第15話 この戦斧は流石に重すぎる。

 火剣を振る。高熱で紅く爛々としていた剣身は元に戻っており、纏っていた火も消えている。

 火剣に貯蔵していた魔力の大半を使い切ってしまった。


 オークロードは既に息絶えている。運がなかったな。

 本来なら高位の魔術師が居なければ対処できない相手だった。


 こいつが鉄装備に身を包んだオーク達を率いていれば、帝国にどれだけ被害が出たことか。


 オークロードの家は燃やしてしまったが、他は置いておいた方がいい。

 帝都に戻ったら皇女様に手紙を書いておけば帝国軍が調べてくれるだろう。


 オークは牙が素材になるし、宝石を多少ため込む。

 オークロードの牙を取り、緑色の宝石を回収した。これで少しは金になるだろう。


 後は戦斧か。


 刃の部分が大きく。持ち手は意外と小さい。

 俺は火剣を仕舞い、右手で戦斧を持ち上げる。


 筋肉が軋む感覚と共に戦斧がゆっくりと持ち上がる。

 俺は重戦士にも引けを取らない筋力があるが、これをオークロードのように片手で振るのは不可能だ。腕がいかれる。両手でようやく武器として使えるのだが、一度降りぬいてしまうと、また持ち上げている間に隙だらけだ。


 分かってはいたが、とても人間が扱える武器ではない。

 獣人族の筋力でもまだきつい。ドワーフにはそもそもデカすぎるし、巨人族でようやくまともに振れるか。


 引き取り手が居なくても熔かせばそれなりの鉄にもなるし、俺は戦斧も持って帰ることにする。他にも依頼をこなそうと思ったが、疲れたし火剣のチャージも切れた。


 撤収だ。


 拠点全体を回って生きているオークを倒しておいたが、やはり女が居ない。

 子供もいなかった。戦士たちだけを集めて、後は人間を襲って繁殖するつもりだったのだろうか。


 俺も流石にオークでも無抵抗な子供を殺すのは胸が痛むので、一安心だ。

 死体は獣たちが処理してくれるだろう。


 俺は戦斧を背中に括り付け、街に向かう。

 流石に重い。街についたら馬車でも借りるとしよう。


 ……それから俺が帝都に戻れたのは二日後だった。

 街ではゴブリンの襲撃が始まっており、俺は大きなため息をつきながらゴブリン退治をする羽目になったからだ。


 これは間違いなくオークの拠点であったあの男の仕業であろう。

 絶対に許さない。俺を虚仮にしやがって。


 必ず顔を殴ると誓いながら俺はゴブリンたちを血祭りにあげてやった。






 王国内某所にて

 小さな部屋で勲章をつけた軍服を着た男たちが、深刻な顔で話し合っていた。


「襲撃したのはゴブリンだけですぐ鎮圧された? どういう事だ。オーク達も参加するはずだっただろう。この騒動でしばらく帝国軍の目は国内に向く手筈だったではないか」

「それがどうも、オークの拠点は制圧されていたようで……」

「馬鹿な。将軍! わざわざ直接見に行ったのだろう」


 禿げた大男に怒鳴られた、オークの拠点に居た男は汗をぬぐいながら弁明する。


「えぇ、私も困惑しております。元帥閣下。直接オークの長と話をして、私は帰還したのです。入れ違いで制圧されたとはとてもとても、あの拠点の戦力は街の警備隊どころか、帝国の騎士団でも苦戦するほどです」

「ならなぜだ」

「天騎士」


 今まで沈黙を保っていた目に隈を作った幽鬼のような男が口をはさむ。


「なに?」

「帝国最強の冒険者ですよ。騎士ではありませんが、天騎士と呼ばれているようです。調べた情報では彼が一人で乗り込んで、オーク達を制圧してしまったと報告を受けております」

「ひ、一人で? あり得ぬ。オーク―ロードだぞ。王国騎士団でも一つの部隊でかかりきりになる。冒険者であろうと複数のパーティーで戦う相手の筈だ」

「間違いはございません。複数のルートから情報が上がっております。それにこの天騎士、これだけではありません。帝国侯爵の娘誘拐も、この男に防止されております」

「あれは帝国の獣人パーティーに邪魔されたはずだが」

「その一団に居たようなのです。護衛として置いていた我々の派閥の騎士も奴に殺されたのでしょう」

「では二度も冒険者に邪魔をされたと? 偶然にか?」

「詳細が帝国へバレて居るなら帝国軍が動くでしょう。しかしその様子はありません。偶然と考えるしか……」

「くそ、王女派の力は日増しに強まっている。このままでは我々は……何としても儀式を間に合わせなければ」


 禿げた大男は頭を抱える。


「その冒険者にも対処が必要かもしれん。また邪魔をされれば我々の計画に大きな問題をもたらすぞ。帝国貴族の血も使えなくなり、帝国軍の動揺も誘えなくなった」

「もう少しこの冒険者を調べておきます。元帥閣下」

「頼むぞ、保安部隊長」


 幽鬼のような男は、口に笑みを張り付けながら頷いた。

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