第31話 副業の方が稼げる小さな空しさ
新たに機関士にパトラを加え、ドッグ船内でエンジンをチェックしていたらしいカボたちが点検作業を終えて、準備を完了した私たちの船は快調に航海を続けていた。
「さて、身軽になったところで、どうしようか」
特に当てのない航海を続けながら、私はなんとなく呟いた。
「そうだな…。おっ、珍しい仕事を見つけたぞ。ゴブリン退治だと」
テレーザが携帯端末を弄りながら、ボソボソと呟いた。
「へぇ、珍しいね。最近は『魔物』の動きもなかったのに。受けておいて!」
私は笑った。
ここ最近は発見情報はなかったが、この宇宙には謎の生物が多数存在している。
大概は無害だが危険度が高いものは、昔から続く『魔物』と呼ばれていた。
「分かった。あとは任せろ。ジルケ、航法データを送る。依頼はカロザだ」
アリスがコンソールパネルのキーを叩いた。
「カロザか。セントラルに近いね。そういえば、セントラルは復旧したのかな」
呟きながら、私はコンソールパネルのキーを叩いた。
「…まだか。驚異的な速さで復旧作業をしているみたいだけど、まだ閉鎖されているか」
私は苦笑した。
「まあ、あれだけ破壊されたらな。よし、仕事を受けておいたぞ。本来はパトロール隊の仕事だが、別のエリアで紛争が発生したらしくてな。そっちの対応で、とてもこっちまで手が回らないらしい。ロジーナ、そうだな?」
どうやらコンソールでロジーナとやり取りしていたテレーザが、ちょこバーを囓りながら問いかけた。
「はい。貨物船がどうするってツッコミが入りましたが、そこは適当に誤魔化しました」
ロジーナが笑った。
「どうやったんだか…。まあ、いいや。それじゃ、カロザに向かおう」
私は笑った。
いくつかの転送航路を経由して、依頼元のカロザに向かった私たちは、まずは契約書にサインしてもらうために、カロザステーションに向かった。
「リズ、カロザステーションから接岸許可を取った?」
私はコンソールパネルのキーを叩きながら、ロジーナと交代して通信士席に座っているリズに声をかけた。
「うん、大丈夫だよ。ゴブリン退治になんで貨物船が? とは聞かれたけど、結局向こうの状況が逼迫しているらしくてね。特に問題ないよ!」
リズが笑った。
「分かった。少し急ごうか」
私は正面スクリーンを見つめながら、小さく笑った。
「ローザ、レーダーに感あり。件のゴブリンたちでしょう」
航法レーダーを操作しながら、ジルケが声を上げた。
「おっ、さっそくだね。数は?」
私は自分のコンソールパネル上の虚空にウインドウを開き、精密航行レーダーを表示させた。
「まだこっちは捉えていないか。ジルケ、カロザステーションに寄る暇はありそう?」
私が問いかけると、ジルケが頷いた。
「はい、大丈夫です。数は三百くらいですか…。あくまで、ゴブリンだけならいいのですが」
ジルケが小さく笑った。
「そっか、なら急ごう。三百も集まれば、指揮する存在がいるはず。上位種か…」
私はだれともなく呟いた。
ゴブリンといっても、下っ端から上位種まで様々だ。
一纏めで小鬼と呼ばれ、一体なら大した事はないが、大体はこうやって徒党を組んで現れ、場合によってはパトロール隊の戦艦すら撃沈することもあった。
「分かっているとは思うがナメるなよ。この数は多分面倒な事になる」
テレーザがチョコバーを囓り、小さく笑みを浮かべた。
まだ影響は受けていないようで、私たちの船はカロザステーションの貨物スポットに収容された。
スポット内の与圧が完了すると、私はテレーザをお供に第三エアロックからステップを下り、待っていたステーションのスタッフに声をかけた。
「あの、本当に貨物船ですね。大丈夫ですか?」
挨拶もそこそこに、携帯端末を片手に持ったスタッフが訝しげに問いかけてきた。
「大丈夫だよ。そこらの船より頑丈だから。で、さっそく依頼料の話しなんだけど…」
私は笑い、自分の携帯端末をポケットから取り出した。
「はい、分かりました。危険手当も含んで…」
スタッフの携帯端末から送られてきた金額を見ると、そこそこで妥当だろうという感じだった。
