法は苦手だがシンプルな攻撃魔法なら大魔法だって一人で撃てる。


 笑ってしまうくらいに強い。それが姉妹であいつの脇を固めているのだ。


 何れはあいつらが帝国最強の扱いをされる。

 つまり帝国最大最強のパーティーという訳だ。

 それを率いるのが野良将軍。やっぱり締まらないな。


 それに竜人がどれだけ強かろうがタイマンなら俺が勝つ。

 姉妹揃ってなら手加減は出来ない。殺す気で行くことになるが、勝つ。


 強さとは能力値だけでは決まらない。それだけ俺の手札は強い。

 そこに絶対的な火力のカスガルと強化、補助、回復が揃ったレナティシアが揃えばそりゃあ帝国最強という訳だ。


 まぁ最強の称号は一度取ったんだ。もう興味もない。

 舐めた奴が居たら潰すが。


 余計な時間を食ったな。俺は奴隷達を引き連れてダルマン金庫の店に入る。


 奴隷達はもしかしたら俺が借りに来たと思ってるかもしれんな。

 やや申し訳なさそうにしている。


 中は小奇麗にされており、調度品を飾って香まで炊いている。

 儲かってますという雰囲気が現れているようだ……。良い事だな。借金は行き過ぎなければ役に立つ。


 開いている受付に座る。奴隷は立たせておく。

 ちなみに受け付けは全員女で美人だ。会長の趣味である。


 俺は受付で用件を伝えるとすぐに受付の女は用意されていた金を持ってくる。

 王国金貨が50枚。白金貨が3枚。

 大体この二人の値段分の利子を受け取る。


 奴隷達が唖然とした顔をしている。

 まぁ当然か。王国金貨5枚もあれば一つの家族が一年暮らせる。

 白金貨は一枚で家が建つ。

 それをポンと出されて俺が受け取るのだ。

 意味が分からないだろう。


 ダルマン金庫にはこれまで大きく稼ぐ度にかなりの額を貸してるからな。

 ダルマン金庫が大きくなるたびに金主の口の話が来るもんだからつい出資してしまった。

 カスガルもレナも貯金派だったから利子を受け取るのは俺だけだ。

 ダルマン金庫が潰れたら元金はパーだから仕方ない。俺も無理には勧めなかった。


 俺もこれ以上出資する気はない。これからはどうしても稼ぎは減るし、パーティー解散により得た資金はある程度大事に使わねば。


 俺の利子の為にもダルマン金庫には稼いでほしい。

 幸いというか、帝国の景気は良い。皇女様を旗頭に経済発展を続けている。


 皇女様から出資を求められたらある程度出す気もある。皇族からはとりっばぐれないからな。無いと思うが出し抜かれたら俺は暴力で対抗できる。国相手にはあまりしたくないが。


 さて、ようやく家に帰れるぞ。

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