第12話 正面から行くだけがベストじゃない

 皇女様との会談はつつがなく終わり、俺は解放された。

 これからもこき使われることは確定だが、こういうのを用意してくれるなら悪くない。


 皇女様から賜った虹色の金属板を掲げる。

 太陽の光を散らし、七色に輝く。


 加工する当てもあるし、アクセサリにするかそれともどこかの防具を更新するか。

 これがあれば魔法の触媒としても優秀だし、俺の戦力が大きく補強される。


 俺が金属板に魔力を通すと、より虹色が強くなる。


 おれはそれを倉庫にしまうと、気を取り直してギルドで依頼を物色してきた。

 いくら価値があるものをもらっても、それとは別に現金はいつだって必要だ。


 稼いで使う。自然なサイクルだな。もう暫くすれば金貸しに回した分の配当がまとまってくるんだが、やはり自分でも稼がないと暇だからな。


 俺に不労所得は合わん。死ねばいくらでもゆっくりできるだろ。


 物色してきたものは俺にとっては手軽なものばかりだ。奴隷の受け取りもあるのだし、長い依頼は弾いてきた。ソロで長期依頼は様々な手続きや準備が死ぬほど面倒だし。


 貸倉庫から依頼に向いた剣を見繕う。

 討伐だし、火剣でも持っていくか。


 雷剣も便利でいいのだが、雑魚相手には些か消費が激しい。

 俺にとってはたいして重くはないのだが、時間もないし止まらずに討伐しようと思うとコストの軽い火剣が今回は便利だ。


 雷剣も予備として持っていくんだけどな。移動が便利だし。


 俺は火剣を鞘から抜く。宝剣、フレイムブランド。

 剣身が鮮やかな真っ赤に染まっている。


 高難易度ダンジョンなら一応見かける武器で、一番流通が多いのもこの火剣だ。高いと言えば高いが、上級パーティーならちらほら持っている。


 前衛が一番最初に魔剣、宝剣を手にする場合殆どがこの剣という訳だ。

 焼き付く火で切られれば生き物ならそれだけで致命傷になる。


 逆に雷剣は高い。クソ高い。宝石なんて目じゃない。俺はこの剣が出品されたとき有り金はたいて、手持ちで売れるものをあらかた売って買ったくらいだ。実は借金もした。

 あれから出品も聞かないし、より高く売れるだろうな。


 天剣は一品物だ。同じものは存在しない。売ることもできない。

 俺が死ねばこの剣は契約により元に戻るから、この先所有者が出ることもない。


 俺が受けた依頼は二日ほど移動した先にある街からのもので、オークのコミュニティが発生している可能性があるのでその調査ないし殲滅だ。


 勿論殲滅する。良いオークは人の居る場所に出てこない。

 人間の見える場所で活動するオークはその時点で敵だ。


 本来俺がやる依頼としては格が落ちるのだが、緊急性があるから問題ない。

 あんまり人気ないしな。


 街に就いた俺は早々にその街のギルドで情報を集め、オークのコミュニティの場所にアタリをつける。経験から大体の場所は分かる。

 こういう時に身分が分かるギルド証は便利なもんだ。

 金の意匠をあしらったギルド証はそのまま俺の冒険者の地位を証明している。


 ちなみに失くしたら再発行に凄まじい金をとられる。


 俺はアタリをつけた森に到着すると火剣を抜いて魔力を通して火を纏わせておく。

 どの程度コミュニティが発展しているかは分からないが、森から先は既に奴らの場所だ。


 一応は整備された道を歩きながら痕跡を調べる。誘拐や襲撃は既に何度か起きているらしい。オークたちにその痕跡を完璧に消すことはできない。


 不自然な獣道、折られた木。饐えた匂いに血のわずかな跡。違和感のある方に進んでいく。火剣は藪払いにも便利だ。


 奥へ奥へ進むと、高く育った木が邪魔をして暗くなる。開拓されていない場所の先にオーク達の拠点があった。


 俺は匍匐してゆっくり進み、奴らの様子を観察する。


 普通オークは木の皮や獣皮の使った衣装を身に纏い、有力者は木を使った鎧らしきものを身に着ける。

 しかし、ここの連中はどいつもこいつも、鉄製の武器をもち、鎧を纏っている。


 鍛冶の技術がある。という事は長生きをして知識をため込んだ個体が群れのボスだ。

 普通のオークよりも長生きして力をため込むと、体もでかくなり知恵も働く、


 そういうのをオークロードと呼ぶ。さらに育てばオークヒーローだ。

 オークヒーローまで来ると俺でもちょっと厄介な相手だな。


 どちらがいるかは分からないが、放置していたら街一つ簡単に消えてしまう。


 正面から乗り込んで力押しの正面突破もストレスが発散出来て良いのだが、一応生存者がいるか見ておかないとな。俺は天騎士とは呼ばれていても騎士じゃなく冒険者だ。基本効率を重視する。


 周囲をぐるりと確認したが、オークの拠点は要塞化しつつあり出入り口は常に見張りがいる。

 統率もきちんと取れている。


 俺は最も気配が薄い場所を選択し、火剣の温度を上げて壁を焼き切って中に入ることにした。壁は木だが、火剣の力で燃えないように制御できる。

 穴を開けて中に入ったら穴は隠しておけばいい。


 いくら統率がとれていてもオークの下っ端は決して頭がよくない。あけた穴が見えなければ分からん。


 オークは人間より夜目が利く。夜になるのを待たずに俺は潜入を開始した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る