第22話 救助完了
アランジの事実上崩壊に関連して、なんとかギリギリ救助に成功したおよそ二万人を乗せ、まるで最後の意地のように作動したステーションからの牽引システムによって、私たちの船は無事に出港した。
暴れ続けているドラゴンはパトロール隊の大艦隊に任せ、船は急いでアランジから距離をおいた。
これで、万一アランジが爆発しても、巻き込まれずに済む。
「おい、のっけたヤツらにメシでも配ったらどうだ。これで腹が減っていたら、かなりしんどいぞ」
テレーザが笑みを浮かべた。
「それは、言われなくてもメリダがやってると思うよ」
私は小さく笑い、コミュニケーターで厨房を呼びだした。
『はい、今は忙しいので手短にお願いします!』
メリダが血走った目で応答してきた。
「分かってる。大変だろうけど、二万人分よろしく!」
私はコミュニケーターを切って、小さく笑った。
「ねっ、分かってたでしょ。多分、アランジがヤバいって知った時に、すでに調理をはじめていたと思うよ」
私は笑みを浮かべた。
「なるほどな。それを誰が配るんだ?」
「滅多に使わないからど忘れしてるでしょ。あの座席には、ここと同じ料理用のスリットがある。それで配膳するんだよ。サービス要員なんて乗せてないからね。リズ、鍛えげられたプロフェッショナルなアナウンスで、料理を配るってお客さんに伝えて!」
私は笑った。
「ちょっと、そういうのあたしに振らないでよ!」
リズが笑い、インカムの設定を変えたようで、まさに鍛え上げたパーフェクトなアナウンスをした。
「まあ、こんなもんだ!」
リズが笑った。
「お見事。一ついうなら、この船はナンナケット号じゃないよ!」
私とテレーザどころか、操縦席全員が爆笑した。
「あっ…」
リズが慌て訂正のアナウンスをはじめた。
「…この船の名前なんだっけ?」
「…ジュノー」
小声で聞いてきたリズに私はそっと答えた。
リズが訂正のアナウンスを終え、小さく笑った。
「だから、やりたくないんだよ。癖ってなかなか抜けないから!」
リズが苦笑した。
「まあ、いいや。目的地を決めないとね。どっかのリゾートでもないと、これだけの人数を降ろせないな。どこか適当な星を考えよう」
私は笑みを浮かべた。
乗せている皆さんを早く降ろして楽に休んでもらおうと、私やテレーザ、ジルケとパウラで頭を悩ませていると、ロジーナと交代して通信席に座ったリズが、どこかと通信しはじめた。
「おーい、ナオキシから受け入れ可能って、向こうからいってきたぞ。少しボロいけど、ホテルを、アランジの運営会社が丸々貸し切ったって連絡がきた。アランジはあれ以上の被害は出なかったらしいけど、直すのに時間が掛かるって!」
リズが笑った。
「ナオキシか、悪くないね。きっと、みんな固まった神経が緩むよ。海でも眺めながらね!」
私は笑い、ジルケにルートを作るように指示を出した。
ナオキシは常夏でリゾート施設が多くある、お金持ち御用達の休暇スポットだ。
「あんな高い場所のホテルを、よく貸し切ったな。まあ、当面は中心部として使う腹だろう。贅沢しやがって」
テレーザが笑った。
「よし、行き先が決まったね。ジルケのルート設定待ちだ」
私は笑った。
「はい、お任せ下さい。最短コースを探しています。お金持ち御用達の星だけに、プライベートシップが多いので、かなり混雑するんです。その抜け道を探しているのですが、そちらもなかなか混んでいて…」
ジルケとうたた寝していたパウラがタッグを組んで、色々探ってみた結果が、普通に幹線をいく…だった。
「まあ、余計な事しない方がいいか。渋滞に揉まれるか」
私は笑った。
メリダからコミュニケーターで連絡があり、乗客全員分の食事を提供し終えたと連絡があった。
「お疲れさま!」
私は笑みを浮かべた。
『いえいえ、大変でしたが大丈夫です。こちらの食事は、焼きうどんでいですか。食材も体力も限界で…』
メリダが苦笑した。
「なんでもいいよ。少し休んで」
私は笑みを浮かべた。
『では、できたら送ります。はぁ…』
この上なく料理好きのメリダすら、かなり体力を消耗したようで、半ば放心状態でコミュニケーターの通話を切った。
