第4話 天騎士です。と言えば伝わるから楽だな。

 ニア達と合流する為に馬車へ近づくと、獣人達がこちらを見た。


「来たか。天騎士」


 ニアは見当たらないが、大柄の男が俺に声をかけてきた。彼等のサブリーダーでマーグという獣人だ。

 犬の系列らしく、犬耳が生えている。


「よう。ちょうど良い時間だったみたいだな。ニアは?」

「護衛する商人と話している。もうじきに来るだろう。それから出発だ……お前には一番前を歩いてもらう。折角の天騎士参加だ。良い威嚇になる」

「人をなんだと思ってるんだ。まあ構わんが、斥候は任せたぞ」


 マーグは頷き、その後に握手を交わした。


 そして適当な岩に腰を下ろしてニアを待っていると、大きく手を振ってコッチに来る。身なりのいい男二人を連れて。


 俺は立ち上がるとニアが二人を紹介してくれた。


「天騎士様〜! こちら今回護衛依頼をしてくれた、キャベリック商会の会長さんと番頭の人だよ」


 フワッとしていた。

 紹介された二人のうち、年配の男が喋る。


「キャベリック商会の会長、マクソン・キャベリックです。今回ニアさんのパーティーに依頼をしたのですが、名高い天騎士のオルブスト殿も参加して頂けると聞いて挨拶をと思いましてな」

「何、暇を持て余しておりましたので。天騎士の名にかけて安全な旅を保障しますよ」

「ははは、それは何より心強い。安心してお任せできます。道中何かありましたら、この番頭にお知らせください」

「番頭のリノ・バンです。天騎士殿の噂はかねがね聞いておりますが、実際に初めて見ますと噂以上の迫力がありますね。宜しく頼みます」


 番頭と握手をして、商人達は馬車へ戻っていった。

 もう出発になるだろう。


「良いよね〜天騎士様。名前が通ってて。私達も最近ようやく有名になってきたけど、まだ舐められたりするし」

「正直言って天騎士の二つ名が一人歩きしてるけどな。まぁ便利ではあるか。そら、いくぞ」

「は〜〜い」


 出発の準備万端なのを確認する。

 斥候が道を先導し、俺が馬車の前に出て歩き始めた。

 馬車の速度は人間の徒歩より早いので早歩き気味でずっと歩く事になる。冒険者は歩くのが仕事なのでこれで根を上げる奴は冒険者で生きていけない。

 装備を着込みすぎると大変なので俺は頑丈な軽装備位にしてある。

 獣人達は元々軽装だし肉体の土台がそもそも違うからな。


 後ろの集団も慌てて着いてくる。次第に離れていくだろうが、何かあれば狼煙を上げるだろう。


 馬車の護衛はひたすら警戒して歩く。とはいえ、この面子なら商人を狙った盗賊は襲ってこない。

 自分で言うのもなんだが、災害扱いの竜を狩るような人間離れした最強格の冒険者を襲う盗賊がいたらただの自殺だ。

 ニア達だって竜はともかく大型の魔物を何度も定期的に狩っている。


 雑魚の魔物も、俺達の気配にビビって遠くに行ってしまう。皮肉にも誰でもなれる冒険者という商売は強くなればなるほど、名前が売れれば売れるほど楽な商売なのだ。


 行き先で何を食べようか。周りを警戒しながらも暇で仕方ない俺はそんな事を考えながら先頭を歩いていた。暫くはそんな感じで進む。


 すると斥候の一人が戻ってきてニアに耳打ちし、またすぐ居なくなった。ニアの顔が悪い事を企む顔になる

 ニアは持ち場を離れて俺のところに来ると耳に小声で囁いてきた。


「盗賊の根城見つけたって。護衛終わったら盗賊狩りしてもう一儲けしちゃお。天騎士様?」

「勿論だ。楽しくなってきたな」 


 帝国では盗賊に人権は認められていない。

 つまり、盗賊の溜め込んだお宝は討伐者の総取りである。まぁ盗賊側もそれは分かっているので根城はなるべく隠すし戦力も蓄えているのが常だが……


 俺やニア達にとってはついでに一稼ぎできるボーナスでしかない。憐れだ。何があったとしても盗賊を選んだ事を後悔しろ。


 斥候が一人、盗賊に張り付いて見張るらしい。

 依頼先には明日の昼には到着するからそれから急げば明日の夜には強襲出来るな。何か珍しいものでもあれば良いが。

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