第18話 休暇のち仕事

 大荒れの天候が通り過ぎ、翌日からみんなは好きに遊びはじめた。

 アスレチックもやったし、テレーザの要望で森の中でペイント弾を使った模擬戦もやり、最終的にテレーザとロジーナの殴り合いで決着がついたが、お遊びがマジになってしまった時は焦った。

 ともあれ、普段と違う事存分に味わい、私は一息吐いた。

「よしよし、あれからトラブルはなしか」

 私は笑った。

「ったく、エルフが悪いのかあたしたちが悪いのか、どうも嫌な感じだけどもっちにしても平和に過ごしたかったねぇ」

 テラスに置いたベンチに座り、どこまでも広がる森林を長めながら、私はリズと一緒に休暇最後の朝日を浴びていた。

 そう、特に問題なく一週間の休みももう終わり、既知宇宙標準時で十五時にはチェックアウトしなければならない。

 まあ、それでも十分楽しめたので、文句はなかった。

「みんなはまだログハウスの中だね。まだ早い時間だし、ゆっくりしよう」

 私はベンチの背もたれに寄りかかった。

「そうだね。私はもう一度寝るかな。時間がもったいない気がするけど、ゆったり過ごすのもまた休暇だからね!」

 リズがログハウスに戻り、私は一人で日光浴を続けた。


 時計が進んで二時間後。メリダが起きだして朝ご飯を作りはじめた。

「ごめんさい。遅くなってしまいました」

「ん、私が早すぎただけだよ。気にしないで」

 私は笑った。

 それから数十分後、まるで申し合わせたようにみんなが起きだし、賑やかな朝ごはんになった。

「さて、今日は船に戻るよ。休みぼけしないでね」

 私は笑った。

「それはお前だ。一番ボケそうだからな」

 テレーザが笑った。

「あのね…。まあ、いいけど。今日は遊びは程々にして、ちゃんと帰る準備してね」

 私は笑みを浮かべた。

「分かっています。今日はノンビリする予定です。みんなも同じでしょう」

 ロジーナが笑みを浮かべた。

「まあ、今さらアクティビティもないでしょ。私もゆっくりだよ!」

 リナが笑った。

「よし、それじゃ最後の自由行動ね。お昼までには戻って!」

 私は笑った。


 チェックアウトの時間になり、私たちは宿から出て送迎バスに乗り込んだ。

 ここにきた時と同様、バスは三十分程度で軌道エレベータの乗降場に到着した。

 運転手さんに礼を述べてバスから下りると、私たちはさっそく軌道エレベータの改札口へと向かった。

「よし、みんなリラックスできた?」

 私が問いかけると、みんなは笑みを返してきた。

「よしよし。まあ、アクシデントもあったけど、それはそれで楽しかったからよしとしよう」

 私は笑った。

「そうだな。私も久々に野生に返れたから良かった」

 テレーザが笑った。

「野生の健康優良児だもんね。ストレス発散できたようで良かったよ!」

 私は笑みを浮かべた。

 軌道エレベータはきた時と同様にたっぷり時間をかけて、数多くのスポットが並ぶ港のフロアに到着した。

「ここも懐かしい気がするね。遊んだ証拠だ!」

 私は笑った。

「三十一番スポットだったよね。カートで移動しよう」

 私は広大なフロアを走るカートに分乗して、三十一番スポットに移動した。

 十数分で到着した三十一番スポット前でカートを降り、壁のボタンを押して耐圧密閉扉を開け、私たちは中に入った。

 そこには見慣れたピンクに白玉模様の船体をみせる、ジュノーの姿があった。

「よしよし、なにもなさそうだね。ユイ、聞いてる!」

 私はコミュニケーターでユイを呼び出し、声をかけた。

『はい、おかえりなさい。乗船の準備をします。しばらくお待ち下さい』

 ユイの声と同時に各所のエアロックの扉が開いてステップが下ろされ。操縦室メンバー以外は、ちょうどよく止まっていたスポットのトラムに乗って、船体後方へと向かっていった。

