兄の日記

父にLimeをすると、すぐに返信がきた。


【一時間後に行きます】とはいってきた。


僕は、兄ちゃんの日記を開いた。


はちと別れた後を知りたかったのだ。


【■■に、嘘をついた。優しさを利用して、体の関係を迫る。受け入れてくれた。】


誰?


二文字なら、めいさんか?


僕は、次を見る。


【家に来た。また、優しさを利用する。嫌?って聞いたら嫌ちゃうよって笑う。ごめん、■■】


この日記を預ける前は、どうやら名前を書いていたらしい。


反対側に透かしても、何してもわからないように兄ちゃんはしていた。


【■■をラブホテルに連れてきた。ここは、はちと来た場所だった。キスの記憶の上書きをするためか?もう、最近は諦めたのか?■■から、キスを仕掛けてくるようになった。俺は、■■となら何でもできる。】


あのラブホテルの事だとわかった。


【■■に、好きな人が出来たと言われた。やめたいん?と聞いたら、まだ付き合ってないからと言われた。だったらと、家で初めて■をさせる。■■は、優しい。嫌がった顔を見せなかった。また、利用した。】


どこの家とかは、バレるからかいていなかった。


【■■が、好きな子と楽しそうに話していた。ムカついた。イライラする。俺のなのに…。家で、また■をさせた。今度は、もっと丁寧にさせた。俺も■をした。しなくていいと言うのがムカついた。何度も何度も苛めてやった。俺しか、見れないようにしてやる】


何をさせたのか、誰なのか、まったく理解できなくて頭を掻いた。


【■■への気持ちが、体への執着心だと気づいた。それでも、好きな人に楽しそうに笑ってる■■が許せなかった。俺のだ。】


好きが曖昧だったんだな。兄ちゃんも…。


【■■が、好きな子とまた楽しそうに話していた。彼女は、■■の髪にれた。苛立つ。帰り道、駅のトイレに無理やり引っ張る。嫌や、こんなとこ。そう言われたけど、止められなかった。■■は、涙目で俺を見ていた。謝れなかった。】


兄ちゃんの執着心は、暴走していた。あの、爽やかに過ごしている裏でこんな風な気持ちを抱えていたとは知らなかった。


【■■の好きな人が■■の肩にわざとらしく頭をおいた。体調が悪いと言った。イライラした。もう、外はやめるってしないって約束したのに…。裏校舎のトイレは、普段使われてないのを知っていた。そこでした。酷いやん。こんな所で。ボロボロ泣いた。ごめん、■■やめよかって言ったら、ええよって笑った。優しさに壊してしまいたくなる。】


この人は、誰なんだろうか?


兄ちゃんに、凄く優しくしてくれたのだ。


八を失った兄ちゃんに寄り添っていたのだ。


ピンポーン


インターホンの音に、僕は、日記を閉じた。


キャリーバッグを持って、鍵を閉めた。


父と一緒に実家に帰った。


「また、荷物運ぶん手伝って」


「ええよ」


父に告げて、部屋に荷物を置いた。


母は、出掛けていた。


「僕、ちょっと出掛けるから」


「はいはい」


僕は、実家を出た。


電車に乗って、映画館近くの駅前にきた。


「九」


「八」


すでに、駅前で待ってくれていた。


「ほんなら、行こう」


「うん」


僕は、八の手を握りしめた。


兄ちゃんの日記を僕は、まだまだ読みたかった。


「九、何見るん?」


「何やったかな」


兄ちゃんが、離した手を僕はしっかり繋いだ。


あの頃の、兄ちゃんが何を想い考えていたかを僕は知りたかった。


病気の兄ちゃんを、誰かが支えてくれた?


あの日記みたいに、黒塗りにされた誰かが…。


僕は、兄ちゃんの事をもっと知りたかった。


何でも出来る完璧な兄の、剥き出しの想いにれられた事が、嬉しかった。


「九、好きやで」


八の言葉にどこからかやってきた桜の花びらが、肩にとまった。


僕は、その花びらを掴みながら兄を思っていた。


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秘密のdiary【恋と嘘】 三愛紫月 @shizuki-r

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