「分かった、引き受けるよ。さっそく取りかかるけど、レーダーやらなにやらでサポートして欲しいな。こっちも使えるど、情報は多い方がいいから」
私はスタッフに向かって、笑みを浮かべた。
「はい、それは承知しています。では、よろしくお願いします」
なんとなく訝しそうにこちら見てから、スタッフが頷きスポットから出ていった。
「よし、やるよ。いつ、この港が使えなくなるか分からないからね」
私はテレーザと一緒に船内に戻り、エアロックを閉鎖した。
「しっかし、まさか魔物討伐とは…。前にやったの、いつだったかな」
操縦士席に腰を下ろして笑った。
「私の記憶が正しいなら、この会社設立すぐだぞ。仕事を探して流していたら、いきなりスライム退治だ。全く、こっちは貨物船だぞ」
テレーザが笑った。
「そういえば、そうだっけ。まあ、しばらくは、まともな輸送の仕事はなかったからね」
私は苦笑した。
各種大手やベテランの個人営業が揃う中、そこに飛び込むのは苦労すると覚悟していたが、なかなか実績が積めずに大変だった。
「まあ、いい。早く出よう。依頼主がイライラしているだろう」
テレーザが笑った。
準備を終えてカロザステーションのスポットから出ると、さっそくカロザ管制が捉えたレーダーや各種センサのデータが上がってきていて、それを処理はリンが処理して船の各ポジションに必要なものを送ってくれていた。
「さて、やりますか。まずは、砲手席っと」
私は船内コミュニケーターで、ここが要の砲手室を呼びだした。
『はい、準備は出来ています。ゴブリンたちはこちらを取り囲むように、群れを作って接近してきています。任せて下さい』
私がいう前に、シノが答えて笑みを浮かべた。
「分かった。頼んだよ!」
私は笑みを浮かべ、精密航法レーダーのウィンドウを虚空に浮かべ、さらに赤外線センサのウィンドウを開いた。
「まだ両方ともレンジ外か。ジルケ、どう?」
私は航法士席のジルケに声をかけた。
本来は索敵を目的に作られてはいないが、この船の目であるこれを有効に使わない手はなかった。
「はい、データを送ります。全て主砲の射程内です」
パウラと共にデータを検討してから、ジルケが答えてきた。
「分かった。十分にカロザステーションから離れてから攻撃するよ。リン、あとは任せた」
私は小さく息を吐いた。
これから先の精密操船は、人間では難しい。
決して、サボっているわけではない。
『はい、承りました。では、いきましょう』
リンが答え、船が小刻みに進路を変えながら進み始めた。
「主砲展開を確認したぞ。さて、やるか」
テレーザが笑った。
完全オートモードで進む船は程なく速力を落とし、ここぞとばかりに主砲が吠えた。
「うわ、凄いな」
ほとんど薄暗くなったままの正面スクリーンを見て、私は笑った。
「まあ、ほとんど使わないからな。いいストレス発散だろう」
テレーザが笑みを浮かべた。
目の前の精密航法レーダーには無数の反応があり、赤外線センサのウィンドウは高温を示す真っ白な表示で埋め尽くされていた。
「まあ、このまま上手くいくといいけど…おっ」
小さなアラームが鳴り、船外カメラ画面で確認すると、一連の猛射の中を掻い潜ってきた小さな群れがあったようだが、船に触れようとした瞬間、全て粉々になってかき消えた。
「さすが、ロジーナの結界魔法だね。この程度じゃビクともしないか」
私が声を上げると、ロジーナが小さく笑う声が聞こえた。
「さてと、サクサクいこう」
私は笑った。
結局、集まっていたゴブリンたちは四百体というなかなかの規模だったが、そのうち一番下っ端の通常ゴブリンは主砲の一撃であらかた片付いた。
しかし、その群れを指揮していた様子の上位種およそ百体は、この船が誇る強力な主砲の一撃を食らいながらも、しぶとく生き残っていた。
「なかなか頑張るね。数が多いから面倒か…。どうしたもんだ」
私は呟きながら、カーゴルームのモードを切り替えた。
操縦室内にアラームが鳴り響き、床下から気体が流れる音が聞こえた。
「おいおい、やるのか?」
テレーザが苦笑した。
