第4話 ぐるぐるでワロタ
ウォークラリーというのは、指定された地点を通り無事設定された時間で全部まわり切れるかな? というやつだ。
俺達の宿泊場所がある山から降りてすぐの観光名所の街を巡って帰ってくるのがコースだ。
地図や時計の持ち込みは禁止。最初に配られるざっくりしすぎな地図はあるが、より詳しい地図は現地調達、時計はいろんなところにあるから大丈夫らしい。
「えーと、こっち……です!」
ポニーテールこと
私が一紅衣様を見事導いてみせます! と意気込んだ後あの地図を見た途端、顔が固まっていた。初めてまともに地図を見た人間の顔だ。
「違いました! あっちです!」
そうですか。
「下畑ちゃん、体力あるなぁ」
久保くんが少し息を切らしている。
下畑さんはこっち!? あっち!? と地図をぐるぐる回しながら自分も十字路のど真ん中で回っている。
山から下りるので体力がゴリゴリ削られているはずなのに、とても元気だ。
「きれいな街並みですわね」
「そうだな…………?……!?」
飛び上がった。比喩ではない。結構びよーんといった。
「あら。ごきげんよう?」
「ご、ごきげんよう……」
挙動のおかしい俺をクスクス上品に笑いながらアイツは普通に話しかけてきた。
真紅に輝く髪と無駄にかっこいい名前は、彼女が昔遊んでいたあの子と同一人物であることの証明なのに、喋り方がどうにも一致しない。
ですわとか言う語尾もだけど、高貴な人間であることを主張するような気軽に接しにくい雰囲気がある。
集合したときから話しかけられなかった俺は、この道のりですっかり油断していた。
あと飛んだのはビビったとかではない。地面を歩いていた蟻を踏まないようにだ。ビビってない。
「随分素っ気ないですわね」
「そうかな」
「そうですわ。だって久しぶりに会ったわたくしに顔も向けないなんて、酷いと思いませんこと?」
「そうですネー」
棒読みは止めてちょうだい、とベシリと腕を軽く叩かれた。
「あなたは昔から“そう”ですわよね。興味を持ったら猪突猛進なのに飽きたら目すら向けない。わたくしのことはもう飽きてしまったオモチャの一つなのかしら」
……
「それは違う………………………………ただ気まずいだけ」
「……ぶっ叩きますわよ」
ちょっとシリアスになりかけたのにぶっ壊してしまった。
まあ、イッコウイさんの言葉は的を射ているかもしれない。幼稚園から小学校の子供時代数年間の関わりだったのによく俺の人物像を捉えているな、と思った。
俺は、興味を持ってもすぐ飽きるタチだ。
……なんというか、俺の中の黒歴史の中心にいた少女と今普通に話せる事実に安堵した。
怖かったのだ。あいつまじうぜーやつだからハブろうぜぇ的な雰囲気を出されることが。
結局俺も一紅衣宮子も昔から考え方が似ている。久しぶりに会った友人にまた友と呼んでいいのか戸惑っているんだ。
昔みたいに気安く接しても怒らないだろうか。
「ごめん、みゃーちゃん」
「この歳で聞くと恥ずかしいあだ名ですわね……」
「可愛いよ(笑)」
「あら馬鹿にしてますの?」
ああ。話し方も雰囲気も全然違う彼女は中身は俺の知っている子のままだ。
「また仲良くしてよ」
「……っしかたないですわね〜〜!!」
嬉しそうにニヤニヤ笑う彼女に、俺は安心した。
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