「それじゃ、乗ろうか」

 私、テレーザ、ジルケ、パウラの四人は、ステップを上って久々に船内に乗り込んだ。

「ユイ、みんなが乗船したら教えて!」

『承知しました。もう少しかかります』

 ユイの答えに満足して、私はコンソールのキーを叩いた。

「システム、スタンバイからアクティブへ」

 私の声でテレーザがコンソールのキーを叩き、甲高いルーンジェネレータ特有の音と同時に船体が微振動した。

「システム、アクティブ。異常なし」

 久々にチョコバーを囓りながら、テレーザが笑った。

「ユイ、最終チェック」

『はい、実行中です。今のところ、異常はありません』

 ユイの声と共に、正面スクリーンに外部の様子が映し出された。

 最終チェックは、ユイがどれだけ急いでも三十分程度は時間がかかる。

 その間、私はスポット使用料の支払い手続きを済ませた。

「ここ使用料が高いんだよね。まあ、リゾート客が多い星だから、観光地価格なんだけど」

 私は苦笑した。

「さて、次はどこに向かいますか?」

 ジルケが小さく笑い、問いかけてきた。

「そうだねぇ。散財したあとだから、真面目に仕事しますか。ユイ、なにかアテはある?」

 私は携帯端末を弄りながら、ユイに声をかけてみた。

『いえ、スタンバイモード中に色々と情報収集してみましたが、これといった仕事の情報はありません。ただ、頻繁に『ブラックバーン』という荷主の依頼が増えているようです。仕事が多いのはいいのですが、どうもきな臭い感じがしますので、あえて検索条件から外すようにしています。待てば海路の日和あり。気長に待ちましょう』

 ユイが小さく笑った。

「へぇ、ブラックバーンね。ちょっと調べてみるか」

 私は携帯端末を弄り、全宇宙にあるネットワーク全てにアクセスした。

「うーん、確かにブラックバーンばかりだね。発送元は基本的に『アセス』だけど、発送先が怪しい星ばかり…。こりゃパスだね。船賃は常識外に高いけど、それ以上の代償を払うから」

 私は小さく息を吐いた。

「うん、やめた方がいい。こっちはこっちで積み荷情報を探っていたんだが、武器や兵器ばかりだ。中には禁止薬物もある。まさに、ブラックな荷主様だ」

 テレーザが苦笑した。

「あーあ、やっぱり。なんか、そんな気がしていたんだよね。まあ、私たちは気楽にやろう。中程に栄えればいい。それが、この会社の理念だからね!」

 私は笑った。


 とりあえず、タラントから離れる事にして、私はコンソールのキーを叩き、適当に船を流していた。

「さて、どこにいこうかな…。軽くていいから、休暇明けに仕事をしたいね」

『はい、調べました。どこもそこもそこら中の港は、ブラックバーンの荷物ばかりですが、それ故に輸送してくれる船会社がないと、かなりお困りのようです。大手のどの会社も、利のいい仕事を取るらしいようで』

 ユイが小さく笑った。

「って事は、そういう主流からはみ出した仕事はあるんだね。それをチマチマやっていれば、それなりの稼ぎがあるか。よし、そういう事ならちょっと前にいった、アランジでもいってみるか。あそこの貨物港なら、少しは仕事があるでしょ」

 私は笑った。

「おいおい、目立つ貨物港だぞ。そんな場所にいったら、トラブルの元かもしれんぞ」

 テレーザがチョコバーを囓った。

「大丈夫だよ。この会社なんて吹けば飛ぶほど小さいし、そういう荷物は大手の船団が押し寄せてかき集めていく。私の狙いは船賃が安いから儲けが少ないけど、地道に稼げるセコい仕事!」

「…はいはい、ウチらしいな」

 私の言葉にテレーザが苦笑した。

「よし、行き先が決まったら急ぐよ。ジルケ、頼んだ」

 私は航法士席に座っているジルケに声をかけた。

「はい、分かっています。もう、航法システムにデータを入力済みです」

 ジルケが笑みを浮かべた。

「相変わらず、仕事が早いね」

 私は笑った。

「使うのは航路879です。転送航路は故障で使えないという情報が入っていますが、この船には関係ありません。749に迂回して最短コースでいきましょう」

 ジルケが笑みを浮かべた。

「分かった。ユイ、フルオートで。アランジまで距離があるから、メインエンジンを少しだけ使ってね!」

『はい、分かっています。そこは、お任せ下さい』

 ユイが笑うと同時に、メインエンジンを全機一斉に作動させた。

 Gキャンセラの働きで船が軽く加速したように感じたが、本来は体が押し潰されてもおかしくない強烈な衝撃があったはずだ。

「ユイ、さっそくやったな!」

 私は笑った。

『はい、あと一分で停止して慣性航法に切り替えます。到着まで三十分程度です』

 ユイの声が聞こえた。

「了解。これで、少しリラックスできるね!」

 私は笑った。


 約二十分後、最大減速をかけながら進んでいくと、正面スクリーンに亀の甲羅のような特徴的な形をしたアランジステーションの姿が見えてきた。

「テレーザ、管制はなんていってる?」

 私はインカムを耳につけ、テレーザ問いかけた。

「それがな、第一エリアはブラックバーンから送られてきた荷物が限界まで集積されているから、できれば手を貸して欲しいといわれたが、丁重にお断りしてそれ以外の荷物を運ぶと強くいっておいた。さもなければ、アランジステーションをぶっ壊すぞってな!」