「だって、せっかく生きているんだもん。もったいないじゃん」
私は笑って、減圧が済んで開閉可能になったカーゴベイを開いた。
「リン、可能な限り安全に捕獲して。市場に出せば高値が付くから」
私は笑った。
『かしこまりました。砲手席にスタンモードで攻撃するように指示を出します』
リンの声が聞こえ、私は背もたれに身を預けた。
スタンモードとは、ターゲットを麻痺をさせる事を目的とした攻撃だ。
軍用故に元々はシステムをダウンさせて、相手の船を拿捕するためにあるが、こういう使い方もある。
まあ、要は生き残ったゴブリンの上位種を捕獲しようというわけだ。
「さてと、今のうちに市場に連絡しておこう。ロジーナ、通信よろしく」
私は笑った。
コンマ数百秒という精度で、麻痺させたゴブリンの上位種を捕獲する作業など、到底人の反応速度で間に合うわけもないので、迷わずリンの出番となった。
宇宙と同じ環境に極力近づけたカーゴベイに、満足に動けずにバタバタしている百体近い大形の魔物を収め、私の魔法で全てを深い眠りに落とした時には、最初の攻撃開始から数時間経過していた。
「ふぅ、終わったね。さっそく市場に持ち込もう」
私は再び船を通常のオートモードで航行しながら、魔物の販売をしている市場に向かった。
こういうと、なにかアングラな空気が漂ってしまうが、市場は違法な事をしている訳ではない。
魔物を学術的に研究している人が持ち込まれた魔物を買ったり、捕まえた人が卸しにきたり…。まあ、扱っているものが魔物というだけで、ごく健全な場所だ。
「ったく、丁寧に全部摘み取ったな。魔物の破片だけで高値が付くのに、生きたまま百体も持ち込んだら、逆に高価過ぎて値段が付くか分からんぞ」
テレーザが苦笑した。
「いいじゃん。たまにはサプライズだよ。喜ぶ人は結構いると思うよ」 私は笑った。
その特殊性から魔物市場は一カ所しかなく、特に母星を持たない宇宙を漂う巨大なステーションだ。
「ジルケ、航路設定の確認をして。すぐに場所が変わるから、通信担当の二人と連携してね」
私は正面スクリーンを見ながら、呟くように指示を出した。
「はい、心得ています。あと、一時間くらいで到着すると思います」
航法レーダーを確認している様子のジルケが、カタカタとコンソールパネルのキーを叩きながら笑みを浮かべた。
「ローザ。市場は大騒ぎになっているみたいだよ。客が詰まって入場制限が掛かっているって!」
リズが大笑いした。
「まあ、そうだろうね。今日は大漁だ」
私は笑った。
ちなみに、捕まえた魔物はゴブリンの進化形で、最上位の『ゴブリン・ロード』だ。
ゴブリンの下っ端でさえ捕獲は難しいのに、ゴブリン・ロードとなると、一説には数百年に一度遭うかどうかというくらいに、とにかく珍しい。
それが百体となれば、その筋の人にはぶったまげる話しであろう。
「さて、どんな顔されるか楽しみだね。一応眠らせてはいるけど、なにかの拍子に起きちゃったら面倒だから、カーゴベイの監視だけはしっかりしようか」
私はカーゴベイの様子を映しているカメラの画像を見ながら、黒い表皮を持つ異形の姿を監視する事にした。
約一時間後、船は管制に誘導されるままに、巨大なステーションに接岸しようとしていた。
なお、ここは宇宙に生息する魔物を扱う場所柄、環境が著しく変わってしまうスポットではなく、アーム状の通路でドッキングする開放型の港だ。
オートモードのまま無事に指定されたドッキングスポットに接岸すると、市場から小型船が出てきてカーゴベイのハッチを開けるように指示がきたため、私はコンソールパネルのキーをいくつか叩いた。
「さて、どんな反応されるか楽しみだね」
私はいたずらっ子のような気持ちで笑い、市場からやってきた小型船が牽引装置で、次々とカーゴベイの中で眠っているゴブリン・ロードを引き出していった。
さっそく、私の携帯端末には、桁を間違えているんじゃないかと思う金額が提示されていたので、下手な交渉などしないで了承した。
「よし、終わったね。少しゆっくりしようか」
私は小さく笑み浮かべ、シートの背もたれを少し倒した。
