第13話 面倒なことになっているな

 予定通り、俺は火剣を使ってオーク達の拠点に潜入した。

 侵入の後を隠蔽し、俺は周囲を警戒しながら進む。


 オークは人間よりずっと夜目が利くので、夜をやり過ごし夜明けを待った。

 夜は火剣が兎に角目立つしな。


 建物や荷物の陰に隠れながら観察するが、予想より遥かにちゃんとした拠点だ。

 鉄装備を纏っていた時点で予想は出来ていたが……このまま放置されていれば半年程度で完全に軍団規模として動ける状況になる。


 最も大きく力が強い人間が、オークで一番弱い個体と言われている。

 純粋な肉体能力はオークが絶対的に強い。それが群れを成し、鉄で全身を覆う。


 帝国にとっては悪夢だな。自国内からそんな軍隊があらわれるんだから。

 魔法に弱いからある程度被害を受ける程度で済むが、そのある程度が洒落にならない。


 本来こうはならないように騎士団や冒険者を使って群れを見つけたり、駆除したりして防ぐのだがな。


 付近の村が被害に気づいたのは最近だし、どうにも群れの成長する速度と規模が普通ではないようだ。


 一人でうろついているオーク達を始末しながら俺は考える。

 ただのオーク掃除では終わらないかもしれないな。


 いくつか建物の中を見て回るが捕まった人間はいないようだ。

 後は一番大きいあの家だな。おそらく群れのボスがいる。


 はぐれたやつの死体が見つかるまでに偵察を済ませておこう。

 俺が本職の斥候なら始末せずに偵察をこなせるのだが、まぁ無理な相談だ。


 ニアでも連れて来れば楽が出来たな。

 ちなみにパーティーだった頃はカスガルの魔法で開幕から焼いていた。丸焼きだ。

 レナティシアの力で捕まっている人間も分かったし、多分ピクニック気分で終わったぜ。


 俺はゆっくりと建物に入る。

 見張りもいないようだが……静かな室内に僅かに話し声がする。

 オークは実際はそれなりの知力がある。


 それを伸ばす教育がないから、結果的に知力がないという扱いをされる。

 だが群れのボスともなれば、長く生きていて人間並みに賢い。


 側近に言葉を教えていても不思議ではないが……。

 ゆっくりと近づく。話し声の内容はまだ聞き取れない。

 奥でどうやら話が行われているようだ。

 扉ではなく、仕切りは布でされていた。耳を澄ましてみる。


「――――――だ」

「――――のか?」


 もう少し近づく。声がはっきり聞こえてきた。


「成功の算段は付いている。お前達は後は暴れればいい。」

「支援には感謝している……だが、なぜ人間の敵の我々を支援する」

「ふん。人間の敵もまた人間だとは知らんようだな」

「息子たちも腹を空かせている、繁殖の相手も必要だ。暴れることが支援の対価なら……是非もないが」


 片方の声は野太く、低い声だ。オークの声だろう。

 問題はその話し相手だ。俺の耳が腐ってなければ間違いなく人間だし、話している内容もそれを裏付けている。


 ここで飛び込むのは簡単だ、だが相手の面を割らなければ厄介なことになる。


「それでは失礼する。……ごほっ。これ以降は会う必要もないだろう。精々暴れてくれ」

「そうするとしよう」


 話は終わってしまったのか、人間の方が此方に歩いてくる。

 いくつかの選択肢とその結果が目まぐるしく頭の中に浮かぶ。

 時間がない。俺は身を隠し、その顔を見るに留める。


 ある程度年を取ったおっさんだった。

 知らない顔だ。だが、所属は分かる。持っている剣に刻まれている紋章は王国軍の者だ。隠しもしていない。

 後ろから切れば今ならヤれる。だが、その死体をどうするか。

 死体ごと始末するか? 確かに面倒はないが、敵がこいつだけじゃないなら更なるトラブルになる。


 ここは未開とはいえそもそも帝国内の領地だ。王国軍が国境を無断で超えてオーク達に支援している? 誰が信じるんだそんなこと。

 ああくそ、政治的判断は難しいんだよ。皇女様にぶん投げるしかない。


 俺は男を見逃し、居なくなるのを待った。

 王国と帝国は長い間同盟関係にあるが、実はトラブルが絶えない。

 皇女様と向こうの王女様の仲がいいから最近は落ち着いてきていると聞いていたのだがな。


 全く胃が痛くなってしまった。このストレスはオークを焼いて発散しよう。

 ちなみにオークを焼いても豚肉のような匂いはしない。

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