7年前の話(須藤唯奈18歳)
私には、もう何年も前からしつこく付きまとってくるストーカーがいたし、電車に乗れば痴漢や盗撮魔から自分の身を守らなきゃいけなかった。
街に出れば怖い大人の人達から声をかけられて、驚いて
中学にあがる頃には立派な男性恐怖症になって男がみんな気持ち悪く見えて、女の子とだけ遊ぶようになって、それなのに友達が好きな人に好きになられて、それが私からちょっかいを出してたみたいな変な噂話になって広まって「私の気持ち知ってたくせに」って友情が壊れて孤立した。
優子は私を生かしておくことも、同じ空の下に存在することも許容できないようだった。
優しい子と書いて優子。茶目っ気のある両親にその名を名付けられた女はその日も私を女子トイレに呼び出してきた。
嫌だと断っても無視しても、どうせ付きまとわれるのは知っていたから私は仕方なく付き合う。
うんざりしながら向かった女子トイレには優子と優子の取り巻きが何人もいた。
優子は私とのことがあってよほどショックだったんだと思う。
取り巻き達は全員、天地がひっくり返っても優子にはかなわないようなランクの子達ばかりだ。
念には念を入れたって感じが伝わってきて、私にはとても滑稽に見えるんだけど、
当人達が納得しているんだったらそれでいいと思う。
優子は私と二人きりになりたいからと、取り巻き達に外で待っているように伝えた。どうやら優子は人には話せない話を私としたいらしい。二人きりになったのを確認すると優子はボソリと
「お願い… 返して…」
呪いのような、
優子は私の前で懇願した。今にも泣きだしそうな顔をしながら、湧きあがる憎しみと哀しみを堪えながら私に懇願してきた。
「そんなこと言われても、私にだってどうしようもできないじゃん」
私は事実を口にする。確かに須藤唯奈と曽根島優子との間には悲しいことが起きたのは認める。でもそれは不可抗力だ。誰にもどうすることもできない。
ただ、目の前の女は私が事実を口にすることがどうしても許せなかったようで、それまで我慢してきた感情を爆発させて
「ふざけんな!」
「私にどうしろっていうのよ!」
「あんたがやったことでしょ! 返しなさいよ! 返しなさいよ!」
騒ぎを聞きつけて外にいた優子の取り巻き達が中に入ってくる。泣きじゃくりながら叫ぶ優子を見て取り巻き達が私に詰め寄ってきた。
この子達は私達の間に起こった本当の出来事を知らない。
仮に全てを正直に話したとしても、理解できるかどうかすら怪しいものだし、きっと誰も納得なんかしない。
この子達の頭の中では既にストーリーが出来上がっていて、台本が用意されていて、私にその茶番劇の悪女とピエロを演じさせようとしてるだけ。
優子やその取り巻き達にしおらしく詫びて、泣いて許しを乞い、その上で制裁を受けること。
思考停止した人間のヒステリーにはいつも正義感と暴力性がちらついて嫌になる。
私とあのことがあってから文字通り人が変わってしまった曽根島優子ちゃん。
こんなことしても、こんな子達と付き合っても、あなたの本当に欲しいものは手に入らないんじゃない?
確かにあんたは綺麗でカワイイ。
程よく可愛くて、いろんな男に「こいつイケるんじゃね?」って勘違いさせられる程度にちゃんとカワイイ。
なめられてるって思うんじゃなくて、嬉しいんでしょ? 向けられるのが好意であれば誰でもいいんでしょ?
そうやってこのド田舎でみんなのアイドルだか看板娘だかやってチヤホヤされてればいいじゃん。
ずっとそれで生きてきたわけだしさ。
私と自分を見比べたりしないで、もっと堂々としてればいいのに。その方が可愛げもあると思う。
ただね、私から何かを奪いたいって本気で考えてるなら諦めた方がいいと思う。
一人でどこの誰にでも調子に乗れないあなたには無理。
わかってるんでしょ? あなたはカワイイ。でもどこかで見たことのあるような特徴の無いカワイイ子。希少性の無い、量産型のカワイイ女の子があなた。そんなあなたが私に一体何の御用があるっていうの?
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