第27話 海

 一応、みんなで警戒をしながら夜を越え、早朝は大雨だった。

「これはちょっと危ないですね。むやみにここから動かない方がいいです。南の島なので、こういう天気はよくあります」

 犬のお姉さんが笑った。

 リズが結界で雨が入らないようにテント群を囲み、メリダたち厨房要員が船に積んでおいた食材を使って、朝ご飯の準備をはじめた。

「さて、今日は海賊退治に行こう。ついでに、お宝も頂戴して!」

 私は笑った。

「まあ、この辺りを通る船には脅威だろうからな。私は賛成だ」

 テレーザが笑みを浮かべた。

「私も賛成だしリズはいうまでもないよね。『デス・クラッシャー』だから!」

 私は笑った。

「なに、その二つ名。一般的に悪者とされる、『害虫駆除』をしていただけでしょ。文句をいわれる筋合いはない!」

 リズが笑った。

「分かりました。雨が止むのを待って行動しましょう。恐らく、かなり蒸し暑いと思いますよ」

 犬のお姉さんが笑った。

「あの、私は戦闘は得意ではありません。ルート案内だけですが私も参加します」

 ジルケが笑みを見せた。

「分かった。ここを空にするわけにはいかないから、あとのメンツはここで待機ね」

 私は笑った。

 というわけで、私たちは雨が収まるまで、テントで待機となった。


「天候がおかしいですね。まだ、雨が上がらないという珍しいです」

 大雨に濡れている結界の外を眺めながら、犬のお姉さんが小さく呟いた。

「そっか…。これじゃ、海賊退治に行けないね」

 私は苦笑した。

「いや、待て。悪天候こそ狙い時だと思うぞ。昼メシも食ったし、腹ごなしに暴れるか」 テレーザが笑った。

「攻めるなら絶好のチャンスですが、ガイドとしてはオススメ出来ないですよ。半ば遺棄された島ですから。もし行くのであれば、私も同行します。あとは、留守番組に任せて」

 犬のお姉さんが笑った。

「よし、決まったな。どの辺りから攻める?」

 ジルケがすかさずマップを広げ、私たちはそれを元にルートを探った。

「そうだな。なにかと邪魔になりそうな、一番近いここから落とそう。そのあとは島の外周を掃除していけばいい」

 テレーザが笑みを浮かべた。

「そうですね。この天候で山間の谷は危険なので、それが一番でしょう」

 犬のお姉さんが笑った。

「よし、決まりだな。さっそく支度しよう」

 テレーザが自分の空間ポケットから次々に『掃除道具』を取り出し、ニコニコしながら整備をはじめた。

 ちなみに、参加メンバーは犬のお姉さん、私、テレーザ、リズ、ジルケだ。

 ロジーナにはここに残って、留守番メンバーのまとめ役を頼んだ。

「さて…」

 私は空間ポケットからMP-5を取り出し、動作確認を行った。

 これは高価なサブマシンガンだが、精度がよく頼もしい相棒だ。

「ローザ、相変わらずそれか。たまには重火器を扱ってみろ」

 テレーザが笑った。

「私は拳銃弾で十分だよ。それ以上はテレーザの仕事でしょ!」

 私は笑った。

 ちなみに、サブマシンガンは拳銃弾を連射する武器である。

 威力はそこそこだが、屋内戦闘では小回りがきいて便利だった。

「まあ、そういう事だな。その方が安全だ」

 テレーザが笑った。

「はいはい、女傑ランボーには勝てないよ。端から分かってる」

 私は笑った。


 テント群を守る結界に少し穴を空けてもらい、私たちは海賊退治に出かけた。

 犬のお姉さんとジルケの話しでは、ここはさほど大きな島ではなく、一周するのに大した時間は掛からないそうだった。

 目的とした海賊のアジトは五つほどで、一番大きなものでも十七人くらい。建物は粗末なもので下手を踏まなければ、無傷で攻略出来るだろうと、犬のお姉さんがアドバイスをくれた。