「そうだな。せっかく寄ったんだ。市場の騒ぎを見にいってもバチは当たるまい」
隣のテレーザがチョコバーを囓りながら、心なしか楽しそうに笑った。
「いいよ。久々に市場にきたし、気疲れしちゃったから」
私は笑みを浮かべた。
「そりゃ疲れるよ。ゴブリン・ロードがカーゴベイで暴れだしたら、この船なんか簡単にぶっ壊すだろうしね。はぁ、これで責任は市場に移ったか」
私はアリスに返し、軽く目を閉じた。
まるで船の腹に爆弾を抱えて、ここまできたようなものだ。
それ相応に疲労していた。
「さてと、異常はないから、少し仮眠してからいくか」
私はテレーザに任せ、そっと目を閉じた。
テレーザに起こされて時計を見ると、ここに到着してから二時間ほど経過していた。
「おい、そろそろメインのゴブリン・ロードの競りが始まるらしい。本来は公開しないらしいが、モノがモノだけに事故対策もかねてきてくれだと」
テレーザが笑みを浮かべた。
「そっか、ありがとう。さて、いくか」
私はシートから立ちあがり、テレーザと共に操縦室を出て第三エアロック前に移動した。
壁のパネルにある画面には、与圧完了の文字と緑マークが表示されていて、エアロックの内扉開放ボタンを押すと、スライドして扉が開いた。
そのままエアロック内に入り外扉を開けると、市場へと伸びる通路があった。
「開放式なんて、ここ数年なかったね。久々だよ」
ゆっくり歩きながら、私は笑った。
「そうだな。スポットと違って、これはこれでいい」
テレーザが笑った。
そう時間も経たない間に通路を抜け、市場ステーション側のエアロックを抜けると、中は一目で研究者と分かる人でごった返していた。
「こりゃ盛況だね。今日の目玉商品は、いうまでもないか」
私は笑った。
「まあ、さすがに他はないだろうな。こっちだな」
テレーザが笑みを浮かべ、私たちは人混みをかき分けるようにして進み、商品のやり取りが行われている階から一つ上がった場所にある、扉に警備員が立つ関係者以外立ち入り禁止のスペースにある専用のブースに入った。
「さて、いくらがつくか…。私たちが受け取るわけじゃないし、あくまでも副業だけど気になるよね。まぁ、あれだけ射って限界だと思う、主砲の砲身を変える費用くらいは稼げたからいいか」
私は椅子に座り、笑みを浮かべた。
「まあ、いきなり大金持ちだな。史上希に見る規模のゴブリンだからだ。この船じゃなかったら、とても対処出来なかっただろう。パトロール隊のボロ船じゃこうはいかなかっただろうな」
テレーザが笑った。
実際、宇宙に生息する魔物と遭遇するだけでも希なのに、ここまでとなるとなにかの異常としかいいようがない、
「あっ、出てきた。
まるでスタジアムのような形になった、階下のステージのような場所に、壁に開けられた檻が運びみられ、ここまで歓声が聞こえる程の大騒ぎになった。
「そりゃ、熱くなるか」
私は笑った。
声は歓声にかき消されて聞こえず、値段を表示する画面もなかったが、かえってそれがいかに大金なのは明白だった。
「うむ、売れてよかったな。もう市場に売ってしまった後だから問題ないが、どうせなら高値がついて欲しいからな」
テレーザが笑った。
「まあ、私たちはあくまで副業だからね。そこそこっていうほどの大金だけど、ここでさらに高価になる。売れればいいけど」
私は笑みを浮かべた。
「そうだな、本来は『冒険者たち』の仕事だからな」
テレーザがチョコバーを囓って笑った。
そう、宇宙には旅を続け、己が道をゆく冒険者と呼ばれる連中がいる。
私たちも徐々にその方向に進みつつある自覚はあるが、私が叩き売りされていたこの船を買い取った理由の一つに、この目で宇宙をみてみたいという欲求があった事なので、これはそうなってしまっても無理はなかった。
「まあ、いいじゃん。あくまでも、荷物運びが本業だからね」 私は笑った。
「まぁな。さて、もういいだろう」
私は椅子から立ったテレーザの右腕を掴んだ。
「ン、どうした?」
テレーザが訝しそうに問いかけてきた。