 テレーザが笑った。

「それ、脅迫だよね。全く、恨まれても知らないよ」

 私は笑った。

「フン、恨まれたところで害はなかろう。よし、第二貨物エリアへの誘導はもう始まっている。今は相対速度を合わせているが、特に問題ないだろう」

 テレーザがチョコバーを囓りながら、笑みを浮かべた。

「さてと、どんな仕事があるかな…」

 携帯端末でアランジのローカルネットワークにアクセスすると、仕事の詳細情報が流れてきた。

「うーん…ん?」

 私は思わずニヤッと笑みを浮かべてしまった。

「おっ、なにか見つけたな。どんなヤマだ?」

 テレーザが笑った。

「密かに待っていた、探査機の発射だよ。荷主が十名で探査機は三十機。いいねぇ」

 私は笑って、探査機の発射に関する依頼を全て引き受けた。

「ったく、また金にならん仕事を受けやがって。まあ、そういうのがお前らしいが」

 テレーザが苦笑した。

「探査機って事は、未知宇宙への片道切符を渡されても、健気に頑張るいい子でしょ。こういうのに、熱いロマンとエンジニアリングの魂がこもっていていい!」

 私は思わずコンソールパネルを叩いてしまった。

「熱くなるのはいいが、ちゃんと仕事しろよ」

 テレーザが笑った。


 アランジ第二貨物ターミナルの三十二番スポットに停泊し、スポットの与圧が終わり次第、いつも通りテレーザを伴ってタラップを下りた。

 スポットの床に立ってしばらく待つと、構内移動用のトラムに乗って、十名ほどの人たちがやってきた。

「さて、今回のオーダーはなんだ?」

 私は笑みを浮かべた。

 トラムから降りてきたのは、いかにも理工系という感じのおじさんやお姉さんが十名だった。

「代表して私が…。依頼を受けて頂いて感謝しています。失礼ながら、あなた方のレジュメをチェックしましたが、何度も探査機の発射を成功させた実績があるとの事だったので、全面的に信用して託します」

 お姉さんが軽く一礼した後、握手を求めて右手を差し出したので、私は笑みを浮かべてその手を左手で握った。

「それでは、今から積載準備に入ります。よろしくお願いします」

 十名がそれぞれ散っていったので、私はコミュニケーターでユイにカーゴベイを開くように指示を出した。

「さて、仕事は楽しまなくちゃね!」

 私は笑った。


 六時間ほどかけて探査機の積載作業が終わり、荷受けのサインと報酬を現金で受け取り、荷主の研究者十名がトラムに乗って去っていった。

 私とテレーザは、船に戻って積み荷のチェックをはじめた。

 搭載した各探査機には、このジュノーと制御ケーブルで接続されている。

 そのデータをみる限り、全てセーフティのまま大人しくしていた。

「ジルケ、各探査機の発射ポイントの設定は終わった?」

 私が聞くと、ジルケがコンソールのキーをひたすら叩いていた。

「もうすぐです。なにしろ、三十機ですからね。もう複雑で…」

 ジルケが苦笑した。

 三十機の探査機は、当然ながら向かう先が違う。

 そこを狙って精密に移動して発射しないと、失敗に終わってしまうのだ。

「また未知宇宙の探査だな。お前ほどじゃないが、なかなかロマンがある」

 テレーザが笑った。

「どこも無駄なの予算不足だの扱いは悲しいけど、大事な事だと思うんだよねぇ」

 私は笑った。

「そうだな。さて、さっそく出港しよう」

 テレーザが無線で管制とやり取りし、スポットの減圧が終わって牽引装置で引っ張ってもらい、いつも通り私たちは出港した。

「さてと、どこから攻めるか…」

 私はジルケが打ちだした最適コースを、コンソールパネルの上に表示されたデータをみながら、どうしたものかと唸った。

 三十機が三十機とも行き先が違うので、既知宇宙の周囲をグルッと回る事になる。

 どこからでもいいかと思ったら、発射ポイントにそれぞれ番号が振られた。

「これが一番効率がいいはずです。問題なければ、これでお願いします」

 ジルケが笑みを浮かべた。

「分かった、これでいこう。ユイ、航法データの設定お願い!」

『承知しました。久々に、忙しい仕事ですね』

 ユイが小さく笑った。

「うん。たまにこういうのがないと、退屈で寂しくなるからね」

 私は笑ったのだった。

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