「ほれ、腹が減ると機嫌が悪くなるからな」
隣のテレーザがチョコバーを放ってきた。
「うん、よく分かってるね」
私はそれを受け取り、テレーザと仲良く囓りはじめた。
船はジルケが設定した航路348を、順調に進んでいった。
程なくナオキシへ続く航路785に入った途端、先が見えない大渋滞にハマった。
「あーあ、これだから金持ちは…」
私は苦笑した。
もちろん、星ごとに時間が異なり季節も様々なので、現地時刻と宇宙標準時があるのだが、現地の人は現地時間で動くわけで…。まあ、要するにナオキシに向かう人たちは、時間が自由になる大企業の経営者や、引退して老後を優雅に生きている人が多く、私たちのような大型貨物船はあまり馴染んでいなかった。
まあ、物資搬入用の貨物ルートもあるらしいが、そちらは貨物専用なので、旅客船扱いの今回は使わせてもらえなかった。
「寝るなら今だよ。少し仮眠を…」
私が半分いいかけた時、スリットから香ばしい香り漂う焼きうどんが出てきた。
「訂正、食ったら仮眠!」
私は笑った。
一つ聞く。焼きうどんは醤油かソースか…。どう?
まあ、そんな感じで操縦室内は、賑やかになっていた。
渋滞の行く末をジルケに聞くと、ナオキシのステーションまで繋がっているようで、今は第二ターミナルに誘導中らしい。
まあ、プライベートシップを持っているお金持ちさんは、自分のスポットを持っているのがほとんどで、そういう船は混雑を避けて最優先の0番ターミナルに誘導されるらしい。
「もう、第二でも第三でもいいから、早くしないとお客さんがかわいそうだよ。暇つぶしの映画とかゲームにも、いい加減飽きただろうし」
私は苦笑した。
「まあ、急ぎたいのは山々なんだが、管制がOKを出さないと進めないからな」
テレーザがチョコバーを囓り、シートの背もたれを一杯に倒して、簡易ベッド状態にした。
「ちょっと寝る。なにかあったら起こせ」
いうが早く、テレーザは寝息を立てはじめた。
「ホント、アホみたいに寝付きがいいね。羨ましいよ」
私は笑った。
まあ、渋滞でなかなか進めないので私まで眠くなってしまったが、居眠りは堪えて正面スクリーンを見つめた。
星空以外なにも見えないが、これは衝突しないためのマージンだ。
もし衝突したらシャレにならないので、これは当然の事だった。
「おーい、これからパトロール隊から先導するから、ついてこいって!」
リズが笑った。
「おっ、サービスいいね。助かった!」
しばらくして、コンソールパネルにある赤いランプが点滅した。
『船籍コード、登録と一致しました。パトロール隊の駆逐艦ガブリエルです』
ユイの声が聞こえた。
「分かった、許可して」
赤ランプ点滅は他船からの操作許可待ちで、点灯に変わればあとはなにもしないで、向こうで勝手に操作してくれる。
「駆逐艦ガブリエルより、よろしく頼むって!」
リズが笑った。
「こちらこそって、返しておいて」
私は笑った。
『注意:本船より緊急警報が発信されています。前をいくガブリエルも緊急警報を放っています。これから、この渋滞を一気に抜けるつもりでしょう』
ユイが小さく笑った。
「こりゃいい。パトロール隊も、もう少し早く動いて欲しかったな」
私は笑みを浮かべた。
駆逐艦ガブリエルに先導されて、私たちの船は無事にナオキシのステーションに到着し、第三ターミナルに誘導された。
スポットに入り与圧が完了したところで、私はカーゴベイを全開にして座席底面をプラットホームのようになっている場所に下ろした。
「お待たせしました。一時寄港地としてナオキシに到着しました。これから皆さんをホテルまでご案内します。詳細な情報は、アランジの職員が乗船していますので、それに従って下さい」
私は船内放送を終え、小さく息を吐いた。
「こら、起こせといっただろう。なんで、いきなりスポットにいるんだ?」
テレーザが背もたれを元に戻し、眠そうに目を擦った。
「パトロール隊が渋滞をかき分けて先導してくれたよ。今は客を降ろしているところだよ」
私は笑った。
「この、オイシイところを。それで、いきなりここにいるのか。私たちはどうするんだ?」
テレーザが笑みを浮かべた。
「もちろん、すぐに帰るよ。アランジが払ってくれたのは、ちょっとした謝礼とここまでの運賃、最低限のスポット使用料だけだもん。普通ならここのスポット使用代なんか、とても払えないよ。だから、速攻どっかにいく!」
私は笑った。
「そうか、一回でいいから、金持ちリゾートやりたいものだな」
テレーザが笑った。
「そのうち、ここに別荘でも買ったらね。そんな身分になってみたいもんだ」
まあ、こんな雑談しているうちに、ユイがモニターしていたようで、空になった客席パレットを一枚ずつ格納していき、最後の一枚をしまうと、カーゴベイの頑丈な外扉が閉まった。
『確認しました。全ての客席を確認し、カーゴベイの扉を閉鎖。いつでも出られます』
ユイの声が聞こえ、私はリズに管制から出港許可を求めるように指示した。
「おーい、混んでるからちょっと待ってだって!」
リズが笑みを浮かべた。
「そっか、まあこれでスポット使用料は打ち切りになったから、好きなだけ待たせろ」
私は笑った。
「そうだな。まあ、気長に待とう。しっかし、混んでる港だな」
テレーザが笑った。
ただ待っているのも暇なので、私たちは次の行き先を考えた。
「まあ、アランジがダメになってしまったからな。逆に田舎でもいくか。小さなステーションくらいあるだろう」
テレーザが笑みを浮かべた。
「田舎ねぇ…。確かにあるだろうけど、今度は多すぎてどこがいいか分からないな」
私は小さく息を吐いた。
「そうだな…。ジルケ、どこか知らないか?」
テレーザがジルケに問いかけた。
「そうですね…。アラザンなら中規模な貨物ステーションがありますし、なにかあるかもしれません」
ジルケが笑みを浮かべた。
「よし、決めた。アラザンにしよう!」
私はさっそく携帯端末で、アザランの現在状況を確認した。
「なるほど、みんなブラックバーンの仕事に出ているから、船がこなくて困っているみたいだよ。こういうのこそ、私たちの仕事だよ」
私は笑みを浮かべた。
「そうだな…。とりあえず、安い仕事を一つ受けた。それ次第だな」
テレーザが携帯端末を弄りながら呟いた。
「そうだね、まずは様子見しないと。変な荷主じゃなきゃいいけど」
私は笑った。
宇宙標準時で三時間ほど待たされ、私たちは出港した。
混雑している船の合間を抜けて、私たちは再び航路に戻った。
「航路263をそのまま直進して、ポイント98で取り舵一杯です」
すでにルートを入力してあるが、口に出さないとチェックできないと、日々ジルケが言っている通り、声に合わせるように船は設定ルートを進んでいた。
セントラルからの避難者を乗せていた時は緊張していたのだが、やっと解放されてホッとしていた。
目的地のアラザンまでは、今の速力なら一時間弱。
急ぐ必要もないので、サブエンジンだけ作動させて、空いている航路をマッタリと進んでいた。
「ロジーナ、アラザンの管制にコンタクトできる。通信可能圏内のはずだけど…」
私がリズと交代して、通信をしていたにロジーナに声をかけた。
「はい、交信中です。感謝されていますよ」
ロジーナが笑った。
「まあ、船がこなくちゃ運べないしね。あっ、アラザンっていえば確か今は夏だよ。海で遊ぼう」
私は笑った。
「そうだな。このところ海水浴をしてないな。ナオキシは金持ちのプライベートビーチばかりでは論外だが、こっちの海は空いている。どっかのホテルに泊まって、三日くらい遊ぶか」
テレーザが笑った。
「そうだね。高級ホテルとはいかないけど、普通に泊まれる宿を予約しておこうか」
私は笑みを浮かべた。
「分かった、それは私がやっておこう」
テレーザが携帯端末を弄りはじめた。
「この前休暇を取ったばかりだけど、目的地が仕事場ならついでって感じでいいね」
私は笑った。
「そうだな。よし、港から近い適当な宿を取ったぞ。地上に下りれば、歩きでいける場所だ」
テレーザが笑みを浮かべた。
「いいね、楽しみだよ!」
私は笑ったのだった。
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