「あのね。ここでゴブリン・ロードが暴れたら、私たちが対応しなきゃダメなんだから。だからここに入れてもらったんだよ。商品保管場にでも行くのが確実なんだけど、あそこはマジで入室禁止だから、流しの運送屋なんてさすがに許可は出来ないでしょ」
私は笑った。
「そうか、そうだったな。全く面倒な話しだ」
テレーザが椅子から立ち上がり、無料のウォーターサーバからお茶を紙コップに二つ入れてきた。
その片方を私の前にあるカウンターに置き、本人も隣に座って退屈そうに階下で行われている競りを眺めていた。
「お前の睡眠はドラゴンでも、十二時間は効くと聞いているぞ。自信がないのか?」
テレーザが笑った。
「まあ、そうなんだけど、ここまで最短航路できたにしても五時間かかったからね。搬入時に、もう一度麻痺させたついでに寝かしつけたけど、完全じゃないから」
私は小さく笑った。
「そうか。ならば売上金をもらっても、なにかあれば寝覚めが悪いからな」
テレーザが苦笑した。
「さて、百体もいるから、かなり長丁場になると思うよ。暇なら寝ちゃっていいから」
私は笑みを浮かべた。
「そうか、分かった。では、私は寝る。なにかあったら、たたき起こしてくれ」
テレーザは椅子の背もたれに預け、スヤスヤと寝息を立て始めた。
「いつでもどこでも寝付けて、いつでもどこでもたたき起こしても、寝起きはバッチリ。うらやましいよ」
私は苦笑した。
ゴブリン・ロードの競りは順調に進み、九十八体は無事に売れた。
残り二体となったその時、ガラス越しでも分かる雄叫びが聞こえ、拘束形魔法でガッチリ固めておいたはずのゴブリン・ロードが、檻の中で暴れはじめた。
「どうやら、魔法が消えたみたいだね。よし、出番だ!」
私は笑みを浮かべ、頑張れば五百メートル先に届く麻痺魔法と、同時に睡眠の魔法を使った。
白色の魔力光が問題のゴブリン・ロードを直撃し、気絶したところで市場関係者と思われるスーツ姿の人たちが、慌てた様子で檻を開けて魔力で、行動をコントロール出来る魔道具をつける様子が見えた。
「九十八体目でこれか。まだ出品されていないゴブリン・ロードが気になるね。もう、とっくに魔法は切れているだろうから」
私は苦笑した。
「分かった。まずは、確認してみよう」
椅子を立ったテレーザが、部屋の片隅の壁に取り付けてある電話の受話器を取った。
しばらく経って、戻ってきたテレーザが小さく笑った。
「確認したが、この騒ぎでまだ拘束しているゴブリン・ロードにも、同じ要領で拘束したらしい。さすがに、魔法までは使えないようだからな」
テレーザが苦笑した。
「やれやれ…。まあ、こんな事もあるだろうと、待機しておいてよかったよ。さて、残り二体だね」
私は笑みを浮かべた。
「また、なにか起きなければ出番はないだろう。一応監視しておくが、まあ、あと少しだな」
テレーザが笑った。
市場でのゴブリン・ロードは全て売れたが、これは私たちの財布には入らない。
ここに運びこんだ時点で、相応の手間賃や純粋な売り上げを加算させた金額を貰っている。
これで、主に船の修理代ではあるが、ずっと続いていたギリギリの資金運用も改善し、当座の心配はなかった。
「しっかし、宇宙で魔物に出遭うとはね。久々過ぎて、かえって楽しかったよ」
私は笑った。
船は市場を離れ、復旧作業が続いているであろうセントラルに向かった。
しばらく街道を進み、セントラルがに近くなると、コンソールパネル上にウィンドウが開き文字データで情報が入った。
『第一ターミナル復旧作業につき、当面の間閉鎖する。第二と第三、予備の第四ターミナルを使用して欲しい』
なんとなし、ロジーナを見ると、リズと二人で頷いた。
「変な情報じゃないよ。ちゃんとセントラル発のメッセージ!」
リズが笑った。
「そっか、ならいいや。寄らずにいくよ。ただ、様子を確認したかっただけ。転進するよ。ここじゃ邪魔だから」
私は笑みを浮かべた。
「さてと、次はどこに行くかね」
私はオートモードで航行する船を操る操縦桿を、握ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます