第3話 俺は吝嗇家じゃないぞ

 ニアのパーティーは獣人主体で、しかも前衛と斥候で固められている。

 上手くハマれば凄まじい爆発力のあるパーティーだが、逆に苦手なものはお手上げという極端な構成だ。


 とはいえ、上級冒険者、しかも獣人が集まっている以上大抵の事はどうにかしてしまうんだがな。

 だからこそ俺を引き入れてより強化を! といったところか。我が事ながらネームバリューがある。


「ね〜、天騎士様。良いでしょ?」

「よかねーの。俺はバランスの取れた柔軟な構成が一番良いんだ。他を当たれ」

「そんな〜! ダメ?」


 そう言って近寄ってきて上目遣いをしてくるニアの頭を掴むとワシワシ撫でてやる。


「ダメ」

「そっかぁ。なら、一緒に依頼しよ! これなら良いでしょ。ソロになったなら稼がないとだし」

「臨時ならいいけどよ。何やるのか決まってんのか?」

「護衛やるよ〜、明後日の朝から。場所は帝都南門ね。分配は頭割り!」

「分かったよ」

「やったね〜!」


 俺の返事を聞くや、仲間に言ってくると瞬く間に居なくなった。騒がしいヤツ。黙ってれば美少女なんだが、黙って居られないから止まらぬ狩人なんて二つ名になる。


 それから俺は転居先の確保やら、寝具や椅子などの手配をし、それらが終われば酒場で肉を齧り、エールを呷る。


 どうせなら広い家、良い家具、良い雑貨などと考えたせいでやたらと豪華になってしまった。

 普段から名声を稼いでいる分こういった部分はある程度金を掛けないとな。


 吝嗇家と思われてはあらゆるところでケチがつく。


 金を稼ぐ人間はそれなりに金を使わないと信用されないんだ。


 そういう意味ではニアが依頼を誘ってきたのは助かると言えば助かるか。

 金策自体は色々手広くやって入るが、本業でしっかり稼がないとな。


 俺はそのまま酒場の二階の安宿で寝る。

 女を抱く気にはなれない。今はどうしてもレナティシアがチラついてしまう。

 恋愛感情があった訳じゃないが、一番近かった異性だ。それが結婚となると意識しないのは難しい。


 必要な手続きは済んでいる。アイツらに会うのは暫く間を開ければ良いだろう。いきなり告げられた俺にはそのくらいの権利はある。


 安いベッドの寝心地は抜群に悪かった。




 ニアとの約束の日。

 必要な準備をして帝都南門に到着した。

 護衛の依頼だし、武装は普段より少なく剣は2本装備している。


 雷剣と天剣だ。この宝剣2本があればまあ、基本大丈夫。


 雷剣は効かないヤツの方が珍しい。

 天剣は俺が天騎士なんて大層な二つ名で呼ばれる契機になった剣だ。この剣がなくても俺は強いけどな。色々と特殊な剣だが、頑丈だし普段からよく使う。


 門を抜け、門前の広場を見渡す。

 獣人達が集まっているのですぐ分かる。

 隣には立派な馬車が2台。

 そして少し離れたところに旅装束の集団がいる。


 彼等は別に護衛対象でもなんでもない。

 要は、護衛する俺達が通った安全が確保された道を通りたいのだ。

 たとえ何人か集まっても市民が護衛を依頼するのは金銭的にキツイし、下手に安く雇えばそのままゴロツキになって襲われる。


 これは暗黙の了解で許可されている。余裕があれば何かあれば手助け位もする。


 こういうのは助け合いだ。


 だが、馬車に乗るような金のある人間がやると大顰蹙だ。場合によっては貴族の耳にまでいく。

 そうなったらまあ、終わりだな。


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