 雨降る中しばらく進み、先頭を行く犬のお姉さんが身を低くして止まった。

「…あの掘っ立て小屋がアジトです。船舶を襲撃するための小形高速ボートが、全て揃っています。この天候で出られないのでしょう」

 犬のお姉さんが小声で呟いた。

「それは都合がいいな。よし、さっそく仕掛けよう。私がRPG-7で高速ボートをぶっ壊して、海に逃げる事が出来ないようにするから、あとはあのあばら家の中を大掃除だ。五分もかかるまい」

 テレーザが筒状の細長い武器を散りだし、先端にマヨネーズ容器のような形をした弾頭をセットした。

 RPG-7はどの星でもどこでも転がっているような安価な武器で、主に対戦車兵器として使われた結果、対戦車ロケットとして有名になったが、実は無反動砲の一種なので、様々な砲弾がある。

「よし、はじめよう。速い方がいいでしょ」

 私は笑みを浮かべた。

「異議なし!」

 リズがペロリと唇を舐めた。

「私はここで待機しています。その辺りに隠れていますので、終わったら戻ってきて下さい」

ジルケが笑った。

「分かった。それじゃ、みんな行くよ!」

 私はMP-5を手に、小さく笑みを浮かべた。


 打ち合わせ通り、まずはテレーザがRPG-7で繋留されていたボートを破壊した。

 それと同時に、私たちはあばら家に向かって突撃した。

「よし、ファイアボール!」

 リズが火球を撃ち出し、あばら家の屋根が爆裂して悲鳴が上がった。

「さて、狩りの時間だよ!」

 私は声を上げ、突然のことに慌てふためいた様子の海賊たちを、一斉に捕縛にかかった。

 いうことを聞かなさそうな三人ほどを銃で倒し、見る限り原型をとどめていない残骸から、捕縛した二十人を引きずりだし、これで一つアジトを潰した。

「よいよし。それじゃ、お宝あさりに行こうか!」

 私は笑いMP-5を構えた。

「やれやれ。これでは、どちらが賊か分からんな」

 テレーザは笑い、縄で縛った海賊を連れていった。

 アジトだったあばら家に入ると、さぞかし汗臭いだろうと思ったのだが、シャワーブースもあり、意外と清潔にはこだわっていた様子だった。

 捕縛した海賊をテレーザに預け、私たちはあばら家の中を探索して回った。

「あっ、なにかありますね。見てみましょう」

 いかにも金庫というものはなく、なんとなく大事そうに部屋にあった朽ちたチェストを犬のお姉さんが開けてくれた。

「結構金貨が入っていますね。あとは、美術品が数点です」

 犬のお姉さんが笑みを浮かべた。

「お金はそのままでいいけど、美術品は要鑑定かな」

 私はチェストに入っていた美術品を取りだし、一点ずつ床に置いて鑑定の魔法を使った。「…うーん、どれも模造品だね。デザインは悪くないし船に飾っておくか」

 私は笑った。

「ローザ、いいから全部持っていこう!」

 リズが笑った。


 私たちは大小五カ所あった海賊退治を終えてテントに戻ってきた。

 捕縛した海賊たちは四十人に及び、どうしたものかと思ったが、そこは抜かりなかったようで、犬のお姉さんが海上警備隊に無線で連絡して、生き残った海賊の身柄引き渡しの手配をしたようだった。

「海上警備隊の船が迎えにきます。海が荒れているので三十分程度掛かるそうですよ。隣の桟橋に船を付けられるので、問題はないでしょう。私は全員を連れて桟橋で待機していますが、出来ればお手伝いして頂けないしょうか」

 犬のお姉さんが縄を引っ張りながら、笑顔になった。

「それでは、私が行きます。普段は目立たないので」

 機関士チームのララが笑った。

「分かった。では、私も付き合おう」

 テレーザが笑った。

「分かった。怪我しないようにね」

 私は笑みを浮かべた。

 気が付けば雨は止み、雲の隙間から日が差し込みはじめていた。

「さてと、片付けないとね。テントは結界で保護されて濡れていないけど、寝袋とテントの中は湿気っているから…えっと」

 私は呪文を唱え、虹色に輝くボールを各テント内にばら撒いた。

「おっ、出たな」

 さすがに付き合いが長いだけあって、リズはこのボールがどんなものか分かっている。

 私は笑って、作業を続けた。

「あの、ローザ。これはなにをしているのですか?」

 近くにいたロジーナが、不思議そうに問いかけてきた。

「うん、これ私の得意技だよ。色々な効果があるボールなんだ。今は除湿だけど他に機能を追加出来るし使い手がいいよ」

 私は笑った。

 この虹色ボールは、他の魔法を研究していた時の副作用で生まれたものだ。

 自分自身でも道理が分からない不思議なもので、エアコン代わりに使えたり、衣服の洗濯乾燥も出来たり、なにかと重宝している。

「さてと、今日は出航できるかな。犬のお姉さんに聞いてみよう」

 私は笑った。


 医療チームの大形テントの片付けを手伝っていると、オレンジと赤いストライプも綺麗な白く塗られた船が入港してきて、私たちのプレジャーボートを繋留してしている隣の桟橋に接岸した。

「おっ、来たね。あとは、海賊どもを引き渡すだけだ」

 私は笑った。

 その作業には、テレーザとリズが当たり、犬のお姉さんが制服を着た海上警備となにやら話しをはじめ、ララは不測の事態に対する準備をしているようで、剣を抜きはしていないが、その手はグリップをしっかり握っていた。

 しばらくすると、海上警備の船が桟橋から離船していった。

「ローザ、終わったぞ。まだ波が高いが出港可能だそうだ。もうガイドの犬が出航準備をはじめている。急ごう」

 捉えた海賊たちの引き渡しが無事に終わったようで、桟橋から海上警備隊の船が出航していった。

「分かった。とりあえず、医療チームの大形テントを片付けるよ。手伝って!」

 私は笑みを浮かべた。


 一時間ほど経ってテントの撤収と片付けを済ませ、私たちは犬のお姉さんが出航準備中のプレジャーボートに向かった。

「あっ、準備できましたか。こちらは準備完了です。いつでも出港できます」

 船の甲板を掃除していた犬のお姉さんが、笑顔で声をかけてきた。

「うん、片付けは終わった。さっそく、乗るよ」

 私は元気よく答え、桟橋から船へとスロープ状になった板の上を通って、船内に乗り込んだ。

 こうして無事に全員船に乗り込むと、ちょうど犬のお姉さんが甲板磨きを終えたようで、ハシゴ状の階段を上り、ややあって船のエンジンがかかった。

『みなさん、船旅を再開します。嵐がなければ、綺麗な海です』

 船内放送で犬のお姉さんの声が聞こえ、船はゆっくりと離岸した。

 年季の入ったコンクリート製の消波ブロックの間を抜けて、船をが外洋に出ると大きなうねりで少々気持ち悪くなってきたが、私はまた虹色ボールを全員揃ったキャビンにばら撒いた。

「これで船酔い対策はバッチリだよ」

 私は笑った。

 船が島を離れてからしばらくすると、嵐で気が付かなかった幻想的な白い崖がある島の沖合を通ったり、海上に突き出た岩に穿たれた不思議なトンネルがある島があったり、ブルーの海と相まって素晴らしい景色が現れ、私は無条件に感動した。

 船がゆっくり海上を走っていると、まだ朝ごはんを済ませていないと思い出した。

「メリダ、簡単でいいから、軽く料理でいいから用意出来る?」

 私が声をかけると、メリダは笑顔を浮かべた。

「はい、待っていて下さい。ちょうど海上ですし、魚料理にしましょう」

 メリダが笑みを浮かべ、厨房要員を引き連れてキャビンから続くキッチンに入っていった。

「さて、昨日は荒れたけど今日はまだいいね。ゆっくりしよう」

 私は笑った。


『はい、これでおおよそ周りましたが、この船のレンタルは一泊二日と聞いています。今から戻れば夕方くらいには到着できますが、どうしますか?』

 朝ごはんが済んだ頃、船内放送で犬のお姉さんの声が聞こえた。

 私は携帯端末で、この船の予約状況を調べた。

 すると、この先ずっとこの船のレンタル予約で埋まっている事が分かった。

「そうだね。他のレンタル予約で一杯だし、素直に戻るしかないね」

 私は苦笑して、船内電話で犬のお姉さんに帰る旨を伝えた。

『分かりました。では、帰りましょう。うねりが高いので速度は出せませんが、その分ゆっくり出来ます』

 犬のお姉さんの声が笑った。

「船が揺れるからデッキには出られないけど、それはそれでなにか愉しもう」

 私は笑みを浮かべた。

「それもそうだな。私は暇つぶしにロジーナと格闘戦の練習をするか」

 テレーザが笑った。

「テレーザ、ここでは狭すぎです。というか、なぜここで格闘戦の練習ですか」

 ロジーナが笑った。

「そうか、残念だ。まっ、人生ゲームでもやるか」

 テレーザが笑った。


 大きなうねりで時々揺れる船のキャビンは、私が蒔いた虹色ボールの効果があったようで、誰も船酔いすることはなく、順調に帰路の海を進んでいた。

 私はキャビンのソファに座り、メリダたちが用意してくれた茶菓子と紅茶を楽しんでいた。

「はぁ、あっという間だね。嵐に遭ったけど、これも船旅だから面白いよ」

 私は呟いて笑った。

 いつも宇宙にいるので、こういう機会は滅多にない。

 このささやかな楽しみに、私は満足していた。

「うん、ローザ。一人で茶なんて寂しいだろう。そっちに行くから銃の整備をしろ。宇宙では滅多に撃つ事はないが、その滅多が起きた時に動作不良など最悪だからな」

 テレーザが笑って、私の隣に座った。

「それはそうだね。よし、分解整備しよう。よっと…」

 私はMP-5をテーブルに置き、クリーニングキットを空間ポケットから取りだした。

「えっと…」

 長く使っているので、それほど面倒とは思わない。

 マニュアル通りに銃を分解し、念入りに部品交換と清掃と注油を行い、再び銃を組み立てた時には、テレーザはすでに三丁目のアサルトライフルの整備に取りかかっていた。

「なんだ、さすがに速いな。私はあと一丁ある」

 テレーザが笑った。

「相変わらず、銃器が多いね。少しは魔法を覚えればいいのに」

 私は笑みを浮かべた。

「まあ、性に合わん。今使えるもので十分だからな。強いていうなら、お前の虹色ボールがあればいいとは思う程度だ」

 テレーザが笑った。

「教えてあげたいけど、これは多機能過ぎて難しいんだよ。他のものなら、教えられるけど。『浮遊』なんていいよ。使いようによっては便利だし」

 私は笑った。

「それは考えたが、色々難しくてな。じっくり教わればいいのだが、大変なんだろ?」

「そんな事はないよ。分かった、それが終わったら教えるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「ちょっと待て。今やるのか?」

 テレーザが焦った様子で仰け反った。

「善は急げってね。早く終わらせて!」

 私は笑った。


「はい、出来た。ねっ、思ったより簡単でしょ?」

 私は笑った。

 最初はなにやら力んでいかにもキツそうな顔をしていたテレーザだったが、一時間も経たないうちに平気な顔で宙を浮いて移動出来るようになった。

「ほら、慣れると楽しいでしょ?」

「ああ、これなら重たい装備を持ち歩くのに楽だな。いいことを教わった。ありがとう」

 私の問いに、テレーザが笑った。

 船窓は夕暮れに赤く染まり、これもなかなかなか良かった。

『海の様子が落ち着いてきました。あと二時間ほどで港に到着予定です。デッキに出ても問題ないとは思いますが、その際は念のため救命胴衣を身につけて下さい』

 船内放送で、犬のお姉さんの声が聞こえた。

「よし、あと二時間。私はデッキに出るよ」

 私は笑って、キャビンの荷物入れに入っていた紅い救命胴衣を身につけ、キャビンからデッキに出た。

 やや肌寒かったが、水平線に赤い太陽が沈んで行く様子は、なかなか見ることがない貴重なものだった。

「たまには海を満喫するのもいいね。あと二時間だと陽が落ちてからか。このままここにいようかな」

 私は一人笑った。

「ローザ、ここにいましたか」

 救命胴衣を身につけたロジーナが、笑顔で私に声をかけてきた。

「うん。まあ、暇だしね。そうだ、ここはなにもない海上だよ。久々にやる?」

 私は笑った。

「はい、いいですよ。では、やりましょう」

 ロジーナが笑い、私と一緒に船尾に移動した。

「いくよ、今日は二で試そう」

 私は笑った。

「分かりました。今回は派手ですね」

 ロジーナが笑い、さっそく呪文を唱えはじめた。

 それから、ロジーナの唱える呪文の節に合わせて、私も呪文を唱えはじめた。

 程なく私とロジーナの呪文が重なり、二人合わせて前方に生まれた強烈な光を放つ、巨大な光球が現れて水平線の彼方に飛んでいき、ど派手な爆光がここまで見えた。

「うん、絶好調だね!」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、バッチリです」

 ロジーナが笑った。

 これは、一人では使えない合成魔法というものだ。

 威力はなかなかだが、それぞれの意思疎通が出来ていないと術が成立せず、魔力の無駄遣いになってしまう。

 私とロジーナはそういう機会があれば練習しているので、お互いの癖はよく分かっていた。

「よし、あとは景色を楽しもう。どうなるかと思ったけど、海賊退治がメインイベントだったね」

 私は笑った。

「はい。そこそこの稼ぎになりましたし、あの島周辺の安全も確保出来た。いい事です」

 ロジーナが笑みを浮かべた。

「そうだね。さて、のんびりしようか」

 私は笑みを浮かべた。


 二時間ちょとで船は港に到着した。

 沖合では肌寒いくらいだったが、陸地に近づくに連れて気温が上がり、私は相変わらず蒸し暑さにげんなりしていた。

「みなさん、お疲れ様でした。以上が今回の仕事になります。お暇があれば、またお願いします」

 船から降りた桟橋の上で、犬のお姉さんが笑った。

「うん。ここにきたら、またお願いするよ」

 私は笑みを浮かべ、そっと白い封筒を犬のお姉さんに手渡した。

「あれ、これはなんですか?」

 犬のお姉さんが不思議そうな顔をした。

「チップだよ。少ないけど受け取って!」

 私は笑った。

「そんな、私は大した事はしていません。受け取れません」

 犬のお姉さんが慌てた様子で、封筒を私に向かって返してきた。

「この星では契約以上の料金を頂くと、二度とその人に会えないといわれています。私はまたお会いしたいので、これはお返しします」

 犬のお姉さんが笑った。

「まあ、そういう事なら気持ちだけ。本当に助かったよ」

 私は封筒を受け取って鞄に戻し、握手を求めた。

「はい、お疲れさまでした」

「あっ、ありがとうございました」

 犬のお姉さんが私の握手に応えてくれた。

「では、私は船の細かい掃除などをして、レンタル会社に引き渡しますね」

 犬のお姉さんが笑って船に戻り、私たちは桟橋から陸地に戻った。

「テレーザ、このあとはどうするの?」

 私は陽が落ちて港の照明が照らす中、私はテレーザに聞いた。

「うん、もうホテルの迎えを呼んである。五分も掛からずバスが到着するだろう。予定では、明日の昼にはチェックアウトだ。今夜は休もう」

 テレーザが笑みを浮かべた。

「分かった。十分羽を伸ばしたから、バリバリ仕事しないとね」

 私は笑ったのだった。

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