第23話 海へ行こう!

 テレーザが受けた依頼は、アラザンからほど近いヂリヂゲという星まで、海産物を運ぶ仕事だった。

 特に支障なくその仕事を終えた私たちは、アラザンに戻るとテレーザが手配してくれた地上のホテルを目指して、空いているアラザンステーションから軌道エレベータに乗った。

十分かそこらで地上に到着した私たちは、炎天下の中ホテルに歩いて向かった。

「はぁ、暑い。さすが真夏だ…」

 リズがぼやいた。

「これがいいんだよ。この暑さが!」

 私は笑った。

 ちなみに、今回の参加者は全員だ。

 なにしろ人数が多いため、テレーザはリゾートホテルではなく、そこそこのビジネスホテルを貸し切りにしたらしたしい。

 それでも、リゾートホテルよりも格安との事だった。

「うん、ここだ」

 テレーザが足を止めたのは、少し疲れた感のあるビジネスホテルだった。

「へぇ、海は近いの?」

 私はテレーザに問いかけた。

「車で五分くらいだと聞いている。行く時にフロントに声をかければ、送迎バスを出してくれるそうだ」

 テレーザが笑った。

「そうなんだ。海にいくなら、まとめて行かないと申し訳ないね」

 私は笑みを浮かべた。

「まぁな。よし、暑いし早く入ろう」

 テレーザが笑った。


 自動扉が開いてホテルに入ると、貸し切りなので人はおらず、自動で掃除をしている金色のロボットが二台あるだけ。

 エアコンが効いていて涼しいが、ロビーはちょっと寂しい感じだった。

 私たちがチェックインカウンターに向かうと、スーツ姿の従業員が笑顔で立っていた。

「いらっしゃいませ。ご予約の方でしょうか?」

「うん、『ローザと素敵な仲間たち』だぞ。貸し切ったはずだ」

 テレーザが答えた。

「はい、承っております。ようこそ。全部屋の鍵は開けてあります」

 カウンターのお兄さんがカードキーの山をカウンターの上に乗せた。

「さて、ローザ。どう配分する?」

 テレーザが問いかけてきた。

「そうだね…。ビジホなんて久しぶりだから、忘れちゃったな。一人部屋ばかりだった気がする」

 私は苦笑した。

「おう、悩んでいるみてぇだな。俺はここの掃除を任されている。最上階の海よりがオススメだぜ!」

 いきなりでちょっと驚いたが、優しそうな掃除のお兄さんは、笑みを浮かべてから階段の掃除をはじめた。

「そっか、最上階ね…。よし、人数がいるしここの部屋を好きに見回って、お気に入りの部屋を確保してね。早い者勝ちだよ!」

 私は笑った。


 みんながホテル中に散り、私は残った部屋でいいやと、カウンターのところに鍵を取りにきたメンツに、部屋番号が書かれたカードを手渡していった。

「よし、これで全員に配ったね。私の部屋は…最上階か。805っと…」

 私はエレベータに乗って、最上階の八階ボタンを押した。

 ほどなくエレベータは八階に到着し、私は廊下を歩いていった。

 部屋の前に到着すると、自動的に扉がスライドして開いた。

「全部屋の鍵をかけてないっていうのは本当だ。終わったら残りを返却しないと、不用心だからね」

 私は小さく笑って、室内に入った。

「へぇ、気を遣って空けておいてくれたか。多分、一番いい部屋だ」

 私は笑みを浮かべ、室内に入った。

 オーシャンビューというにはちょっと海から距離があったが、十分にいい感じの景色だった。

「部屋はシングルだけど、変な圧迫感はないし気に入ったよ」

 私は笑みを浮かべ、持ち込んだ鞄を床に置いた。

「さてと、これからどうするかな…」

 コミュニケーターでテレーザを呼び出してみた。

『なんだ、どうした?』

 部屋で荷物を片付けていた様子のテレーザが、素っ気なく貸してきた。

「いや、やる事ないなって思ったから」

『そうか。それじゃ、晩メシはバーベキューでもするか。今から頼めば、このホテルの前庭を使って出来るらしい。町から遠いから、食材も用意してくれるみたいだぞ』

「分かった。その手配をよろしく」

『よし、それでは早速フロントに連絡しよう』

 コミュニケータの接続を切り、私はベッドに寝転がった。

 しばらして、カコンとかすかに音が聞こえ、扉の下にあるスリットが開き、黄色に赤白模様のテープが張られた二台の掃除ロボットが入ってきて、オルゴール音を出しながら部屋を隈なく周り、そのまま部屋から自動的に扉に設けられたスリットから出ていった。

