第36話 しゅうりついでに休息
ブラックバーンの撤退以降、宇宙中の運輸業界の混乱はまだ収まっていなかった。
先が見えないと廃業してしまった中小規模の会社も多く、うちのように個人経営が粘ってなんとか物量を捌いているのが実情だった。
「リズ、次はカランだっけ?」
私は通信席のリズに声をかけた。
「うん、カランに送ったら、次は建設用重機を積んでアラドだよ!」
リズが笑った。
「あいよ。ジルケ、航路設定よろしく」
私が声をかけると、ジルケが困った顔をした。
「航海レーダが不調です。航路設定は可能ですが、修理をした方がいいです」
私は各セッションの管理を重視してる。
ジルケがダメを出した以上、私は素直に受け取った。
「まあ、これだけ酷使した事ないからね。リズ、オヤジ呼んで」
私が指示を飛ばすと、今度はリズが困った顔をした。
「通信がパンパンで空きチャンネルがないよ。これじゃ、しばらくかかるね」
リズがため息を吐いた。
「あっ、それなら大丈夫。コンソールパネルに、小さな赤いキーがあるのが分かる?」
私は笑みを浮かべた。
「コンソールパネルねぇ…。あった。オヤジって書いてあるけど」
「それ、軍用回線を拝借しているんだ。それを押すとオヤジが返信してくるはずだよ」
私は笑った。
「あれま、悪だねぇ。なら、試してみるか」
リズがニヤッと笑みを浮かべ、さっそくオヤジと交信を始めた。
「連絡ついたよ。すぐ着くって」
リズが笑った。
それとほぼ同時に、コンソールパネルの赤ランプが二回点滅した。
「もう来たの。暇だったのかねぇ」
私は小さく笑い、コンソールパネルのキーを押した。
これは、赤ランプ点滅でこちらを操船する許可を求めていて、私がさっき押したキーで
、向こうには了解の旨を伝える赤ランプが短く一回点灯したはずだ。
「カボ、エネルギーの出力をアイドルに設定して。他船誘導だから」
私は船内コミュニケーターで、機関室のカボに指示を出した。
『はい、分かりました。三秒下さい』
カボがコンソールパネルのキーを叩く音が聞こえ、操縦室の照明が一瞬暗くなった。
『終わりました。異常ありません』
コミュニケーターのスクリーン上に浮かんだ顔が消え、あとは待つだけとなった。
「よし、準備完了。あとは、楽しますか」
私は笑った。
オヤジのドッグ船に無事に収容されると、私はいつもの第三エアロックから、タラップを下りた。
「おう、来たな!」
ニカッと笑みを浮かべたオヤジが、すぐに歩いてやってきた。
「おう、来たぞ。やたら早かったね。近くにいたの?」
私の問いに、オヤジが腰に手を当てて笑った。
「いやよ、最近忙しそうだからな。しかも、短距離移動ばかりだ。負荷が掛かってそろそろぶっ壊れるはずだって思ってな。航海データを拾って、一定距離でくっついていたんだ」
オヤジがまた笑った。
航海データとは、機密扱いを除いた船籍コードが表示され、どこ船がどこにいるか分かるようになっているサービスだ。
既知宇宙内を航行する船が全て表示されるので、探すのは大変なはずだが、ここで船籍コードを打ち替えているので、検索するのは簡単だっただろう。
「あのね。私たちの船をストーキングするほど暇なの。全く」
私は苦笑した。
「まあ、いいじぇねか。ぶっ壊れてもそばにいるんだからよ。で、やっぱりぶっ壊れたか。どこだ?」
「うん、航法支援システム。バッファのメモリがパンクしただけだと思うけどね」
私は笑みを浮かべた。
「分かった。お前たちは船から降りて待ってろ」
オヤジが笑った時に、ちょうどジルケとパイラが下りてきた。
「あっ、オジさん。こんにちは」
ジルケが笑みを浮かべた。
「よう、無事みてぇだな。航法システムだって?」
「はい、どうにも調子が悪くて…」
ジルケが苦笑した。
「分かった。さっそく作業に掛かるが、いい加減限界だと思うぞ。もう十年物だ」
オヤジが笑みを浮かべた。
「はい、そうなのですが、変えてしまうと扱いが違うので、出来れば今のままで」
ジルケが小さく肯いた。
「分かった。気持ちは分かるからよ。だが、もう交換パーツの製造が終わっちまっているんだ。在庫があれば直せるが、手に入らなかったらジャンク屋を漁るか、別の機種に交換だな」
オヤジが笑みを浮かべた。
「そうですか。では、新機種に更新しましょう。あるかないか分からないジャンク品を探すよりも、そちらの方が早いでしょうから」
ジルケが小さくお辞儀した。
「よし、分かった。後々考えて最新のシステムにするぜ。型落ちの機種だと、またぶっ壊れたら困るからな」
オヤジがニカッと笑みを浮かべた。
「分かりました。よろしくお願いします」
ジルケが頷いた。
「よし、さっそく作業にかかるぞ。お前たちは待合室で待ってろ」
オヤジが笑った。
いつの間にか作り直したのか、待合室は個室が百部屋ほど並ぶ、快適なものになっていた。
そのうち一部屋に入り、私は小さなベッドに寝転がった。
「さて…」
特にやることもないので、私は携帯端末を手に適当に弄りはじめた。
「あれ、航中法が改正されてるな。えっと…」
航中法とは、全ての船に適用される法律だ。
これを守らないと、入港禁止にされたり、面倒な事になる。
ちなみに、私たちの船は限りなく違法に近いが、無闇に主砲をぶっ放したりしていないので、グレーゾーンで見逃してもらっていたりする。
「…マジ?」
私は思わず携帯端末を取り落としそうになった。
「ついに攻撃魔法解禁か。これは魔法使い連盟のごり押しだね」
そう、あくまでも自衛に限ると注釈はあったが、ついに宇宙で攻撃魔法を使ってもお咎めなしとなったのだ。
「これで、私の本領発揮だね。さて、どうするかな」
どうもこうもないのだが、私は思わずにんまり笑みを浮かべてしまった。
ちなみに、船に特別な改造はいらない。強いていうなら、正面スクリーンに照準を表示して欲しいくらいだ。
「主砲と合わせて無敵かもね。ますます宇宙が楽しいよ」
私は笑った。
新調する事にした航法システム一式は、どうにも在庫がないようで、オヤジが急ぎ発注したが、届くのは三日後らしい。
そこから設置作業が終わるのは、一週間掛かるようなので、私たちはつかの間の休憩を満喫することとなった。
「なに、オヤジ。風呂まで作っちゃったの?」
私はオヤジから話しを聞いて、思わず笑ってしまった。
「まあ、顧客サービスだ。入りたいなら浸かってこい」
と、オヤジが笑ったので、コミュニケーターで全員に声をかけ、私はさっそくドッグ船のトラムにお風呂セットを手にして乗って、風呂に向かった。
「全く、やることなくて船内改装でもやっていたのかねぇ。まあ、損な話しじゃないけど」
私はトラムの中で笑った。
程なくトラムが風呂に到着にすると、私は女風呂の脱衣所に入った。
服を脱いでいると、テレーザが入ってきた。
「なんだ、先にいたのか。誘え」
テレーザが笑い、私たちは一緒に浴室に入り、洗い場で体を洗って巨大な湯船に浸かった。
安全性を考えてか窓もなかったが、それはそれで気持ちよく、テレーザと並んで雑談していると、ジルケとパウラが入ってきた。
「あっ、もう入っていたのですね。私たちも失礼します」
ジルケが笑みを浮かべ、体を洗って湯船に入ってきた。
「そういえば、ジルケとパウラでこうするのは初めてだな。なにか、不満はある?」
私は笑みを浮かべた。
「いえ、特にないです。たまに無茶な指示がくると、肝を冷やすくらいですね」
ジルケが笑った。
「あはは、まあ最短ルートだとどうしてもね。それは許して」
私は頭を掻いた。
「はい、もう慣れました。パウラも十分に慣れていますよ」
ジルケが笑うと、パウラが笑みを浮かべた。
雑談で風呂を楽しんだ私たちは客室に戻り、ベッドに転がってそっと目を閉じた。
体を暖めたからか、緩やかに眠気がやってきて、私は仮眠したのだった。
ギャラクシー・エクスプレス ~宇宙急送便~ NEO @NEO
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