第5話 俺が嫌いな言葉は盗賊、だ。
キャベリック商会の護衛はつつがなく終わった。
帝都の衛星都市であるここ、バーズンの街に無事到着する。
強弱もわからないような知能がない雑魚の魔物を処理しただけで終わりだ。
勘違いしてほしくないのは、これだけを見て楽な仕事だと思わないでくれ、ということだ。
キャベリック商会の商人はそんな節穴ではなさそうだったが、中にはこれなら安く上げようとか考える人間もいる。
違うんだな、これが。
俺やニア達だからこんなぬるい依頼になっただけで、威圧だけで魔物を遠ざけられない連中なら道中に10回位は襲われている。盗賊もセットだろう。
そしてそんな連中がそれだけの襲撃を無事切り抜けられることもなく。
安全には金を払え。鉄則だな。
流石に一般市民にまでこれをやれとは言えないが。彼らの懐事情は知っている。
後から町に入ってきた市民の集団を見るに、無事に来れたようだ。
良かったな。
さて、今回はオマケが本命だ。
俺は早々に都市を出てニア達を待つ。
キャベリック商会との挨拶も終え、依頼が完了したニア達が都市から出てくる。
普通はこのくらいの依頼でもその日は解散し、一日位は休んだりするが全員元気はつらつだ。
獣人は狩りが大好きだからな。仕方ない。
俺は名声もお金も大好きだから勿論付き合う。
ニアは目的地へ指をさす。
「よーし天騎士様。行くよ。盗賊狩りのお時間! 私達が先導するけど本気で走っていいよね」
「ああ、付いていくから行け」
「はーい。皆ついてこーい」
そういうや否や、音もなくニア達が駆け出す。
振り向いた時にはもう随分と離れ、見えなくなりそうだった。
やれやれ。
当然ながら、いくら俺でも普通には付いていけない。どれだけ強くても獣人よりは早く動けない。
だから雷剣に魔力を通して雷の魔力を引き出す。魔法は苦手だが魔力はあるし、こういうのはむしろ得意だ。
雷を足に纏わせ、特定の操作で動かすと走る際に超加速が得られる。
雷の属性は攻撃に使っても便利だが、こういう使い方もできる。
原理は知らないが、割とよく知られている使い方だ。
ニア達に追いつき、加速を緩めて並ぶ。
ニアは俺の足に纏う雷を見て両手で自分を抱く。
「うひ~、それ近くにいると毛が逆立っちゃうよ」
「獣人は苦手だよなこれ」
雷が近いと毛という毛がゾワッとするらしい。
雷自体には人間よりよほど強いのだが、この感覚が嫌いらしく獣人は大体こういう反応をする。
まあ、こういう時は我慢してもらうしかない。
行きにかかった時間の四分の一もかからず目的地手前に到着した。
ここからは不意を打つために隠見を行いながら盗賊たちの根城に近づく。
獣人たちの斥候が再び活躍する時だ。
俺もパーティーで前衛一人でやっていたから一通りはできるが。本職ほど上手くはないな。
幾つかの仕掛けがあるだけで途中に見張りはいない。
相手に勘づかれないように仕掛けを無効化しながら手早く進むと、洞窟が見えてくる。
入口が遠くからは見えないように工作されていたが、相手が悪かったな、おい。
見張りが二人岩に腰かけてカードをやっている。
昼間にこんな場所で見張りなんてただの貧乏くじだ、と思ってるんだろう。
その通りだ。
音もなく二本の矢が放たれ、同時に見張りの頭を射抜いた。
お見事。大した腕だ。
斥候が入口に行き、手招きで俺たちを呼ぶ。
ここからは喋れないからな。経験と勘と予想で対処する。
足音すら消して、部屋を一つずつ開けて中の盗賊を潰していく。
どいつもこいつも奇襲なんて考えてませんって面で声すら出せずに死んでいった。
途中、大部屋に遭遇すると中から異臭が漂ってきた。
ニア達は声こそ出さないが顔をしかめる。俺でも臭いんだ。あいつ等には利くだろうな。
これは……ヤリ部屋か。
鎖につるされた女達に夢中で盗賊が腰を振っている。
女達は悲鳴を上げる元気もないのか、虚ろな様子で盗賊からの辱めを受け止めていた。
「はぁっはぁっ、たく、折角の馬車が通ったのに見過ごせなんてクソ!」
盗賊は苛立っており、女からの反応がない事にさらにイラついたのか顔を殴る。
無抵抗の人間を殴るのは楽しいか?
「こいつも飽きたな……、そうだ、最近捕まえたあの――」
俺は盗賊に後ろからそっと近づいて首をへし折った。
そのまま横に投げ捨てる。
女は反応しない。だが生きてはいるようだ。幸い足や手の腱は切られてはいない。
場合によってはここで楽にさせてやった方が良い事もあるからな……これなら救助できる。
ヤリ部屋の盗賊たちは無言のまま死んでもらった。
非道の割に楽に死ねてよかったな。
ニアが俺の耳に口を寄せ、小声を出す。
「後は奥の部屋だけだね。……怖い顔してるから任せるね」
どうやら、殺意が漏れているらしい。
なら承ろうじゃないか。鏖殺だ。
力で我儘を通すなら、力で潰されると知れよ。
俺は奥の部屋への扉を開ける。
開けた時点で必ず音が鳴る仕組みのようで、ようやく盗賊たちは襲撃されていたことを知ったらしい。
中には4.5人の盗賊と一人毛色の違うやつがいる。
どうやら傭兵崩れの武芸者のようだ。そいつだけが即座に剣を構えて俺に警戒している。
俺は雷剣を右手に構えた。強靭に握ると雷が剣から溢れる。
その命、神に返すがいい。
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