私が地獄に堕ちるまで
望月俊太郎
須藤唯奈の独白(須藤唯奈25歳)
私は自分で自分の化粧が盛れたとわかると急激に戦闘力が上昇するタイプだ。
「どこからでもかかってこい!」
そういう高揚した気分そのままで夜の街に飛び出すのが好き。
どこの誰とでも対等かそれ以上に振る舞えているこの瞬間、私は私が無敵なんじゃないかなって思えてたまらなく好き。
私の暮らしている東京には夢がある。夢もあって希望もあってお金や名声や権力だってある。
キラキラした夜景にお洋服に人に世界に、誰もが欲しがって憧れるそれらに私ものめり込んだ。
SNSが発達してリモートワークが浸透して、どこででも働けて、世界のどこで何が起こったのかをつぶさに知れるようになったとか言われても、見るだけで触れもしないキャビアの味は、そのまま一生わからないままでしょ?
私は映画やドラマやInstagramで繰り広げられる眩しい世界の中心でお姫様になりたかった。
18で千葉の片田舎から飛び出すために、東京の大学に進学して一人暮らしを始めて、1年目はレストランでコツコツとバイトをして大学のミスコンでグランプリを獲って、知名度の上がったのを転機に交友関係と生活は派手になった。
誘ってもいないのにいつの間にか寄ってくる脂ぎったおじ達から貞操を守りつつお金を巻き上げ、転がし、帰りに渡されたタクシー代の余りは、次に会った時に封筒に入れて返すとバッグか時計に形を変えて戻ってくる。
錬金術を繰り返して身なりを整え、教えるのがうまくて教えたがりなおじ達から教養を吸収し、憧れの世界に足を踏み入れる頃には伊勢丹新宿店で買った
大学を卒業して就職するまではラウンジで働いたこともコンカフェで働いたこともあるし、交際クラブに登録もした。
界隈で知り合いができてどこぞの社長のホームパーティーにも顔を出したし、人脈っていう冗談みたいに頼りないロープで綱渡りだってした。
パパ活女子に港区女子。自分で金を稼いでもないくせに勘違いしてるかわいそうな女。人によって私の呼び方はそれぞれ。何とでも呼べばいい。
自分が求めて求められるレベルの化粧品と洋服とバッグとアクセサリーを買って、普段の食事は全部オーガニック食材で自炊して、エステとネイルと美容院とジムに通う日々にかけたお金と時間を想像できない残念な人と楽しく会話できる自信は無い。
多様性が叫ばれる時代に無理やり価値観の合わない人種と仲良くする必要なんて無くて、ザリガニとトンボが仲良くおしゃべりしたりはしないし、仮に偶然遭遇したとしても互いに素通りしてくでしょ?
この世界の同時期に生まれたっていう共通点しか無いんだからしょうがないじゃん。
憧れた世界があって、憧れた生活があって、その世界線の登場人物になること。
憧れを日常にするためなら整形だって何だってどんな手だって使うべきでしょ。
メイクして着飾って東京の夜を遊んで、今この世界で一番キラキラしてるのは自分なんだってInstagramに載せて、載せまくってストーリーの一つ一つがアマランサスよりも小さくなればいい。
ありのままの自分? いいんじゃない?
いい年したおじさんでも美容脱毛して化粧水くらいは使うこの時代に着るものはいつも動きやすいスエットかジャージで歩きやすいぺったんこな安い靴履いて、化粧もしないですっぴんで外に出かければいいんじゃない?
造り物だとか紛い物だとか性格の良し悪しだとか、そんな個人の感想でどうとでもなっちゃうものに興味なんて無いし議論をする気になんてなれない。
その日、その瞬間に輝いた人全員が勝ちでしょ。
自分の魅力とポテンシャルをちゃんと知っていて、それに見合うだけの必要な努力と計算を続けられる子だけがこの場所に立てるの。
金持ちの道楽や暇つぶしに付き合ってハメを外して悪ふざけして、そこでしか見られない景色も狂態も狂騒も楽しめばいいし目立てれば何だっていい。私はそれが見たくてしたくて自分から選んでここにいる。
盗人
いいじゃん。桜も花火もシャボン玉も、みんな綺麗でカワイイ。
私は綺麗なものが好き。カワイイものが好き。
そういうものにときめきたくて、私自身がそうなりたくて生きてる。
何にも知らない無知で才能も想像力も無い人が、そのつまらない尺度で私達を見て人間関係の希薄さとか言われるから笑っちゃうよね。
ここまで本音で話してるじゃんね。それか言わなくていいことは言ってないだけ。
それともあなたは会社の上司に「ハゲてますね」「デブですね」「脂ぎっててキモいですね」って毎日ちゃんと口に出してるの? そんな地獄みたいな会話するやつバカだと思う。
自分達は散々
まあ普段はこんなこと絶対に口に出したりなんかしないけどね。
私みたいに綺麗でカワイイ子がちょっとでも本当のことを言うと、必要以上に叩かれたり性格悪いって思われるでしょ?
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