第14話 でかいという事は単純に強い事でもある。
俺が一人じゃなく誰かもう一人いればあの怪しい男を追うこともできたのだが……こればっかりはソロの限界だ。
難しい政治判断とやらは得意な人間に任せてしまうとして、俺は得意な荒事を片付けるとしよう。
もうこそこそする必要はない。火剣に全力で魔力を通して火を纏わせる。
俺は壁に火剣を擦り付けながら奥へ向かう。火を纏い超高温に熱された火剣は容易に壁を燃やし始めた。
奥に鎮座していたのは予想通り、オーク達を束ねるオークロードが鎮座していた。
オークロードは俺に一瞥をくれると、顎を擦りながらうなる。
「……人間。先ほどのやつの話と違う」
「いい、いい。どうせお前に色々聞いても仕方ない。オークの言ったことを真に受けるやつはいない」
俺のネームバリューがあってようやく情報として扱ってもらえるかどうかなんだ。それにこいつがどれだけ知っているかも怪しい。
「冒険者、か。そろそろここも大きくなりすぎた。嗅ぎつけられたか」
オークロードは近くに立てかけてあった巨大な戦斧を片手で掴み、立ち上がる。
でかいな。縦にも横にも俺の二倍近くはある。戦斧だけでも俺並みの大きさだ。
亜人系の魔物、特に前衛はでかいことが多い。
でかいという事はそれだけで強いという事だ。ベテランの冒険者でも一人では戦おうとはしないだろうな。
それを一人で倒せるから俺は最強と呼ばれるんだよ。
火が回れば他のオークも次々来るだろう。囲まれると消費が激しい。さっさとこのでかぶつから始末する。
「________!!」
オークロードの咆哮が部屋に響く。その声の大きさはもはや音ですらなく、衝撃そのものだ。
戦斧を両手に持ち直し、振りかぶって一気に叩きつけてきた。
盾ごと潰されるような一撃を俺は後ろへ飛んで回避する。
戦斧は一撃では止まらない。膨大な筋力に支えられ、暴風のように振り回される。
いくら俺でも筋力勝負では不利だ。
「シッ」
戦斧の合間を縫って火剣をオークロードの体に切りつける。
火剣の火は再生を妨害する。多少の切り傷ならすぐ治り、ものともしないオークロードだが火剣による傷が増えていくとその動きが鈍っていった。
「その剣……忌々しい火の魔剣め」
「対応できないやつが悪い。だろう?」
オークの筋力に対応できない人間はオークに殺されるし、火剣に対応できないオークは人間に殺される。自然なことだ。
どれだけ戦斧を振り回そうと当たらない。
俺が自分よりでかいやつを一体何体狩ってきたと思っている!
傷だらけになったオークロードは地面に足を叩きつけ、身を低くする。
戦斧では埒が明かないと見切りをつけ、体当たりをするつもりだ。
ここは室内。戦斧をよける程度ならまだしも、突進を回避し続けるだけのスペースはない。
いいだろう。来い。
オークロードは残った全力の力で駆け出し、体当たりをしながら戦斧を俺に当てる。
俺は火剣で受けるが、オークロードの突進は止めれずそのまま後ろへと引きずられ、壁を破壊して外に叩きだされた。
凄まじい力だ。一度受けただけで両手に痺れが残る。
俺は手に力を籠めなおし、火剣を構える。
火剣に刃毀れはない。周りには物音や火に集まってきたオークがいる。
形勢逆転、などと考えているのだろうが不利になっているのは変わらずお前だ。
火剣にため込んだ魔力を開放する。
火剣は火を纏い熱で相手を痛めつけるだけの武器じゃない。
それは只のおまけだ。魔力に満たされた火剣の中では巨大な炎がうねりを上げていて、それが表面に出てきているだけに過ぎない。
「火剣、解放――」
それを表に出してやる。
灼熱の炎は俺の周囲全てを巻き込んで焼き尽くす。
タフであっても魔力防御のないオークに火剣の炎を耐える術はない。
あっという間にオーク達が焼き尽くされ、膝をついたオークロードだけが生き残っている。
火剣の守りで俺は少しばかり熱いだけだ。
「息子たちが……おのれ、貴様」
「いやいや、俺を恨むのはおかしいだろ。この後人間を襲って殺しまくるつもりだったのになんで俺が悪いって言い方をする。良いか、いいオークってのは人間と離れて平和に暮らすオークだ。退治される悪いオークは人間を襲うオークだ」
平和に暮らすオークは俺だって無理に倒したりしない。平和は尊いのだ。
オークロードはまだ力が残っているのか、赤くなった戦斧を掴んで立ち上がる。
大した根性だ。俺は少しばかりの賞賛と共に心臓に火剣を打ち込み、とどめを刺した。
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