第5話 かもねぎかもねぎ

「一紅衣様! 見つけました!」

「下畑ちゃんけっこう方向音痴なんやね〜」


 やっと一つ目の目的地が見つかったらしい。本物の方向音痴らしい下畑さんに付き合っていた久保くんは、疲労を滲ませている。ご苦労さまです。


「ここが『時計屋 かもがねぎしょってきた』です!」


 名前長。

 時計屋っぽく長針と短針と数字で飾られた看板には、『かも』とでかでかと書いてあり、その下にチョロチョロと小さく『がねぎしょってきた』とある。

 ざっくりした方の地図に老舗と説明書きがある割には、看板が新しいので最近換えたんだろう。


 なんとも変わった雰囲気の店だ。

 ショウウィンドウに映るさまざまなかっこいい時計とふざけた看板の温度差がすごい。グッピーが死んじゃう。


「ここで店主さんのクイズに答えて達成のスタンプもらえるんやって」


 先生たちから配られたざっくりした方の地図に、空白の四角の欄がいくつかあって、目的地にそれぞれ線で繋がれていたのでそこにスタンプを押していってもらうんだろう。


 じゃあ早速と俺達が入ろうとする前に、店の木製扉がギィと軋む音に合わせて開いた。


「あ」

「あ」

「あー!」

「あら」


「三条くんと緑くんやん」

「ここで会えるなんて嬉しいな」


 出てきたのは三条くんと中緑くんと同じグループだろうあとの四人。

 三条くんは驚いたように目を瞠った後嬉しそうにニコニコ笑った。


「まさかここで会うとは……」


 下畑さんはギリギリと歯を鳴らしている。この人一紅衣宮子以外の人間全員嫌いなんじゃないか?

 俺は訝しんだ。


 そういえば、三条・中緑と一紅衣・下畑は同じクラスか。


「お前たち結局二人いないままなのか……それにしても早いんだな流石一紅衣さんのグループだ」


 中緑くんが憐れさと感心が合わさった顔をする。


 まだ俺達は一つもスタンプをゲットしてないんだけど、これは早いのだろうか。ショウウィンドウに飾られた時計が現在時刻を刻んでいるとすると、出発からだいぶ経っているような……


「えっとぉ、違くてなぁ、これ一つ目なんよ」


 久保くんがちょっと気まずそうだ。

 一紅衣さんがちょうどざっくり地図を広げていたので覗き見る。


「……ここ三つ目の地点ですわ」

「Oh……」


 ひそりと呟かれた言葉に、まともな母国語が発せない。

 もしかしてここに来るまでに一つ目二つ目の目的地点を通ったのではとよぎったが、道中の記憶にそんなものは一切映っていなかったので、最悪な迷い方をしたのだと悟る。

 最初に地図持っといて先行役パシリに自然となっておけばよかった。


「へぇこっちのほうが効率良いとか?」

「ま、まあそうですわね」


 おい。かっこつけるな。全然迷子組だろ俺達。

 というか、三条くんと中緑くんの一紅衣さんへの信頼無駄に厚すぎない? このですわ今どんな過ごし方してるんだ。


「ある意味効率が良いことは確かやね」


 そう小さく呟いた久保くんに詳しく聞いてみると、下畑さんが道に迷い一つ目の目的地点を見失ったため、久保くんは一番近そうなこの時計屋に目標を変えるよう誘導したらしい。

 行く順番を変えたらだめとは言われていないからやったとは恐れ入る。


 久保くんは頭が柔らかい人なんだろうか。疲れてめんどくさがった可能性もある。

 俺は昨日初めて久保くんと合ったので彼がどういう人なのかまだ分からない。


 もっと久保くんと話してみたいと思うのは、友達がたくさんいる感じのクラスメイトに、話しかけられただけで俺たち仲良いカモ!? となってしまう陰キャ心理のせいだろうか。


「じゃあ俺たちは四つ目に行くよ」


 そう言って三条くんたちはここを去っていった。


「……クイズの内容を聞いておけばよかったですわね」


 確かに。

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