「へぇ、よく出来ているね。掃除がまだ終わっていないという事は、この部屋は滅多に使われないのかな」

 私は笑った。


 結局、夕方までダラダラ過ごし夜が近くなると、コミュニケータの呼び出し音がなった。

 応答ボタンを押すと、テレーザの顔が虚空に開いたウィンドウに表示された。

「おっ、どうしたの?」

 私は笑みを浮かべた。

『バーベキューの準備が出来たぞ。早く降りてこい』

「分かった、すぐにいく」

 私はベッドから下りた。

 部屋から出ると、こちらも部屋で暇していたらしく、カボが金色のカボチャのような形をしたオブシェを磨きながら、部屋から出てきた。

「なにそれ?」

「はい、先ほどステーションで見かけて買ったものです。金メッキなので軽いし安いしで、いい感じですよ」

なにがいいのか分からなかったが、趣味は大事と私は笑みを浮かべた。

「よし、それじゃ行こうか」

 私は笑った。

 二人でエレベータに乗って一階に下り、ホテルの外に出るともう始まっているらしく、前庭からいい匂いが漂っていていた。

「ローザ、もうはじめている。挨拶でもするか?」

 テレーザが笑った。

「そんなものいらん。好きに気楽にね」

 私は笑った。

 時は夕暮れ、ここまで届く海の匂いが心地いい。

 そんな中で、楽しい時間は流れていった。

「さて、食材もほとんどなくなったね。ロジーナのスモークチーズ待ちか…」

 私は笑った。

「うん、私は余った食材で焼きそばでも作ろう」

 テレーザが笑い、野外コンロに向かっていった。

「こっちの気候では夏か。夕涼みにはちょうどいいね」

 私は独り言ちて笑みを浮かべた。


 バーベキューも終わり後片付けをしていると、ホテルのお兄さんがやってきた。

「片付けはこちらで。みなさんはゆっくりお休み下さい」

 ランタンの光が照らす薄暗い中で、お兄さんが笑みを浮かべた。

「あっ、よろしくお願いします」

 私は笑みを浮かべた。

 みんなでホテルの建物に入ると、掃除のお礼というわけではないが、ロビーに併設しているカフェでデザートとお茶を楽しむ事にした。

「ビジホにしては、なかなか気が利くな。一休みにはちょうどいい」

 テレーザが笑った。

「そうだね。珍しいよ」

 私は笑った。

 貸し切りではあったがそれは宿泊のみで、ここは自由に開放されているので、近所の人たちで結構混み合っていた。

「それで、明日は海だろ。なにをするか決めているのか?」

「うん、大体は。とりあえず、プレジャーボートを手配しているよ。船上パーティでもやろうかなって」

 私は笑った。

「うん、お前は免許を持っているしな。しかし、私も持っている。操船はさせない」

 テレーザが笑った。

「な、なんで!?」

「お前の操船では、胃に穴が空くからな。センスはあるんだが理性がない。ヤバいぞ」

 テレーザが笑った。

「あ、あのね…」

 私はわざとふくれっ面で、ケーキにフォークを刺した。

「そんな顔してもダメだからな。お前はルートを考えろ」

 テレーザが笑った。


 プレジャーボートとは、簡単にいえば遊びに使う船の事だ。

 当然、普段使わないのでレンタルしたが、この辺りは穏やかな海と聞いているので、どでなにをやろうか考えてみた。

「私の独断だけじゃいけないけど、釣りくらいかな。あとは、船上パーティか。キッチンもあるから、普段みないメリダの腕が楽しみだね」

 私は笑った。

「テレーザ、なにしたい?」

 私はノートに書いた、やりたい事を書いたメモ用紙をテレーザにみせた。

「そうだな。どこかの島で花火でもやりたいな。全員に聞いてくる」

 テレーザが紙を持って、それぞれの席に向かっていった。

 しばらく経って戻ってくると、リストにダイビングが加わっていたが、ライセンスを持っているのは、リズとリナくらいだったので、これは除外した。

「まあ、メインは船上パーティだね。メリダが喜ぶから」

 私は笑みを浮かべた。

「そうだな。無理に遊ぶ事もない。のんびりクルージングも悪くない」

 テレーザが笑った。


 時刻はだいぶ進み、そろそろ店じまいというカフェをあとにして、私たちは自分の部屋に戻った。

 八階の自室に入ると窓の外を見ると、距離はあったが漁り火がぽつぽつ見え、静かな夜が暗幕を下ろしていた。

「まあ、明日は船か。普段から船を飛ばしてるけど、こういうのもいいね」

 私は独り言ちて小さく笑った。

「さて、今日は寝るかな…」

 特にやる事もなかったため、私はそうそうに寝ようと思い、シャワーを浴びた。

 上がってタオルで体を拭いていると、カタンと音がして掃除ロボットが作動音を立てながら入ってきて、部屋を掃除していって帰っていった。

「あれ便利なんだよね。船に導入しようかな」

 私は笑った。

「さて、明日は早起きしないと。寝ますか」

 私は寝間着に着替え、シングルルームにしては、少し広いベッドに横になった。

「さて、海の船は久しぶりだし、楽しみだね!」

 私は小さく笑ったのだった。

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