第10話 金は天下の回り物、だ

 新しい家に、その維持やら家事やらの雑用で新しい奴隷を二人。上級奴隷は良い値段がしたな。それに見合うといいのだが。

 依頼をこなすたびに装備の点検にも金がかかる。


 困窮には程遠いが、いい感じに現金の残高が減っていた。

 当然また依頼をこなす日々に戻るのだが……。


 俺は久しぶりにカスガルと会っていた。

 正式に解散するパーティーの清算だ。

 竜の群れを討伐した時の分も含めてになる。


 本来は竜の群れの依頼は報酬がもっと出るまで時間がかかるのだが、依頼人である皇女様が確認した後直々にすぐ出してくれた。


 ありがたいぜ。皇女様に感謝する。

 俺は皇女様派だからな。いざ国が割れたら加勢するのもいいだろう。

 手柄を立てれば貴族にだってなれる。なりたい訳ではないが……めんどくさそうだし。


「どうだカスガル。冒険者じゃない生活は」


 俺がそう聞くとカスガルは両手を頭の後ろにやり、パーティーを別れた後を振り返っているようだった。


「いやぁ、時間が経つのが遅いと最初は思っていたけどね。いざ店の事が実現し始めると、充実しているのかあの頃と同じくらい直ぐに日が過ぎるよ」


 そう笑顔で言う。楽しくて仕方ないのか。


 カスガルは冒険者の時はムスっとしていることが多かった。パーティーリーダーだった事もあり常に強いストレスがあったのだろう。


 それがこんなニコニコと笑うようになってしまった。

 つくづく才能と向き不向きが合わないやつだ。

 俺が最強の前衛ならこいつは間違いなく比肩する後衛である。火の支配者の二つ名。火の魔人ですら焼き尽くした男。


「パーティーの財産なんだけど、俺たちはアイテムより現金が欲しい。なるべく売り払って分けたいんだ。君の意見はどうだ、アハバイン」

「同感だな。必要なものはいつも清算で買い取ってきたし、今パーティーの倉庫にあるのはすぐ必要になるものじゃない。消耗品を多少ほしいぐらいだが、金で買える」

「そうか。良かったよ揉めなくて。割と揉めると聞いていたからさ」

「弱小と俺らを一緒にするなっての。稼いでる額が違うんだ、小さなことで揉めるかよ」

「そうだね……君と組めてよかったよ。君と組めていなければ多分こうはならなかった」

「それは俺もだよ。最強の後衛とヒーラーと組めたんだからな」


 帝国最強のパーティーが生まれてもう5年になるか。

 色々あった。本当に。死ぬと思ったことは何度もある。


 特にあの蒼き日。あれは俺の一生の中でも最悪最大にやばかった日だ。

 国が一つ消えかけたんだからな……。

 そして皇女様と知り合うきっかけになった日でもある。


 俺は買ってきた最高級の葡萄酒を開けると、お互いのグラスに注いだ。


「帝国最強のパーティーに乾杯」


 グラスを掲げ、飲み干す。甘い口当たりが通り抜ける。

 かつての青春の日々に、そしてこれからの新たな日々に、乾杯。


 俺はカスガルから小切手を受け取る。事前に話した通り三等分だ。

 小切手に描かれた額は……まぁ、一等地に店を構えれるぐらいはある。


 帝国最強だったパーティーはこれでお仕舞い。呆気なかったな。

 流石にいくら俺が帝国最強の前衛でも同じように再び頂点に立つのは難しい。それだけ得難い仲間だった。


 新しい家の受け入れが整い、奴隷たちの受け取りまで日がある。

 依頼で儲けるか。討伐するにしてもギルドで情報を手に入れておかないとうまみがない討伐をしてしまうことになる。


 そしてギルドに到着すると、受付嬢から手紙を渡された。

 普通の手紙ではない。堅く高級な封筒に封蝋がされており、その蝋に刻まれている印は見間違うはずもない。帝国皇族が使う印だ。


 帝国皇女殿下からの直々の手紙である。


 手紙にはパーティーへの労いと解散を残念に思うこと。そして依頼を達成した事への感謝を示す為の帝国皇城への呼び出しであった。


 残念な事にカスガル達は冒険者ではなくなったのなら無理に来なくていいと書いていた。道づれには出来なさそうだ。カスガルもレナティシアも皇族に会うのは恐縮すると言っていたし。

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