第16話 ああ、ようやく一息ついたな。

 最近どうにも運が良いのか悪いのか、想定外のトラブルに巻き込まれている。

 一応は相応のリターンも手にしているから、冒険者としては悪い事ではなかったりするのだが……。


 竜の群れを討伐して一息つけるかと思ったら、PTは即解散。元PTメンバーは冒険者をやめてしまった。代わりにそれまでのPT資産の割り当てを回収した。


 暇つぶしに慕ってくるニアの護衛依頼に協力したら、盗賊狩りになって貴族のお嬢様を助けた。侯爵令嬢との縁は大きい。


 小銭を稼ぎに討伐依頼をしたら王国軍がオークを支援してました、ときた。あの戦斧高く売れるといいな。宝石類でそれなりに稼ぎはあるが。


 なにはともあれ普通の依頼をしたい。いくら俺が屈強な戦士でも精神は普通に疲弊するのだ。


 街の代表者からゴブリン退治のお礼と報奨金を受け取りながらそんなことを考えていた。

 疲れた顔をなんとか隠して対応した俺はプロだと自負する。


 帝都に戻ろう。一か月ほどしっかり休むのだ。

 ああそういえば、丁度奴隷を受け取るタイミングだったな。


 二人ともまだ幼いが面は良い。あれは美人になる。

 夜の相手はまだ無理だが、そうだな。マッサージでもしてもらうか。



 馬車でようやく帝都に戻る。

 巨大な戦斧を抱えた俺を門番から帝都の住人まで何事かと見つめるが、それが俺だと分かると心配がなくなったのか見られなくなる。


 こういう時は有名であるメリットがでかい。

 戦斧を含めた戦利品をとりあえず契約している倉庫に押し込み、俺は自宅に戻った。

 手配した業者は仕事を終わらせていたようで、予定通りの家具が配置されている。


 これなら奴隷達も迎えられるだろう。


 皇女様への手紙をしたためておく。これは流石に検問を通さない特殊なルートで出さないといけない。

 とりあえず俺は風呂を沸かす。火と水の魔力石を起動させてやれば後は勝手に溜まる。

 そういえば奴隷の二人に魔力はあるのだろうか。確認しておかないとな。

 この家は便利に作ったがそれは魔法の補助があるからだ。

 奴隷達に魔力がないなら定期的に俺が魔力を補充する必要がある。


 面倒だな。最悪魔力持ちの奴隷をもう一人買うか、補充屋と契約するか。


 俺は準備用の部屋で鎧を脱ぎ、湯で汚れを洗い流して陰干ししておく。乾いたら油を塗っておけばいいだろう。火剣は柄以外汚れていない。高温だから汚れがついても焦げてそぎ落ちるのだ。

 柄を奇麗に拭ってやる。


 冒険者にとって装備は半身のようなものだ。

 良い装備に身を固めるほど、その冒険者の価値は高い。


 俺はそりゃあ無手だろうと強いが、じゃあ無手であのオークロードを倒せるかというと無理な話になる。


 殴ったところで筋肉に阻まれ、それを抜いても高い再生能力が無効化する。

 鎧だって無ければ掠っただけで致命傷になるだろう。


 高級装備に身を固めた素人は弱い。

 しかし装備を持たない強者も弱いのだ。


 だから一流の冒険者は装備を大事にするし、良い装備を集める。

 ここでケチると、一流に居続けることはできないのだ。


 偶に才能はあるが伸びない奴が居る。

 中には、癪だが俺を超えるような才能を持ったバカ獣みたいなやつだっていたのだが……。


 そういうやつは大概にして、装備に金をかけていなかった。

 才能があるから装備は後回しでも良いと考えてしまうらしい。


 しかしそうではない。才能があるからこそ最高の道具を用意しなければ伸びないのだ。


 俺とて、最初に火剣を手にするまではハッキリ言って凡百の戦士に過ぎなかった。

 なまくらの剣では魔物をたいして狩れない。それは剣の腕でカバーしきれるものじゃない。


 そして俺を最強へと押し上げた武器こそが、この天剣だった。

 俺が居た帝国最強だったカスガルのパーティーにおいて、一番の偉業は何かと問われたらこの天剣を手に入れたあの出来事だろう。


 竜の群れを討伐する事よりも、だ。


 世界が蒼く染まったあの日。いまだに思い出して寒気がする。

 死ぬ気で、ではなくもはや何とかしなければ死ぬという状況で、俺は天使と戦う羽目になったのだ。

 天剣が震える。この剣には契約により戦った天使が眠っている。


 天使の力を持った剣が出来ることは、それこそ人の域を超える。

 俺とて容易に扱える規模ではない。


 そんなことを考えながら手を動かしていると手入れが終わる。

 さて、風呂に入るか。


 俺は体を奇麗にして足を延ばして浴槽につかる。かなり広く作ってあるからあと二人位なら入れる。

 風呂は良い。宿に素泊まりだった時でも公衆浴場にいってまで毎日風呂に入っていた。


 しっかりと湯で暖まり、やっと俺は一息つくことが出来た。

 冒険者稼業の常とはいえ、きつい汚い危険のうち汚いってのはほんと嫌になるぜ。


 さて、カーガン商会に奴隷を迎えに行くか。

 届けさせても良かったのだが、少女が生活するうえで必要なものは一切ないので奴隷を受け取った後に買いものもしなければ。


 いかん、のんびりする筈だったのだが意外と手間暇がかかりそうだ。

 奴隷達がそれに見合うことを祈るとしよう。


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