第7話 俺は約束が破られるのが堪らなく嫌いなんだ

「ヒッ」


 痛みでうずくまった盗賊は、俺に声をかけられビクついた。

 そういうの、今はいらないんだよな。


「聞こえただろう? 生贄とはどういう事だ。詳しく吐けよ」

「うぅ……、言えば助かるのか?」

「ああ、俺は約束は守る。盗賊なんてクソだが、取引出来る余地があるなら取引してやる」

「あ、後からやっぱり殺すなんて事は」

「やらない。心配するな。俺は約束を破られるのが堪らなく嫌いなんだ。だから俺は約束を守る。簡単だろ?」


 盗賊は暫く考えていたが、俺が剣に手をやると観念した。元々黙っていれば死ぬしかない。こいつに選択肢はない。


「く、詳しい事はボスしか知らない……。俺が知ってるのはあのお嬢様を暫くここに監禁して、引き取りの人間が来たら渡す事だ」

「その引き取り先は誰だ?」

「知らない。ほ、本当だ!」


 使えねぇ。


「じゃあ、あのお嬢様はどうやって攫った? ラナケルド家の御令嬢様だ。何をするにしても警備は分厚いはずだ。お前らじゃ無理だろ」

「赤いフードを被った連中だ。寝込みを攫ったらしい。顔は見てないんだが……そうだ。ボスは相手を知ってるみたいだった」


 あの双剣野郎、生かしておけばよかったか。

 しかし、元王国軍の幹部と知り合いの赤いフードの連中ねぇ。

 貴族の家に侵入して攫うなんて真似ができる程度には手練れで手段を選ばない、か。


 生贄……邪教の類か? 


 俺が考えていると、盗賊が足の痛みにまた呻き始める。


「他に知っている事は?」

「な、ない。俺は殺しもした事ないんだ。許してくれよ……」

「良いだろう。命は助けてやる」


 俺は低級ポーションを使い、足の怪我を治療してやる。歩けるぐらいにはなるだろう。


「ありがてぇ……」

「さて、このままお前を見逃すって訳じゃない。見逃してまた盗賊をやられちゃ、俺が見逃した所為になるからなぁ」

「わ、分かった、もう盗賊行為はしない」

「口だけならなんとでも言える。だからこうする」


 俺は盗賊の左手の爪にある魔法を掛けた。


「この魔法はな。お前が俺との約束を破った時に発動する。効果は……気になるなら試してみるが良い。ちなみに俺は言ったよな。約束が破られるのが堪らなく嫌いなんだって」


 盗賊は左手の爪を見て冷や汗をかいて、何度も頷いた。

 路銀をくれてやり、俺達がここから居なくなれば逃す。

 更生するなら始末するほどではないし、更生しないなら勝手にいなくなる。


 俺は盗賊の事は忘れて、生贄の事に考えを巡らせた。経験上、邪教が絡むと碌な事がない。この天剣を手に入れた経緯も邪教が絡んでいた。壊滅させたから別の組織だろうが。


 入口から出るとニア達が乱暴された女達に毛布を掛け、介抱していた。ラナケルドのお嬢様も岩に腰掛け休んでいる。


 ニアは出てきた俺に白湯をくれた。


「天騎士様、こっちは馬車を手配しに行ったからそれ待ちだよ。なんか分かった?」


 白湯を飲みながらニアに分かったことを伝える。


「赤いフードの集団かぁ。ま、怪しすぎるね」

「とりあえずラナケルド家が対処するだろう」


 なんせ、娘が寝込みをさらわれたのだ。

 公にはなっていないが、名前に泥を塗られたんだ。

 しかも現ラナケルド家当主のラナケルド侯爵は子煩悩で知られている。怒り心頭だろう。


 娘の安全が分かれば容赦はすまい。





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