後藤和彦の独白(須藤唯奈11歳から18歳まで)
人生はチョコレートの箱、開けてみるまでわからない。
フォレストガンプはいい映画だと思うし好きだけど、真似することはできなかった。
僕はあんな風に駆け抜けられなかったから。
チョコレートの箱の中身を僕は開ける前に諦めてしまったのだ。
誰かを好きになるなんて誰にだってできる。
フォレストガンプが特別なのは、最後まで駆け抜けたからだ。
真っすぐに、ひたすらに、好きな人に向かって最後まで駆け抜けたからだ。
彼女は顔だけでなくスタイルも良くて、だから遠目から見てもあれは須藤唯奈だって誰もがすぐにわかった。彼女の容姿はそれだけ異質で、誰よりも目立っていて、孤立してた。
あの恵まれた容姿を本人含めてみんな持て余してたんだと思う。見ていられなかったな、酷い状況だったから。
たまにクラスの人気者みたいなやつが、彼女に近づいたり告ったりしたんだけど全部撃沈。
学年を問わず、学校も問わず、彼女の存在を知った地元の自信のあるやつみんな仲良く撃沈した。
これは結果論でしかないけど、好意って憎しみに変わりやすいから、あの子はもう少し慎重になるべきだったとは思うな。
本人はあんまり気に留めてなかったみたいだけど、敵を作らないでいいならそれに越したことはない。
女子って男が思ってるよりもカワイイ女の子のこと好きだったりするんだけど、そういう女子も味方にはできなかったみたいで、彼女は容姿に恵まれた分だけしっかり人に嫌われていた。不器用だったのかもね。
僕が彼女を初めて見たのは、彼女が女子トイレからずぶ濡れのまま出てきた時だった。
手にはバケツを抱えていて、なみなみと注がれた水が歩くたびにこぼれてた。
須藤唯奈は教室の戸を開けて中に入っていくと、クラスの女子達に向かってバケツの水をぶちまけた。
「ふざけんじゃねえよ!」とか誰かが怒鳴って、そのままキャットファイトが始まって、そうやって須藤唯奈は毎日誰かと戦っていた。
売られたケンカは全部買っていたんじゃないかな。
中央アジアからアフリカ大陸にかけて生息するネコ目イタチ科の動物ラーテルは、愛らしい見た目とは裏腹にライオンやコブラにも平気で挑みかかる世界一恐れを知らない動物とギネス認定されているらしいんだけど、ギネスはラーテルのことは知っていても須藤唯奈のことは知らなかったんだろうね。
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